(2009年12月15日発売、ビッグイシュー日本版133号より転載)
一年中で最も空が澄み渡るこの季節、夜空を見上げて冬の星座を探してみよう。ちょっとしたコツさえ知っていれば、都市部に住む人だって星空を満喫できるのだ。星空観望をする際のポイントと、プラネタリウムの活用方法などを嘉数次人さん(大阪市立科学館)に聞いた。
明かりの少ない場所を探し 暗闇に目を慣らすのがコツ
冬の夜空を見上げると、まず目に飛び込んでくるのは三ツ星が輝くオリオン座。そして、その周りを囲むようにして浮かぶのが、おおいぬ座やふたご座だ。しかし、ネオンや街灯の明かりが邪魔をする街中では、星空なんて楽しめないのでは……。そう思い込んでいるとしたら少しもったいない。
「見える星が明るい2等星や3等星に限られている都市部のほうが、逆に星座を探しやすいかもしれません。それに、ちょっとしたコツさえ知っていれば、街にいても星空を楽しむことはできるんですよ」
そう話してくれるのは、大阪市立科学館の天文担当の学芸員、嘉数次人さん。そのコツとは……。
「まず、繁華街のど真ん中から少し離れてみましょう。それだけで明かりの量は意外にもグッと減るんです。少しずつ街の中心部から離れて、できるだけ人工の明かりの少ない場所を探してみてください。できれば空を広く見渡せるところがいいですね。高い建物が多いと、どうしても空が隠れてしまいますから」
たとえば、大きな公園や住宅街などは、比較的明かりの量が少ないといえる(※)。場所が見つかれば、次は暗さに目を慣らすことが大事だそうだ
※星を見るために明かりの少ない場所を選ぶため、安全面には十分な考慮が必要だ。出かける時は一人で行動せず、家族や友人などのグループで行動してほしい。懐中電灯や防犯ブザーなども役に立つ。
「明るいものを見ていた後は、暗いところにあるものが見えにくいですよね。ですので、夜空を見上げる前は5分間ほど明るいものを見るのを避けてください。すると、目の感度が上がって、淡い光も見えやすくなるんです。外へ出かけずに家のベランダから星を見ようとする場合も、まずは部屋の電気を消して暗闇に目が慣れるまで待つこと。そんな小さな工夫も、星を見るためには必要なんです」
11月のしし座流星群、12月のふたご座流星群、1月のしぶんぎ座流星群など、いわゆる「流れ星」もぜひ見てみたいもの。流れ星を観測する場合は、空を360度見渡せるよう、ゴロンと寝転べる場所が理想的だ。立ったまま特定の方角だけを眺めていても、その瞬間に逆の方角で流れていることもある。わずか数分間眺めただけで「見えなかった」とあきらめず、できるだけ視界を広げられる体勢になり、根気よく待つのがよいそうだ。
冬が天体観測に適した季節といわれるのはなぜだろう。通常、空気中には小さな塵や埃がたくさん舞っていて、それらに光が反射して空はうっすらと白ばんでしまう。それが星を見つけにくくしているのだが、「この季節はピューっと吹く北風が塵や埃を吹き飛ばして、空を澄み渡らせてくれます。風の強い日は寒いのですが、空を見上げるにはお勧めの日なんですよ。月の出ていない夜なら、さらに条件が揃っているといえるでしょう」
プラネタリウム通い 人生で3回以上に増やしたい
コツを心得たとしても、どの方角にどんな星座があるのかがわからない。そういう場合には、市販されている星座早見盤などが役に立つそうだ。盤の上で日と時間を合わせるだけで、その時に見える星座が方角とともに示される。このほか、星や星座について書かれた本やサイトを参考にするのもいい。また、プラネタリウムも星空観望の予習には最適だという。
「プラネタリウムは、都会にいながらにして気軽に満天の星空を体験できるというそれ自体の楽しみがあります。それに、本などでは星空は平面でしか確認できませんが、プラネタリウムはドーム状。星が見える方角や高さなどが実際に近い形で投影されるので、天体観望をする前に見ると大いに参考になるんです。ちなみに、人は人生で3回プラネタリウムに足を運ぶといわれていて、最初は子ども時代、次は恋人とのデートで、そして、親になり子どもと一緒に。できれば、3回ではなく4回5回……と何度も来ていただきたい。季節ごとの星空、その時に注目されている天体など、見るたびに発見がありますよ」
各地のプラネタリウムではそれぞれに趣向を凝らしたプログラムが上演される。大阪市立科学館ほか幾つかの施設では、投影される星空に合わせ、専門の学芸員が旬の天文ニュースを盛り込みながらアドリブで説明をしてくれる「なま解説」が人気を集めているそうだ。「大枠は前もって決めていますが、上映のたびに大人が多いか、子どもが多いかによっても臨機応変に内容を変えています」と嘉数さん。
プラネタリウムを備えた施設は全国に約300あるそうで、実は日本はアメリカに次ぐ世界第2位のプラネタリウム大国。日本初のプラネタリウムは1937年に大阪市立電気科学館(現・大阪市立科学館)に設置されたドイツ製のもので、当時は星空への関心というよりは、電気を使ってこんなことができるという意味合いで設置されたという。
「とにかく、星空観望に王道なし。情報を集めて予習を十分にすることで、星を見上げるのが一層楽しくなっていきます」
手頃な望遠鏡キット 各地の観望会もおすすめ
もっと星空に迫りたい。そんな時に役立つものにはどんなものがあるだろうか。
「高価な天体望遠鏡を買わなくても、数千円で市販されている組み立て式の望遠鏡キットで十分に星の世界を満喫できます。筒はダンボールでできているので軽くて丈夫、自転車の前かごにポンと入れて持ち運べます。とはいえ、レンズはしっかりしたものが使われているので、35倍の倍率のものなら土星の環や月の模様まで見えるんですよ。それでも物足りないと感じたら、天体望遠鏡など次のステップに進んだらよいと思います」
本やプラネタリウムなどで予習をし、まずは自力で星を探す。それが徐々に楽しくなってきたら、「観望会」などへ参加するのもお勧めだという。
「地域の科学館では星空を楽しむ観望会が開かれています。専門家が解説してくれますし、質問もできるので、そのような会に参加するとさらに星との距離が縮まるかもしれません。郊外まで足を延ばせば、さらに大きな望遠鏡と宿泊施設を備えた天文台もあり、さらなる宇宙の広がりに出合えますよ」
(松岡理絵)
(プロフィール)
かず・つぐと
大阪市立科学館主任学芸員。大阪教育大学と同大学院で教育学と天文学を学ぶ。専門は科学史で、特に江戸時代を中心とした日本の天文学者たちがどのように宇宙を探求してきたかについて関心をもっている。
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