AIの見えないコスト:電力と水の大量消費に国連が警告

AIの普及により、電力や資源がかつてない規模で消費されるようになるーーそんな懸念に対し、「今後のAIモデル改良により、消費量は少なくなる」との楽観的な見方もある。しかし、AIの環境負荷を定量化した国連の新たな報告書*によると、この一見もっともらしい考え方には落とし穴があるようだ。ニュージーランドのワイカト大学法学部上級講師で技術と法律を研究するアマンダ・ターンブル-マクレーが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。

*国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)が発表した『Environmental Cost of AI’s Energy Use: Carbon, Water and Land Footprints(AIのエネルギー使用に伴う環境コスト:炭素・水・土地のフットプリント)』

同報告書では、2030年までにAIのエネルギー消費量は倍増し、世界の電力の3%を消費する可能性があり、炭素排出量は英国と同程度になり、冷却のために消費される水は世界人口の年間飲料水の需要を上回る可能性があると推定している。

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さらに、AIの利用は技術革新によって資源の効率性が向上すると、その資源の総消費量は「減少」ではなく「増加」するという「ジェボンズのパラドックス」と呼ばれる経済原理に従うことになるだろうとも予測している。これは、19世紀のイギリスで石炭利用にこの現象を観察した経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェボンズが提唱した経済原理である。効率性の向上によって全体の消費量は削減するどころか、むしろコストが下がることで利用が拡大し、全体の需要増がもたらされたのだ。

本報告書では、AIモデルがより安価で魅力を増すにつれ、新たな用途と利用量の増加が促され、効率性向上による節約効果は損なわれるどころか、消滅する可能性もあると予測している。そして、このパラドックスに陥らないよう、透明性、設計による効率性、公平性と正義、ライフサイクルの責任、国際協力、持続可能な利用という基本原則に基づく「責任あるAI利用」のロードマップを提示している。

桁違いの電力消費と水が必要なAIデータセンター

データセンターは2025年時点で既に、世界第11位の電力消費国であるサウジアラビア*と同量の電力を消費している。予測通り、電力消費量が2030年までに倍増した場合、それに伴う炭素排出量を相殺するには、10年間で67億本の木を植える必要がある。データセンターには9兆3000億リットルの水と、メキシコシティの約10倍の面積に相当する土地も必要となる。

*国別電力消費ランキング:https://www.globalelectricity.org/electricity-consumption-by-country/

資源利用の問題に加え、AIブームの根底にある構造格差についても警告している。AIに特化したクラウドインフラを保有する国はわずか32カ国で、その容量の90%は米国と中国に集中している現状がある。AIシステムを構築・管理する国と、それを利用する国との間のデジタル格差が拡大していること、後者は鉱物資源の採掘や電子廃棄物によって不均衡な環境負荷を負うことが多いとの指摘だ。

バリューチェーン全体のガバナンスにAI業界は責任を持つべき

AI運用が環境にもたらす影響を左右する主な要因は、「利用量」と「利用方法」の2つだ。これには、テキストやコード生成から、画像や動画の生成まで、AIモデルが実行するすべてのタスクが含まれる。各タスクによって必要な計算量は異なる上、AIシステムごとにエネルギー消費量と環境負荷も異なるため、AIモデルの選択も重要となってくる。

gorodenkoff/iStockphoto

本報告書では、責任あるAI利用には、鉱物資源の調達から、リサイクル、安全な廃棄まで、バリューチェーン全体のガバナンスが必要と主張し、AIの可能性と自然環境保護の両立を呼びかけている。これは、モデルとタスクの両方において環境情報の開示をAI開発の一環とし、気候変動対策やエネルギー計画にAI需要予測を組み込むことを意味する。

各国政府や公共部門でAI導入が推進されている昨今、「責任あるAI」は極めて重要な概念である。ニュージーランド政府は、国家AI戦略と公共サービスにおけるAIのフレームワークを策定した。OECDの価値観に基づくAI原則を参考にした枠組みではあるが、環境情報の開示は義務付けておらず、エネルギー使用量や排出量を集計する規制機関も存在しない。

オーストラリアでも公共サービスの改善を国家AI計画の一環としている。例えば、オーストラリア国立映画・音声アーカイブでは資料記録のために機械学習を活用した音声・動画の大量文字起こしエンジン「Bowerbird」を開発、退役軍人省では請求処理の迅速化におけるAIの有用性を検証する概念実証ツールを開発した。

両国とも、AIに対して意図的に「緩やかな」規制アプローチと原則に基づいたアプローチを採用しているが、これらのアプローチではAIの技術改善では解決できない増大する環境負荷を見落とす危険性がある。自然環境は経済、文化、そして人々の幸福の基盤であり、私たちの思考の中心に据えられるべきもの。AIイノベーションの戦略を見直し、持続可能な技術の未来へと焦点を移すべき時が来ている。

著者
Amanda Turnbull-McRae
Senior Lecturer in Law, University of Waikato
※本記事は『The Conversation』掲載記事(2026年6月3日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
サムネイル画像:Getty Images

The Conversation
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