私たちがパートナーと生活を共にするとき、共有するのは住空間、ライフスタイル、趣味だけではない。自分たちの身体の内外に生息する多種多様な微生物をも共有している可能性がある。
細菌、ウイルス、真菌から成る微生物の集まりを総称して「ヒトマイクロバイオーム」と呼ばれ、身体のあちこちに存在するマイクロバイオームは健康を保つ上で重要な役割を担っている。ノッティンガム・トレント大学微生物バイオインフォマティクスのコナー・ミーハン准教授らが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。
ヒトマイクロバイオームは、私たちの誕生の瞬間から、母親との関わりを通じて形成され始める。母親から受け継ぐ多様な微生物が、私たちの免疫系や消化器系を作り上げている。そして大人になってからも、身近な人々との関わり合いが、この繊細な生態系に影響を与え続けている。特に、生活を共にするパートナーは、マイクロバイオームを構成する微生物に多大な影響を及ぼし、腸内に生息する微生物の約30%を共有していると考えられている*1。パートナーと似通ってくるのは腸内の微生物だけにとどまらず、身体のさまざまな部位に存在する微生物も共有され、健康に影響していると考えられている。
*1Close social relationships correlate with human gut microbiota composition
同居パートナーがいる人は一人暮らしの人より腸内細菌が多様に
腸内細菌の組成に最も大きな影響を与えるのは食事や生活習慣と考えられているが、カップルを対象とした研究からは、パートナーとの生活環境も腸内細菌のあり方に影響を及ぼす結果が示され、腸内細菌の13〜30%を共有している可能性が指摘されている*2。これは、食事による影響を除外した場合にも当てはまる。同居パートナーがいる人は一人暮らしの人よりも腸内細菌の多様性が高くなるとの結果も示された。
*2 The person-to-person transmission landscape of the gut and oral microbiomes

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腸内細菌の多様性が高いことは、過敏性腸症候群、心疾患、高血糖のリスクを下げるとされているため、同居パートナーがいる人には朗報かもしれない。だが、必ずしも良いことばかりではない点に注意したい。
パートナー間で共有される菌種の中には、健康に対してさまざまな影響を及ぼすものがあることが研究で分かっているのだ。例えば、ルミノコッカス属の細菌の中には、健康に有益な種が存在する一方、糖尿病や過敏性腸症候群といった悪影響を及ぼすものと関連付けられる種もあり、異なる集団に対して必ずしも有益な効果をもたらすとはいえないのだ。これが、腸内細菌が健康に及ぼす影響の複雑さを浮き彫りにする。
キスで8千万個の細菌が交換されるー口腔内マイクロバイオーム
パートナーとキスをすることで、口腔内のマイクロバイオームも共有されている。10秒間のキスをするだけで、およそ8千万個の細菌が交換される*3。キスをする頻度が高ければ高いほど、共有される唾液細菌も増えることとなる。
*3 Shaping the oral microbiota through intimate kissing
こうした細菌のほとんどは、唾液を飲み込むことですぐに腸へと流れ込むが、研究からは、パートナー間では長期的に生息する舌表面の微生物の多くが共有され、それが口腔内マイクロバイオームの基礎を形成していることが分かっている。生活を共にするパートナー間では口腔内マイクロバイオームの38%が共有されているのに対し、共に暮らしていないパートナー間ではわずか 3%だった。
これだけの口腔内マイクロバイオームが共有されているとなると、健康面でもさまざまな影響が生じる可能性がある。健全な口腔内マイクロバイオームは虫歯予防に重要で、抗炎症作用もある。口腔マイクロバイオームの健康度合いが腸や神経系にまで及ぶ可能性を指摘する研究者もいる。
パートナー間では、腸内に同じくらいのナイセリア属細菌を保有している傾向が高い。ナイセリア属細菌は、病気を引き起こすことなく長期間にわたり口腔内に住み着くこともあるが、中には有害なものも存在し、髄膜炎を引き起こすおそれもある。(その一方、髄膜炎の原因となる菌と闘って、過剰増殖を防ぐナイセリア属細菌もいる。)相手の体調が悪いときにキスするのを避けた方がよいのは当然のことである。

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パートナー間で皮膚マイクロバイオームも共有される
皮膚マイクロバイオームは一人ひとり異なる極めてユニークなもので、「微生物の指紋」とも呼ばれる。最も外界にさらされている部位のため、気候や化粧品といった外的要因に適応しながら進化し、どんな状況下でもバランスを保とうと懸命に働いている。
パートナー(ペットも含む)との密接な接触は、私たちの皮膚に住み着く細菌に大きな影響を与えている4。腸内や口腔内のマイクロバイオームと比較しても、皮膚マイクロバイオームはパートナー間で最も類似性が高かった。共有されるのは腕や手の細菌だけにとどまらず、足に生息する細菌の35%、まぶたの細菌の約17.5%が共有されているとする研究もある5。パートナー間で皮膚マイクロバイオームの多くが共有されているのは明らかだが、それが健康に及ぼす影響については、まだ明らかになっていない点も多い。
*4 Cohabiting family members share microbiota with one another and with their dogs
*5 The Skin Microbiome of Cohabiting Couples
パートナーと皮膚細菌を共有しようと、ことさらに触れ合う必要はなく、同じベッドで寝る、似たような場所を歩くことだけでも、皮膚マイクロバイオームの類似性が高まると考えられている。これは、犬の毛が抜け替わるように、人間が自然に細菌を放出しているためで、私たちは触れるものすべてに細菌の痕跡を残すと同時に、まわりの環境から数多くの細菌を取り込んでいるのだ。個人の細菌サンプルから同居パートナーを86%の精度で特定するコンピュータモデルまで作成されている。
そこまで同居パートナーと細菌が共有されていると知ると不安に思うだろうか。細菌は、私たちの身体に感染症との戦い方を教え、食物の消化を助け、さらには重要な栄養素を作り出している。パートナーと共有する細菌の多くは無害で、健康を損なうどころか、有益な場合もある。パートナー間での細菌の共有が健康に及ぼす影響を正確に理解するには、さらなる研究が求められる。
著者
Conor Meehan
Associate Professor of Microbial Bioinformatics, Nottingham Trent University
Janelle Mwerinde
PhD Candidate, Skin Microbiology, Nottingham Trent University

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2026年3月23日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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