ひきこもりのきっかけや状況は、人それぞれ。人によって事情や状況は異なるものだが、ひきこもり経験者が周囲にいない人にとっては「なぜひきこもるのか」「どんなきっかけなのか」が見当もつかないことが多い。

そこで、ひきこもり・不登校経験者である「NPO法人ウィークタイ」の代表泉さんと、「NPO法人グローバル・シップスこうべ」の代表森下さんに「ひきこもったきっかけ」や「ひきこもり状態から出てきたきっかけ」などの話を聞いた。


※あくまでこの2人の話であり、他の当事者の方に当てはまるわけではありません。

ひきこもった時期について

泉さん:僕は2回あるんですが、一度目は中学受験に落ちたのがきっかけかな…?希望していなかった中学に通い始めたときに、先生が「できる子」と「できない子」の扱いに差があるということを目の当たりにし、耐えられなくなって、不登校になったんです。 不登校を認める、認めないで家族の意見が衝突して、「僕のせいで家族がケンカしている…」と思うと、つらくなって、身体が動かなくなってしまい、ひきこもってしまいました。

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(「NPO法人ウィークタイ」の代表泉さん。編集部撮影)


森下さん:私も高校を卒業した後と、大学を卒業した後の2回あります。小さい時から同年代の人たちとうまく付きあえなくて苦しくて、でもがんばって通っていたんですが、高2の冬に祖母の死や、私の病気、学業の不振とかがきっかけで不登校になって、卒業しても2年間ほどひきこもっていました。進学する気はあったので自分では「浪人」と言っていました。

そして理系の大学に進学するんですが、途中から「なぜ働くの」とか「なぜ生きるの」というような哲学的なことを考え悩み始めて、また学校に行けなくなって不登校ぎみになりました。前後してアルバイトをしたりもしたんですが、同僚とうまくいかなくて。大学を5年かかってやっと卒業したんですが、就職活動する気力も無くてひきこもってしまいました。これが2回目です。

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(活動中の「NPO法人グローバル・シップスこうべ」の代表森下さん 撮影:田中敦)

ひきこもりの間、どのように過ごしていたのか

泉さん:うーん、どうでしょう。僕はネットや読書をして過ごすことが多かったですね。 お金のない時はがんばって図書館に行って借りてくるんですが、お金のあるときは、ネットで中古の安い本と、ウィスキーのミニボトルを買っていました。2回目のひきこもりのときは、眠れなくてお酒はけっこう飲んでしまっていました。



森下さん:僕は何していたかなあ。1日がすごく長かった記憶はあるんですが、何をしていたかの記憶…覚えているのは1回目の浪人の時は、テレビを観たりボランティア活動をしたり…ですかね。

2回目の時も最初はテレビを観たりしていましたが、途中からニュースやバラエティとかが嫌になって、映画を見たり、買い物に行ったり、たまには旅行やドライブをしたり、友人が飼っているネコの世話をしたり、裁判を聞きに行ったりしていました。

途中からはネットを始めて、オークションをしたりサイトを作ったり在宅ワークをしたりしていました。ただひきこもりのことはテレビで見たりして知っていましたが、話し相手がいたので支援機関は必要性を感じなかったりで、行こうとは思いませんでした。

どちらの時も親との確執がありました。父親は教員で、「あとを継いでほしい」と思っていたようなのですが、僕はそういうプレッシャーが嫌だったこともあって。
私は潔癖症と対人恐怖があって困っていました。



泉さん:それ、僕も一時期ありました。除菌スプレーを常備しているんですが、除菌スプレーのフタを除菌する除菌スプレーとか持っていました。(苦笑)
またある時は、「追跡妄想」もありました。家の前に停まっている車は、僕を逮捕しに来たに違いない…と思い込んでナンバーをメモしたり。その頃は本当につらかったですね。
でも、このような「病的な状態」の人もいれば、そうでない人もたくさんいるんですよ。

ひきこもり状態から出てきたきっかけ

泉さん:1回目の時は、通信制の予備校に通ったんです。そうしたら想像以上に自分に似た境遇の人がたくさんいて、安心したのか復活できまして。

そして大学には元気に通っていて、大学3年のころにサークルの主宰をしていたのですが、人間関係に疲れてしまいまして。唐突に家を出て、富良野の農場で働き始めました。僕のほうは数カ月土いじりをしているうちに落ち着いてきて。親はやっぱり心配だったのか、しばらくしてから連絡をしたら家族みんなで訪ねて来てくれました。でも、もう少しいたいということでそのまま働いて。

そしてさらに数カ月で大阪に戻ってきたのですが、大学の同級生は就職が決まり始めていて、「マスコミに決まった」「銀行に決まった」などと聞いていると、居場所がなくてつらくなって、またひきこもりました。

