こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集部のイケダです。5月18日に行われた「住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編」の内容を書き起こしたのでご共有いたします。「住宅政策」が必要な理由がわかる骨太なレポートとなっておりますので、ぜひお時間をとってご一読ください。



住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編

佐野:
みなさん、こんにちは。ビッグイシュー基金の代表をしております、佐野章二です。今日は残り少ない春のいい天気に、わざわざシンポジウムに足をお運び頂きまして本当にありがとうございます。

ビックイシューも昨年10周年を迎えましたが、もっともっと早くこの「住宅問題」をやりたかったんです。実は、政府でも、たとえば国交省系の住宅政策、社会福祉系の住宅政策、厚生労働省系の住宅政策とかバラバラなんですね。

これだけ格差が広がって貧困が問題になる中、本当の意味で生活基盤としての住宅があるのか?ないのか?あるいは住宅の豊かさ、そのことが貧困問題解決の切り札と言っていいくらいの重みを持っているのではないかと、委員のみなさまと考えていきました。

お手元にございます「住宅政策提案書」ですが、まずは我々市民が、住宅問題は個人の甲斐性の問題だとどうしても考えがちなんですが、そういう意識から変えていかないと住宅政策はかわらないのではないか、ということで作ったものでございます。

現在、住宅政策提案書は6500冊配布し終えております。オンラインでも3000冊くらい見て頂いておりますので一万人弱の方々に住宅問題を考える素材として活用をして頂いている状況でございます。

今日は一部から三部までの長丁場ですがどうかお付き合い頂きますようによろしくお願いいたします。それでは住宅政策委員会にバトンタッチいたします。住宅政策委員会を代表して稲葉さんから一言ご挨拶頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。


稲葉:
みなさんこんにちは。住宅政策提案委員会を代表いたしまして、稲葉の方からご挨拶させて頂きます。住宅政策提案委員会は今ご挨拶をして頂いた、ビックイシュー基金さんのほうで予算を組んで頂き、そして事務局体制を作って頂きまして、平山洋介委員長のもと昨年半年間かけて議論を重ねてきました。

そして、お手元の提案書を作らせて頂いて、昨年12月には東京でこのようなシンポジウムを開かせて頂きました。今日は、東京に続いて第二回目のシンポジウムということで、こうしたかたちで議論、アクションが広がっていくことを本当に心から願っています。

私は東京でNPO「もやい」という団体でホームレスの方々を支援しています。ビックイシューさんもそうですし、私たち「もやい」もそうなんですけど、住まいを失った人たちを支援する団体の立場からすると、住宅の問題というのはホームレスの人たちだけじゃなく、みんなの問題であるはずなのになんで広がっていかないのだろうという思いをもってずっと取り組んできました。

住宅だけでなく、雇用、医療、介護、福祉、教育など様々な社会問題がありますけれども、住まいというものは誰もが当事者であり、そこから外れることはないわけですね。それにも関わらず、残念ながら日本の社会のなかでは、政治、行政、教育、アカデミズムの領域でも重視されてきたとはいえない部分があります。

特に住宅政策という点に関しては厚生労働省、国土交通省というような行政の縦割りの問題もあってですね、本当に当事者の視点に立った政策というのがなされてこなかった。そのひとつの現れがホームレス問題であり、住まいと貧困の問題ではないかというふうに考えています。

私たち市民ひとりひとりが、当事者の問題として、話し合い、議論し合ってアクションを起こすことによって少しづつ状況を変えられるのではないかと、そういう願いを持って今日のシンポジウムを始めさせて頂きたいと思っています。最後までよろしくお願いいたします。ありがとうございます。



佐藤:
第一部の進行をさせて頂きます、佐藤と申します。お時間もありませんのでお二人の方からお話をお聞きしていきたいと思います。第一部は「いま、なぜ住宅政策?」ということで「住宅困窮者のいま」と「民間借家活用の可能性」というテーマにしております。

最初は徳武聡子さん。大阪で司法書士をされながら反貧困ネットワーク大阪事務局長もされております。「住宅困窮者のいま」ということでご講演頂ければと思います。


住宅困窮者のいま

徳武:よろしくお願いします。司法書士の徳武と申します。「住宅困窮者のいま」という非常に大きなテーマを頂いてしまったのですが、私も住宅全体の問題を把握している訳ではありませんので、ごくごく一部のお話をさせて頂くことになるかと思います。

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住宅困窮者というのはどういう立場の人がいるかというとですね、いろいろな立場の方がいらっしゃると思うんですね。

とりあえず今は安定した住まいを持っていない人、野宿状態であったり、ネットカフェにいたり、脱法ハウスにいたりとか。

あるいは、自立して生活しようにも家が借りられない、あるいは、借りたい家が自分の適正に合っていない。劣悪な住居に住んでいる。それから、一応きちんとしたアパートには住んでいるけど、家賃が払えなくていつ追い出されるか分からない不安にさらされている。あるいは、大家が立て替えるか、立ち退けと言ってきたと。

