関西のおばちゃんが派手な理由は「土」のせい?(2/2)

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「そういえばね」と館長。「関東と関西では、土の色がぜんぜん違うんですよ」とまたひとつ引き出しを開ける。関東地方の土は、黒っぽいものが多い。色も茶色にグレーと地味めだ。一方の関西の土は、色鮮やか! オレンジ色に近い鮮やかな茶色から、ピンク、緑、黄色、青とみさかいない。「関西の土はカラフルでしょう。これは僕の持論なんだけどね、関西の女性がカラフルな服を着るのは、土のせいだと踏んでるんですよ。関西のおばちゃんは土とともに生きてるっていうかね」。なるほど! あのパワーも土から得てるのか!?

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土の下の世界、生命の過去、いま、未来

再び一階に下がり、今度は展覧会場に入ると、そこには宇宙が広がっていた。64点もの「土壌モノリス」と呼ばれる土の標本がずらり。さっきまでは、人の手を加えた土の作品を見てきたけれど、土そのものの、なんて美しいこと。

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「僕は土の魅力は色だと思ってるんです。特に赤土を見ると、興奮するんですよね」と辻さん。土に囲まれて、心底うれしそうに笑う。「一般的に、土壌が1センチできるには100年かかると言われているんです。僕は今年60歳だから、やっと6ミリの土壌ができたところですね」

600万年前、中部地方にあった巨大な「東海湖」に480万年かけて堆積した土は肥沃な濃尾平野の基盤となり、湖の北と南の良質な陶土が、焼き物の町瀬戸と常滑を生んだ。「300万年前に積もった粘土層で瀬戸物をつくってきたんですから、まさに僕たちに飯を食わしてくれた粘土といっていいでしょうね」

「工業製品なんかも土の中にあったものを引っ張り出して、鉄や石油として利用してるわけですよね。人間が作り出したものなんてなくて、土の中のものを引っ張り出して消費しているだけなんですよね。土ですら、人間は作れないですからね」

一番奥にある4・25メートルに及ぶ土壌モノリスには、「28000年」の目盛りが刻まれている。その時の流れの中に、どれほどの生物たちの生の営みが、どれほどの人々の喜怒哀楽が詰め込まれ、そして土に返っていったのだろう。その時空をこえたスケールの大きさに、そして命を与え続けてくれるその寛大さ、懐の深さにただただ畏敬の念しか湧いてこない。しばし、その2万8千年の時に思いをはせた。

普段は見ることのない、土の下の世界。そこは、これまでの生命の歴史を刻む「過去」であり、今生きている私たちの命の源であり、これから命を生み出す「未来」でもあったのだ。

「旧約聖書には人は土の塵で作られたとありますし、肉体と土は一体であり、分かれるものではない、という意味の身土不二という言葉もあります。土という宇宙の中で人は生かされているんです。最近は、精神の不調を訴える人が多いのも、人間が土と離れた生活をしているからではないでしょうか」 

(八鍬加容子)

(INAXライブミュージアム)

「窯のある広場・資料館」「世界のタイル博物館」「陶楽工房」「土・どろんこ館」「ものづくり工房」の5つの館から成る。土から焼き物まで、その歴史や文化、美しさや楽しさを体感・体験できる。館長は「赤土好き」の辻孝二郎さん。

〒479-8586 愛知県常滑市奥栄町1-130
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