京阪電車・寝屋川市駅から歩いて3分ほどの場所に、「NEFNE(ネフネ)」という、一見何をしているのかわからない場所がある。雑貨屋のように見えるが、本もたくさんあって、レンタルスペースもあって、聞きなれないようなテーマのイベントもやっているようだ――。


このNEFNEという場所を運営するのは、株式会社toitoitoi 。1981年に創設された精神科の医療法人・三家(みつや)クリニックを母体とした組織で、多機能型精神科診療所であるこのクリニックの院長・三家英明さんが、一人ひとりと向き合う精神科医療を続ける中で、医療だけでは解決できない部分‐暮らしや地域とのつながり‐を包括的に支援しようと生まれたのだそう。
精神疾患を持つ患者さんの家族も、同じように病を抱えることがままある――という世代間連鎖について、三家院長は地域との関係性に着目。「病気を治すだけではなく、もっと予防や、理解を促すことなども含めて、地域で何かできないかと。その思いから、株式会社toitoitoiが生まれ、そしてNEFNEが誕生しました」と、作業療法士の櫛田さんは、NEFNEが始まった経緯をそう話す。
医療にとどまらない。人と人としてかかわる仕組みづくり
ワークショップなどを通して、精神疾患の有無にかかわらず「自分らしく生きる」ことを地域で支える。そんな想いのもと、2017年9月、NEFNEはオープンした。
心のコントロールがしづらい時に握ることで、ふわふわの生地やシャカシャカ音が心を落ち着けてくれる「にぎにぎさん」がある。にぎにぎさんは、ドクターや支援職、当事者のアドバイスをもとに考案されたグッズで、フルオーダーも可能。医療と暮らしの間にある「こういうものが欲しかった」を、遊び心を持って形にしていく。

2階はキッチンのある談話スペースやイベントに使えるフリースペースがある。これらのスペースで、スタッフがものづくりや食のイベント、専門職による「めんたるゼミ」のような自主企画を月1回のペースで開催しているほか、映画会・俳句部・ボードゲーム部・手芸部などの活動が行なわれている。また持ち込み企画で、カレーの会やワークショップ、各種の自助会や家族会なども随時開かれており、親子連れや高校生も含め、幅広い年代の人たちが訪れる。
「地域とのつながり―特にお子さんは、いろんな大人との接点があるほうが精神発達上よいと言われています。閉じられた場所ではないところで、いろんな人とかかわる、いろんな経験をするということが、とっても大事なんです。クリニックの中だとやっぱり“医師”と“患者さん”の関係になってしまうけれど、そうでない場所では、“人”対“人”になれますよね」
「やってみたい」「かかわってみたい」が増える場所
NEFNEの外観やインテリアはもちろん、イベントのチラシやリーフレットなども、世間が持つ従来の「精神科」のイメージとはかけ離れた、間口の広さやポップさがある。スタッフは、デザインができたり、美大卒であったり、造形作家であったり。多くの人に何か自分でもやってみたくなるような、自由で開かれたイメージを持ってもらうのにスタッフの経歴が大きく貢献している。
デザイナーの野原さんは「以前は『いろんなイベントしなくちゃ、何ができるだろう』って頑張りすぎていたのですが、8年やっていく中で、一緒にやるメンバーを募るという形で“場づくりの会”という取り組みを始めたところ、『この場所で、自分も何かしたい』って思ってくださる方が増えてきました。いろんな人が入ると全然違う発想が出たりして、スタッフだけで頑張ってた時よりもっと盛り上がって楽しいですね」という。
取材で話を伺った日は、「UMAづくし展」なる展示イベントの真っただ中。ギャラリーには、未確認生物をテーマにした絵やオブジェなどがずらりと並ぶ。小学生〜80代と幅広い世代の人たちの作品展示に加え、期間中はUMAにちなんだライブやワークショップ、ゲーム大会といったイベントが催される。集まった人たちは、オリジナルUMAを描く参加型の創作を行なったり、地域の福祉事業所とコラボしたオリジナル・ツチノコクッキー(人気商品なのだそうだ)やコーヒーを楽しむ。
まるで細胞分裂のように、ささやかに楽しもうとする人たちがどんどんつながり、増えていくのだそうだ。




「ここは、社会の手前の、安心できる小さな場所というか、あんまりここでは『失敗する』というような概念がないので、『自分の得意を活かして、ちょっと小さな挑戦をしてみたい』と思わせる土壌があるみたいですね。買い物に来るでもなくフラッと来て、顔見知りになって、ちょっと話して…とやってるうちに仲良くなって、一緒に遊びに行っておられたり、相談したりと、何かしら化学反応みたいなことが起こっているようです」と野原さん。
いろんな人がいて、リカバリーしていける『汽水域』。その表明としてのビッグイシュー
そんな、カフェでも作業所でもクリニックでも本屋でもない、野原さん曰く「説明しづらい場所なんです(笑)」というNEFNEには、『ビッグイシュー日本版』が置いてある。

ここでビッグイシューを取り扱っている理由を問うと、「え…だって、ビッグイシューは、NEFNEに『あるもの』だと思いますし…」と説明に困るお二人。
言語化するのが難しいんですが、と櫛田さんは前置きしたうえで、「私たちはよく『汽水域』という言葉を使うんですが、いろんな人がいるんだ、とか、どんな人でもいていいんだ、というか、それがいいんだと。しんどいことがあってもリカバリーしていける、何度でもチャレンジできる、変化できる場所でありたいと思っているので、ビッグイシューには元々シンパシーを感じていて、違和感なく扱うようになりました」と説明してくれた。
そんなこともあり、NEFNEにある『ビッグイシュー日本版』は、基本的に立ち読みOKで、買いたいお客さんがいたら販売もしている、というスタンスだそう。
「NEFNEに初めて来られた方は、雑貨もあって、本もあって、お菓子もあって、ただの部屋もあって…という場所に、ここは何?と戸惑われる方も多いんですよ。かといってみんな説明も下手だし(笑)でも、ビッグイシューを置いてて読んでもらうと、NEFNEがどんな場所なのかが理解してもらいやすいという、何かしようとしてるんやな、ってわかってもらえる、“あると、ありがたい本”なんです」と野原さんは笑う。
全くもってガツガツした様子がないが、毎号のように買ってくれるお客さんや、ビッグイシュー目的で来店してくださる方もいるのだそうだ。
「どんな人も自分が心地いいように過ごせたらいいなと思いますし、つらいことがあるかもしれないですけど仲間と一緒にいる、だれかと繋がりを持って生きられたらいいなって思いますね」と、櫛田さんは笑顔で締めくくってくれた。

写真提供:NEFNE
NEFNE
〒572-0838 大阪府寝屋川市八坂町13-11
TEL 072-814-6690
京阪寝屋川市駅より徒歩3分
営業時間 10:00〜17:00(木・金・土)
https://www.nefne.website/
ビッグイシューの委託販売制度
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、カフェやフェアトレードショップ等、ビッグイシューの活動に共感いただいた場所で委託販売を行っています。
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