それから最後は、住宅困窮者というカテゴリーに入るかどうか分からないですけど、住んでいるけど孤独で仕方がない、というのも、ある意味「住まう」上での困窮状態といえると思います。

私が今日お話しさせて頂くのは、この4番目の「アパートに住んでいるが、家賃を滞納しがちで、いつ追い出されるかわからない不安に曝されている」という、いわゆる「追い出し屋」の話をさせて頂きます。


追い出し屋問題のいま

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徳武:「追い出し屋問題」というのをお聞きになったことがある方いらっしゃるでしょうか?2008年頃から社会問題化され、今は世間の関心も薄れてしまっているのですが、家賃債務を保証する業者や不動産の管理業者・大家さんが、1ヶ月~数ヶ月の家賃滞納を理由として、生活の平穏やプライバシー権を脅かす取立行為に及んだり、鍵を交換して入室を不可能にしてしまう、あるいは、無断で借りている居室内の家財道具を撤去処分する問題。こういった問題を「追い出し屋問題」と呼んでいます。

2008年頃に社会問題化しまして、東京、大阪、福岡、愛知で法律家団体が相談活動などをしております。

まずここで、基本的な契約関係をおさらいします。基本的に家主がおり、借りる人がいます。この間は賃貸借契約ということで、借りる人は家賃を払います、それから家主は家を貸します、という契約になっています。

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そこに絡んでくるのが管理会社です。これは毎月大家さんから「家賃を集めてちょうだい」といわれて集めます。あるいは、家賃債務の保証会社は、これは家賃滞納があった場合、保証人の立場ですので、入居者の代わりに家賃を大家に払うということになります。後から、立て替えた分を「支払ってくださいね」と入居者に取り立てをする、入居者はそれを支払う。

…という構造になっているのですが、これが家賃を滞納すると、たちどころに管理会社も「出て行ってください」家主も「出て行ってください」保証会社も「出て行ってください」という話をすることになってしまうんですね。

…という構造になっているんですが、これが家賃を滞納するとたちどころに、管理会社も「出て行ってください」家主も「出て行ってください」保証会社も「出て行ってください」という話をすることになっちゃうんですね。

法的には、本当は「出て行ってください」といえるのは家主さんだけなのですが、なぜか管理会社とか保証会社も「出て行ってください」という話をすることになります。そこがそもそも法的にもおかしいという話もあるのですが、この話はちょっと置いておきます。


「払えないなら出て行け」と張り紙を張られる

徳武:では、どういった人たちが追い出し屋の被害に遭うかということなのですが……少し古いデータですが、2011年に全国で追い出し屋被害にあった110番通報の結果をまとめたものがあります。

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全国で100件近い相談が寄せられました。どういう被害が生じているかというと”ロックアウト”「鍵をかけられてしまう」「鍵を交換されてしまう」というものが、この頃は、被害としては一番多かったです。それから”私物撤去”といいまして、鍵を開けて部屋に入ると中ががらんどうになっていることです。”張り紙”をする「早く出て行ってください」というものですね、それから”過酷な取立”をする。

で、過酷な取り立てがどのようなものかというと、私が大阪で関わった裁判のなかには、毎日、「滞納した家賃を払え」「払えないなら出て行け」と赤い字で大きく書いたものが張られるとか、夜7時くらいに玄関の呼び出し音を3分くらい鳴らし続ける、あるいは夜中の3時に携帯に電話をかけてくる。着信記録を見ましたけれど、もう、何十回とかけてくる。それから、違約金だといっていくらか取るとか、「出て行きます」という念書を取る。あるいは、福岡では家に入ってきたというような被害もありました。

これはやっぱり社会問題になって、「ロックアウト」という鍵交換の被害は減っているのですが、逆に上から5番目の”念書”ですね、「いついつまでに払わなかったら退去します」とか「荷物撤去されてもかまいません」みたいな念書を無理矢理書かせて出て行かせる、というものや、しつこい取り立て、こういった被害はまだまだ続いています。

ひところに比べて相談件数は減ってはいますが、やはり、相談自体はまだなくなっている訳ではないです。どういう人が追い出されてしまうのかというと、被害に遭うのは、家賃を払いにくい状態になっている人、何かあったときにすぐに滞納状態に陥っていく人です。

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これは、追い出し屋110番を行ったときの相談者の職種データですが、やはり、一番多かったのは無職、求職中。それから、自営業、日雇い、タクシー運転手、アルバイト、パート、派遣と非正規雇用であったり、自営業で収入が不安定な人が多いです。正社員も相談者の中にはいるのですが、どういう正社員かというと、よくよく聞いてみると、ケーブルテレビ会社の営業ですとか、介護職、解体業、駐車場の管理、あるいは理容師さんなど、実際には日給月給だったり、賃金が低かったり、歩合制だったりして正社員だからと言って収入が安定していない人が、やはりこういう追い出し被害に遭っています。

