ソーシャルワークの視点を持った就労支援を
NPO法人POSSEは東京を中心に、労働相談や生活相談事業を行っている団体です。仙台POSSEはその支部として、震災直後から、被災者支援を続けてきました。
ビッグイシュー基金が発行した「被災地の路上から vol.2」では、仮設住宅への引越し手伝い、送迎バス運行、子どもたちへの学習支援の取り組みについて、話を聞かせていただきました。今回は、2012年4月より新たに始めた就労支援の取組みについて、事務局の青木耕太郎さんに伺いました。
就労支援という新たな取り組み
震災直後、避難所から仮設住宅への引越しの手伝いを皮切りに、被災した人たちの話を聞き、送迎バスの運行、子どもたちのための学習支援など、そこで必要とされていることに対応する形で支援を続けてきた仙台 POSSE。2012年4月からは、仙台市からの要請を受けて、被災状況に関わらず、仙台市内に住む人を対象に就労支援・無料職業紹介事業をはじめた。
「なんでもよいから、とりあえず仕事」ではなく、「利用者が希望し、生活の目処が立つ仕事に就いていただくこと」を目指しているという。
「ただ求人と求職者のマッチングをするというより、利用者の職業能力の開発や、キャリアリテラシーの向上を目指して支援をしています」と青木さんは言う。現在、支援対象者の状況にあわせて「生活支援」「就労準備支援」「マッチング支援」「就労継続支援」といった4つの側面から、就労支援の枠にとどまらない伴走型支援を行っている。
「就労支援つき就職活動セミナー」といった就活セミナーを開催するなど、アウトリーチ活動もあわせて行っているが、利用者の年齢は30代と40代が中心で、「生活困難者」が多いという。
開所から2013年4月末までの13ヶ月で、約80人の利用があり、21人の就職が決まった。うち、65名が仮設住宅に住んでいる。
「就労支援の実績としては、数字はそこまで高くないでしょう。しかし、(貧困、障害、疾病、介護、子育てといった条件があり)ハローワークなど既存の職業紹介所で仕事を探すことが難しい人が多いため、数字では計れない部分があります。効果を数字だけを追ってしまうと、プロセスがおろそかになってしまう危険があると考えており、数字にはしにくい成果も大事にしたいと思っています。」
求職者ががおかれている状況と必要な支援
仙台市内の有効求人倍率は震災後上向きで、数字上は1倍を超えている。しかし、よく見ると職種ごとに偏りがあることがわかる。
管理:0.89
専門・技術:1.71
事務:0.34
販売:0.77
サービス:2.14
保安:17.34
生産工程:1.18
輸送・機械運転:3.44
建設・採掘:5.16
運搬・清掃・包装:0.58
募集が多い職種は、暫定的に需要が高まっている「建設・採掘」「輸送・機械運転」といった期間限定の土木関連の職種や「保安」など不安定なサービス業、もしくは専門的な資格や免許が求められる仕事で、誰もが就ける仕事ではない、と青木さんは言う。
一方で「事務」や「運搬・清掃・包装」のような軽作業の求人はそれほど増えていない。「仕事はあるけれど、求職者の希望や技能と求人内容にミスマッチが起きています。また、被災で転居された方は、知人のつてを利用できない、見ず知らずの土地で孤独な就職活動をせざるを得ないなど、一層不安定な状況にあります」。
個別のケースから見えてくることも多い。あるとき、シングルマザーで子育て中の人が相談に来た。事務で働いていた経験もあり、震災後は雇用保険で失業等給付を受けていたが、給付時期が切れる寸前だった。本人は「安定していて、子育てと両立できるパート勤務」の仕事を希望していたが、話を聞くと、子どもを預ける先がなく、就職活動もままならないということがわかった。仮設住宅に入居していて住む場所はあったため、子どもの保育園を決めることが先決ということで、保育園探しから一緒に始めた。
「この方の場合、雇用保険と住む『家』があったため、時間的に少し余裕を持って就労支援を行うことができました」と青木さん。「もし、雇用保険や住む家がなかったら、すぐにできる仕事を、できるだけ早く始めなくてはならないという状況になります。そうすると、すぐ始められる低賃金の仕事についたり、生活をするために複数の仕事を掛け持ちしなければならなくなり、子どもと過ごす時間がなくなることになります。それは避けたかった」。
