イラン戦争、懸念される核拡散ー核保有国が他国の核開発を非難する二重基準

米国とイスラエルは2026年2月28日、イランへの大規模な軍事攻撃を開始し、イラン国民に対して政権を転覆するよう呼びかけた。トランプ米大統領は攻撃後、SNSに「イラン政権による差し迫った脅威を排除し、米国民を守る」と投稿したが、脅威とは何だったのかは明らかではない。

米国のイランへの軍事攻撃で広がる、とめどない暴力の連鎖

開戦直後、イランの最高指導者ハメネイ師が殺害された。イスラエル軍が最高指導者事務所に対して行った最初の空爆によるものだった。ハメネイ師の家族、その場に居合わせた軍幹部らもともに死亡したという。また学校や医療機関を含む多くの施設や民家が攻撃を受けており、多数の死傷者が出ている。

両国からの攻撃開始後、イランもイスラエルに報復攻撃を始めた。合わせて米軍基地がある湾岸諸国なども攻撃し、多くの民間人に犠牲が生じている。周辺諸国もイランへの報復を開始し、とめどない暴力の連鎖が広がっている。

確かにイランは高濃度のウランを製造し、核兵器製造の懸念がぬぐえない。だが、イランの核開発問題は2015年にイランと米英仏独中露の6ヵ国が署名したJCPOA(包括的共同行動計画)が一定の成果を見せていた。しかし、第一次トランプ政権は18年、「バッドディール」と呼んで、この枠組みから一方的に離脱し、その後イランは濃縮ウランの濃縮度を高め、量を増やしていった。ましてや昨年6月に米国とイスラエルがイランに対して行った「12日間戦争」でイランの核施設は大きな被害を受けており、差し迫った脅威とはとても言えない状況だった。またイランの政治体制に多くの問題があるとしても、外国の武力による政権転覆は明確な内政干渉である。当然、多くの民間人の犠牲を伴う攻撃など許されるものではない。

イスラエル、秘密裏に核開発
混乱と絶望はテロリズムの温床

一方、米国とともにイランを攻撃するイスラエルは、1960年代、秘密裏に核開発を行った。同国は核兵器の有無を明らかにしないが、NPT(核兵器不拡散条約)を批准もせず、国際社会から実質的な核保有を黙認されている。そのような国が他国の核開発を非難し、武力で阻止しようとするのは明らかな二重基準だ。

25年の米国・イスラエルによるイランの核施設破壊は核不拡散条約の基盤であるIAEA(国際原子力機関)の保障措置枠組みを無視した一方的なもので、NPT体制を大きく毀損した。今回の両国による攻撃は、国際法に基づく世界秩序をさらに根底から掘り崩す暴挙だ。一方、イランが周辺国の民間施設を攻撃して多くの民間人を犠牲にし、また交通の要衝ホルムズ海峡を封鎖して、民間のタンカーを攻撃していることも、断じて許容されるものではない。

米国やイスラエルは核開発を口実にイランを攻撃している。だが、これまでハメネイ師らイランの指導層は核兵器製造を「ファトワ(宗教的裁定)」で禁じてきた。今回の攻撃はその重しを吹き飛ばした。著名な国際政治学者ジョン・ミアシャイマーが指摘していることだが、多くのイラン政府要人を殺害した結果、歯止めを失ったイランはさらに核開発に傾斜することだろう。地域の大国であるイランが混迷に陥った場合、イランが開発してきたウラン濃縮技術やミサイル技術、ドローン技術などが拡散することも懸念される。混乱と絶望はテロリズムの温床となる。

米国、イスラエル、イラン、そして参戦した周辺諸国は今すぐ停戦するべきだ。3月6日時点で、日本政府は米国に呼応して自衛隊をタンカー護衛に派遣する検討を行っている。だが多くの周辺国が戦争に突き進み、機能する仲介役が不在の今、日本政府にはもっと重要な役割がある。長年にわたり築いてきた米国や中東諸国との友好関係を最大限に生かし、一刻も早く対話のテーブルに着くよう働きかけることだ。(松久保肇)

まつくぼ・はじめ
1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。
金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など https://cnic.jp/

※2026-04-01 発売の『ビッグイシュー日本版』524号より原発ウォッチ第227回の転載です。

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