それから出身地を聞いてみると、相談を受けたのは東京、名古屋、大阪、福岡という都会なのですが、やはり地方から都会に出てきている人、実家には今更戻れませんという人、戻っても頼れませんという人が多いです。単身者か家族連れかについては、差はありません。家族連れでも子供がいても追い出されたりしています。

非正規雇用の割合は非常に増えています。データで見ていきますが、これは国土交通白書2013からとったものです。

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住宅全体の中では一戸建てとかどのようなものが多いかというと、持ち家:貸借は6:4、これは平成20年のデータです。

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しかし、これが40歳未満の単身世帯になると圧倒的に借家が多いです。6.7:93.3と10倍以上の差が開いているわけです

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そうやって若い単身者の借家住まいが増えている。若い人には非正規雇用、単身世帯が増えていますので、今後もこういった、家賃がなかなか払えずに追い出されやすいというような被害がずっと続いていくのではないでしょうか。

どうしてこのような問題が起こるのか、という背景ですが、まず少しでも家賃滞納というリスクを避けたがる家主さんが多い。だから家賃債務保証業者を使う。おかげで家賃保証業者の営業は拡大していて、年々売り上げを伸ばしています。家賃を滞納しているのだから何をしてもいい、と追い出す側は思っている節がありますね。

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逆に、追い出される側は、自分が家賃を滞納している負い目がありますから、何をされても反論してはいけないと思い込んでいます。従って、追い出し被害は世間に表れにくいです。そういった自己責任論が非常に蔓延していて、世間の理解も得られにくい。中には、自殺未遂までしてしまう人もいます。

それからもうひとつは、住まいに対する価値観がとても変わってきていると思います。住まいというものは、本当は自分が安心して過ごせる場所、自分のプライベートが保てる場所であるのですが、たとえば、脱法ハウスのような狭いところ、ネットカフェのようにプライベートがあまり保てないところでも暮らしている人がいます。狭くてもとりあえず雨風がしのげて、ほんのわずかなプライバシーが保てればOKではないか、というように、住まいに対する認識が変化してきている、これが、こういった追い出し屋問題ですとか、住宅困窮の問題につながっているのではないかと思います。

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追い出し屋問題いついては、2008年に社会問題になったときに、法律を作らなくては駄目だと言うことで、2010年に通常国会に法案が提出されました。追い出し屋としてひどかった家賃債務保証業者に対しては登録制を導入し、野放し状態ではなくて国がきちんと監督する。家賃の取立についても行為規制をもうけようという話になりました。ちなみにサラ金などの貸金業者には貸金規制法で取立行為は既に規制されています。

それから、家賃滞納のデータベースについてもひとまずの規制をすることにして、2010年の通常国会に提出されてすぐに参議院全会一致で可決しました。私たちは、衆議院でも可決すると見込んでいたのですが、ちょうど政権交代やら何やらでややこしい政治的なことが起こり、ずっと棚上げ審議になったまま廃案になってしまいました。

結局、法規制がされていないので、このような問題は止むことがないのです。今年も4月に東京で鍵交換されたという被害で、提訴するという事案があります。今後も私たちは法規制の必要性を訴えていきたいと思っています。

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ところで、今までは追い出し屋の問題を話しましたが、私は生活保護の問題にも取り組んでいます。最近、このような問題が増えているのでみなさんに知って頂きたいと思っています。住宅扶助の抱える問題ですね。普段の家賃分以外に、敷金や引っ越し代など一定の理由があれば生活保護から支給され転居できるシステムにはなっています。

ただ、支給事由に該当しても、現場の判断で「うちはダメ」「そんなんじゃ出せない」といって、生活保護から支給されない、という相談が最近増加しています。この敷金支給事由は、そもそも、支給事由自体が厳しくて今の時代に合っていません。

たとえば、入居者が高齢化して住みにくくなったと相談しても、暮らしにくいからといっても、それでは出せないというふうになってしまいます。あるいは、たとえば、精神疾患を持った方が、親の理解を得られなくても生活保護を利用して親との同居状態から自立したい、という場合でも、その独立のための費用を出す、というふうにはなっていません。

だから、結局、親御さんのところにずっといなければいけないということにもなります。もちろん、生活保護以外にも障害者支援の部分で対応できる部分はあるとは思うんですけど、今のところ、こういったニーズに制度が合っていないということを実感します。

また、今は家賃が高くなっていて、どうしても生活保護の基準内の家賃で暮らそうとしたら、劣悪な住居にならざるを得ないとか、そういった問題もあります。こういったことも、みなさんに知って頂ければと思って今日は話をさせていただきました。


part.2に続く




住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編

part.1
徳武聡子さんが語る「追い出し屋問題」のいま:目立つ過酷な家賃取り立て(本記事)

part.2

part.3


part.5


part.7

part.8

part.9

資料
「住宅政策提案書」:2013年11月1日