(2012年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 202号より)
福島県健康調査委員会、事前に秘密会合
報道によれば、福島県の県民健康管理調査の検討委員会(山下俊一座長)は公開で開催される委員会の前に事前に秘密会合を開催して、会合での発言内容をチェックすると同時に、会の進行を打ち合わせていた。この秘密会合について、委員たちは口外しないことが求められていたという。
県民健康管理調査は福島原発事故によって「健康に不安を抱えている状況を踏まえて」、「長期にわたり県民の健康を見守り、将来にわたる健康の増進につなぐことを目的」として実施されている。
健康管理調査の中には甲状腺検査が含まれており、18歳以下の約36万人の子どもたちに順次、検査を進めている。この2年間に約8万人が受診した。その結果では、甲状腺に結節や嚢胞が発見された子どもたちは40パーセントに達している。明らかに多いと指摘されている。
そんな中で、昨年9月に甲状腺がんの事例が1例見つかった。これだけでは事故の影響と断言できないが、同時に確実に否定することもできない。にもかかわらず、秘密会合において、がんと福島原発事故の因果関係はないと19人の委員たちは口裏を合わせて公開の会合に臨んでいた。
原子力委員会が事業者を交えて秘密会合を重ねて審議会の議論の方向性を決めていたことが4〜6月に大きな話題となった。これは、福島原発事故によって生じた原子力政策への大きな不信をさらに増大させる結果となり、社会的に強く糾弾された事件だった。結果として原子力委員会は原子力政策をまとめることができず、委員会の存続を含めて議論されることとなった。
この大事件の後も、福島県では内容は異なるものの、秘密会合を続けていたことになる。そして、秘密会合が明らかになると、福島県の鈴木正晃総務部長を委員長とする調査委員会を設置して事態を究明、わずか4日間の調査結果として「事前の意見調整や口止め、(県による)振り付け等の事実は認められなかった」とした。
秘密会議の存在自体が、委員会の信頼性を大きく損なうことになったことが反省されていないようだ。県民の不安と正面から向き合うことが求められている。
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)