現在、宮城県では、雇用保険の失業給付の期間延長や医療費や国民健康保険料、国民年金保険料の免除期間の延長措置も終了しているが、青木さんはこれまでの経験から次のように語る。
「各種支援はときに『就労意欲を妨げている』と非難されることもありますが、慎重に仕事を選ぶ余裕が生まれることで、望まない、または劣悪な労働を選ばざるを得ない事態を防ぐ効果があったと考えています。「被災者」から「普通の人」となったときに、日常の制度の中で利用できる、柔軟な保障制度が求められています。」
ソーシャルワークの視点を持った就労支援を
「私たちは、就職先との単なるマッチングとは考えていません」と語る仙台POSSEでは支援開始時の面談(インテーク)で丁寧に利用者の状況や就職のハードルになっていることについて、聞き取りを行う。その上で、就労を困難にしている要因を把握、分析し、それらを取り除くための支援計画を当事者と共に作成し、実施している。
「一般的に、就労に困難を抱えていると聞くと『意欲がない』など、とかく本人の責任にしがちです。しかし実際は、本人の意欲の問題だけではなく、求人内容に問題がある場合も多いですし、それまでの経験が労働意欲を奪ってしまっていることもあります。」相談者との信頼関係のもと聞き取りを行うことで「なぜ働かない(働けない)のか」ということが明らかになる、そこからはじめるのだと青木さんは言う。
相談者が来所した後の支援の流れは、下記のようになっている。
1. インテーク(支援開始時の面談):利用者との関係性構築、状況把握
2. アセスメント(利用者の情報収集):利用者のニーズ、就労阻害要因の把握
3. 支援の実施:就労阻害要因を取り除くアプローチ
4. モニタリング(支援内容の検証):支援プランの妥当性確認、本人の状況変化の把握
仙台市の担当者とは2週間に一度ケース会議を開き、個々の相談者に関わる問題解決の方法について、話し合いと情報交換の場を設けている。
一つひとつのケースに応じて「一緒に知恵を絞り、柔軟な対応策を講じる」といった協力関係ができてきているという。この他、月に2回ほど、外部のアドバイザーを招いてケース会議を開いている。これは、個人が抱える問題の全体像を捉え、利用者が主体の支援ができているか、他に活用できる資源はないかなどを外部の専門家の視点を取り入れて徹底的に話し合うためだそうだ。
「POSSEでは、『就職できた』がゴールではなく、その人の人生を豊かにする、安心して生きていくための生活基盤づくりをお手伝いしたいと考えています。そのためにも、就労支援と生活支援をセットにして、個々人の問題に寄り添うような、ソーシャルワークの視点を持った就労支援を行うことを目標にしています。」
急務、求職者支援制度と生活保障制度の充実
「POSSEで就労支援を希望される人のうち、およそ4分の1は傷病者です。本来、就労しているか(していたか)に関わらず所得保障をされるべき人が、制度の不十分さから労働市場にかり出されているのでは?という思いがあります」という青木さん。就職支援を行う一方で、就労困難者(傷病者・高齢者・障害者等)の最低所得保障の必要性についても訴えていきたいと語る。
また、職業訓練制度やその他の制度を利用している間の所得保障が不十分であるため、資格の有無が就職に大きな影響を与えているのにも関わらず、生活に余裕のない求職者ほど資格や技能をなかなか習得できず、貧困状態から抜け出せない状況があるという。
「職業訓練の期間や質にも問題があります」という青木さんに、「就労困難者」が就労できるために必要な制度を聞いたところ、次の答えが返ってきた。
「しっかりとした技能を身につけられる職業訓練校のような長期プログラムの提供と、訓練を受けている間、無収入でも暮らしていけるだけの最低所得保障ですね」。
今後は生活支援とセットになった就労支援の重要性を発信するほか、就労した人たちへ自ら人権や働く権利を守れるよう「労働法」の知識を身につけたり、就職活動中の若い人たちが励ましあえる「仲間作り」の場なども作っていきたいと語ってくれた。