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賃貸住宅政策の再構築を ─公的住宅の拡大と、公的保障制度の導入、家賃補助の恒久化を



低所得、かつ不安定な雇用の拡大により、住宅購入が困難な世帯が増加している。戦後、持家取得の促進を中心に展開されてきた住宅政策を、住宅所有形態の選択に中立的な政策へと転換する必要性が高まっている。

賃貸住宅政策の再構築にあたり、まず、全住宅のわずか4%にまで落ち込んだ公営住宅ストックの供給量の拡大を図るとともに、老朽化した住宅の適切な改善・更新が求められる。次に、民間賃貸住宅市場を維持した住宅セーフティネットの整備が急務である。

公的援助を通じ、低所得者や高齢者、障害者、母子世帯等の生活困窮世帯が入居可能な、低廉かつ良質な民間賃貸住宅ストックの形成が図られることが求められる。

このような生活困窮世帯向けの賃貸住宅の管理・運営の主体として、民間非営利組織などが活用され、生活相談などのサービスも含んだ包括的な居住支援がなされることが期待される。

また、賃貸住宅市場へのアクセスを可能にし、家賃滞納を保証する公的な仕組みの整備が必要である。さらには、低所得者を対象とした家賃補助の恒久化が求められる。(川田)


住まいとケアの統合を ─有効なアウトリーチによる見守り



核家族化や単身世帯の増加、高齢社会の拡大、貧困や格差の拡大など社会構造の変化が大きい時代になっている。そのなかで特徴的なことは、家族相互の扶養や介護などに期待ができない状況が出てきたということだろう。

個人では解決できない家族問題や生活問題の社会化が求められている。介護や介助、生活支援、見守りなどのニーズを有する人々に対し、家族以外の人や社会が、対応していくことを求められてきている。

その前提において、住宅政策も議論することが重要だ。一人で暮らせないなら施設という従来の考え方を超えて、支援体制を組み合わせながら、住み慣れた地域で暮らせるように支える仕組みが必要となる。

例えば、地域で空き家となっている住宅を有効活用しながら、ケア付き住宅やシェアハウスとして、活用していくことも必要だろう。住まいとケアの統合を福祉や住宅の垣根を越えて議論し、新しい実践の取り組みを進めていくことが求められる。そのようなケア付き住宅には、ソーシャルワークなど社会福祉援助技術を学んでいる専門職人材を積極的に配置していくことが不可欠だ。

そして、孤立死対策でも有効性が明らかとなっているのは、アウトリーチによる見守りである。一人暮らしでは誰も訪問することがなく、異常があっても気づかれない。しかし、多少のケアを導入する工夫をするだけで、訪問者が常にいる状況を作り出せる。食事提供や介護等をしなくても話し相手や相談相手になるだけでも生きがいが持てる人々も多い。施設でもなく、住宅提供だけでもない見守り型の中間施設の整備が今後も必要となってくるだろう。(藤田)


居住支援体制をつくろう ─実現可能かつ、多様な支援プログラムの展開



2007年に制定された住宅セーフティネット法は、低所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯など「住宅の確保に特に配慮を要する者」が民間の住宅に円滑に入居できるようにするため、地方自治体ごとに居住支援協議会を組織できると定めている。居住支援協議会は、それぞれの地域の自治体、不動産業者、民間の居住支援団体等によって構成されるとしている。

国土交通省は居住支援協議会の設立を各自治体に呼びかけており、1協議会ごとに年間1000 万円の補助を出しているが、2013 年 5 月時点で協議会を設立している自治体は 32 団体(24 道県、2特別区、6 政令市)にとどまっている。

各協議会の取り組みは様々だが、なかでも注目すべきは、シングルマザーなどを支援する NPOと連携して空き家・空き室を活用したモデル事業を実施している東京都豊島区の居住支援協議会である。ただ、実際にモデル事業を進めると、空き家の家主の理解がなかなか得られない、空き家が現在の耐震基準を満たしていないので活用できないなどの問題が生じているそうだ。

それぞれの地域の実情にあった居住支援プログラムを実施していくためには、行政と不動産業界、居住支援 NPO の連携は不可欠である。住まいの貧困が深刻化している大都市部では、すべての基礎自治体で居住支援協議会を設立してほしい。そしてすでに設立している自治体でも、市民に開かれた議論を行なうことで、協議会を活性化してもらいたい。(稲葉)


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