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<ハウジング・リスクに陥る非正規労働者、見過ごされる「障害者の住宅支援」(2/3)>
低所得高齢者─無年金者118万人の住宅は?
平成23年度末における公的年金の受給権者数は3,867万人(他の公的年金の受給権を持たない老齢福祉年金受給権者を含む)、その受給額は、厚生年金で平均15万2千円、国民年金のみの受給者で平均5万5千円に過ぎず、都市の住居費負担を想定した金額とはなっていない(※1)。
特に、国民生活基礎調査によれば、高齢者のいる世帯のうち、単身世帯は年額50~100万円未満が最多となっており、より厳しい家計であると思われる(※2)。さらに、見込み者を含めた無年金者は最大で118万人で、一般的な年金受給年齢である65歳以上の者のうち、今後保険料を納付しても年金を受給できない者は、現時点において最大で42万人と推計されている(平成19年旧社会保険庁調べ。※3)。
また、生活保護の被保護者の年齢別の内訳をみると、60歳以上の比率が年々増加しており、平成21年度には約52%を占め(※4)、低所得高齢者の増加は社会保障の根幹にかかわる問題として捉えざるを得ない状況にある。
その背景には、高齢者数の増加、とりわけ都市部における急速な高齢化がある(※5)。これまでの「地方に残された親」の高齢化問題から、「都市に転出した子」の高齢化問題が量的にはより大きくなる。前者については、低所得であってもすでに土地・住宅等の資産を持ち、長年暮らす地域のコミュニティとの近接性もあるが、都市の高齢化問題は、低所得者ほど、借家居住・共同住宅居住・単身者が多く、住まいや地域との関係が自立した生活を維持できるかどうかということに直接結びつきやすい。
とりわけ家賃や維持コスト(マンションの修繕積立金等含む)などの固定的な住居費負担は、年金生活者の家計にとって過重になることは容易に想定される。しかし、都市の高齢者の住居費の実態は年金制度に反映されておらず、都市の高齢者は、不安定居住のもと、生活困窮に陥りやすい条件を有している。こうした課題に対応した社会保障制度や住宅政策はあまりにも貧弱である。
以上のように、少なくとも、国民年金のみの低年金世帯などの家計条件に適応した、公営住宅並み住居費負担で安定した居住が得られるようなハウジングシステムの構築が急務である。(佐藤)
※1 厚生年金保険国民年金事業年報平成23年度
※2 国民生活基礎調査(平成19年)
※3 第7回社会保障審議会年金部会平成23年12月1日参考資料
※4 被保護者全国一斉調査(基礎調査),第1回社会保障審議会生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会資料「生活保護制度の状況について」平成24年4月26日より
※5 「都市部の高齢化対策に関する検討会」厚生労働省老健局が、平成25年5月に発足
刑務所出所者─ホームレス化と犯罪再発の予防のための住宅
ハウジング・リスクがある人々は、刑務所にも入所している。刑務所出所者は54,199人(2010年法務省調べ)、出所後に受け入れ先や帰来先がない人は約7,200人(2006年法務省特別調査)、これらの人は、ただちにホームレス状態に至る危険性を持っている。
更生保護施設や自立準備ホームなど法務省管轄の入所施設が整備されているが、まったく足りていない。そのため、刑務所出所後に相談に来られる人々が後を絶たない。
例えば、60歳代の男性は窃盗と傷害の罪を犯し、3年間首都圏の刑務所に服役した。満期出所後に頼る場所がなく、仕事もないため、相談に来られてすぐに生活保護申請を行った。現在は仕事を探しながら、持病の治療をして暮らしている。NPO法人などの相談窓口を知らなければ、「もう一度、刑務所に帰りたいので、犯罪をしていたかもしれない」と話される。
また、1年半服役していた30歳代の男性は「仕事がなくやむにやまれずに、悪いと知りつつ無銭飲食をしてしまった。家がなく生活が苦しかった」と犯行理由を語った。彼らが置かれている状態はネットカフェ生活やホームレス状態に近く、ハウジング・リスクを受けている状況が見えてくる。
そのため、住宅や仕事の確保など当事者の抱える問題を早期に解決しない限り、犯罪に追い込まれてしまう可能性は高くなる。(藤田)
期間工、飯場生活者─減る仕事、高くなる住居(寮)費
建設会社を中心として、工事が終わるまで仕事ができる期間工や住み込みの寮生活、いわゆる飯場生活をしている人々もいる。工事や仕事がある期間は寮生活が可能だが、順風満帆に継続的な仕事があるとは限らない。
50歳代の男性から、「社員寮に住みながら建築現場を行き来する仕事をしていたが、受注量が減って最近は仕事のない日が多い。仕事のない日でも寮費や生活費は会社に徴収されるので、生活していけない」と相談を寄せられた。男性はその後、仕事をやめ、生活保護を一時的に受けて、民間賃貸住宅に住みながら、再就職先を探している。
このような、住まい付きの雇用は、以前から広がりを見せている。企業は、従業員への福利厚生の一環として、低家賃の寮や社宅などの給与住宅などの提供によって、労働者の採用を有利にしたり、仕事に専念できる環境を整備してきた。
しかし、近年、企業の業績が悪化しているため、福利厚生を削減する方向が見受けられる。そのため、社員寮に住んでいるにもかかわらず、寮費が他の民間賃貸住宅と比較しても低廉でない場合も見られる。さらに食費や光熱水費も自己負担で、負担が重たいケースもある。当事者は社員寮から出されるとホームレス生活になってしまうため、負担が重くても仕事にしがみつくしか選択肢がない状況が生まれている。(藤田)
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