しばらくひきこもっていたところに、予備校時代の仲間がしつこく訪ねてきてくれたんです。僕は来られるのがしんどかったんですけどね(苦笑)

その頃僕が、何度も読み返してボロボロになるまで読んでいたのが社会活動家の湯浅誠さんの『貧困襲来』なんですが、その湯浅さんが大阪でイベントするみたいだよ、行こうよと誘われたんです。好きなものをダシにされてしょうがなく(笑)

そして、そのイベントのあとの懇親会で「ボランティア募集しています」と言われ、ボランティアメンバーになったのがきっかけで湯浅さんに大阪の各地、岡山、京都などのイベントに連れ出してもらいました。それで当事者支援にも関わるようになったんです。


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(活動中の泉さん。本人提供写真、撮影:木村ナオヒロ)


森下さん:私は小さい時から海外に行きたかったんです。高校を卒業したら、海外に行きたいというか日本を出たくなって、お金をかけずに行く方法を調べていたら青年海外協力隊なら行けると知って。どんな資格がいるかと考えて教員の免許を取ろうと思ったのと、父との関係がうまくいかなくて家を出たかったので進学した、というのが1回目のひきこもり状態から出てきたきっかけです。教育には関心がありました。

大学に進学して不登校になってやっと卒業した後、高校や大学の友達づきあいがだんだん減ったり、減らしたりしていたなかで、1人だけ近くにいてくれた人がいました。ネコの世話があり、当時はその人の家に住んでいました。
でも私の潔癖症がひどくなってその人を巻き込むようになり、関係を続けられなくなってしまったんです。その人の家を出なければならなくなって。
さらに前後して母が若年性の認知症になりました。その前に祖母が亡くなっていたんですが、その時は帰省できなかったので、このままだと母の葬式にも出られないと思うようになりました。それで父に来てもらって「いったん住む家を探して」と話したら、見つけてくれました。これが2回目のひきこもり状態から出てきたきっかけです。

それまでに車の共有実験に関わったりして共有することに関心があったんですが、その家は部屋がたくさんある家だったので、家の共有ができないかなあと。ただ経験も無くてうまくいかず、ある人のすすめで起業の相談に行って、ひきこもりの事を話したら地元でひきこもりの支援をしている人を紹介してくれました。家族とも関係が悪化していて友達もいなくて、人と話したいと思って支援機関へ行くようになりました。

どんな場所なら安心できるのでしょうか?

泉さん:たとえば湯浅さんの周りの人というのは、社会的弱者と接してきた経験がすごく豊富なので、居心地よく過ごさせてくれるんです。
「できないことを責めない」「できたことを認めてくれる」というスタンスに助けられました。



森下さん:私が居心地良かったのは、自主性を尊重してくれる、いろいろやらせてみてくれる、別の見方をアドバイスしてくれる、失敗できて完璧を求められない、オープンで他の支援機関と交流のある所でした。


支援者や周囲の人に対する気持ち

泉さん:「ひきこもり」ってかわいそうに思われがちなんですよね。何か欠けていると思われたりして。「哀れな存在」としてひきこもりを確立しないでほしいんです。


森下さん:そうですね。これは一緒に活動しているNPO法人わかもの国際支援協会の横山さんの言葉ですが、「私たちはあわれみの対象なのか」考えることがあります。

ひきこもりって部屋に閉じこもっていて家族がドアの前へ食事を持って行くイメージだと思われがちでしょう?
でも、親の会の調査だとそんな人は1割もいないそうです。
家の中は出て来られたり、用事があると買い物には行けたりの人の方が多いらしいんですよ。
ただ収入は無くて友達が少ないのは多く見られる特徴のようです。

マスメディアで作られた「イメージ」を見て「自分はひきこもりじゃない」とか「子どもはひきこもりじゃない」という人もいて。それはそれでいいんですが、イメージにとらわれている感じはしています。

また最初に声をあげたのが家族で、支援者も発言するようになり、どちらも集まってつながっていったのに、当事者の方は体験発表や出版したりはあったけど、なかなかグループを作ったりつながってこられなかったようです。


泉さん:そういう気持ちもあって、当事者の会を開催したくなったんですよね。


森下さん:そう、当事者が当事者のための会を作ろうと。当事者の声を直接社会に伝えたいなあと思ってNPO法人にしました。そうしていると他のNPOとつながって、当事者の集会をしたいと思うようになって、開催したのが昨年の3月でした。

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(活動中の森下さん。撮影:加藤順子)

「ひきこもり」の人が周囲にいない人は、どんな行動をするといいのか

泉さん:一概に言うのはとても難しいことですね…。でも、自分の周囲にはひきこもっている人がいなくても、周囲の周囲には、家族がひきこもっている人もいるかもしれないですよね。もし少しそんな話が出てきたときに「不登校なんてとんでもない」とか、「ひきこもりなんて、怠けてるんじゃないの」という反応をするのではなく、「どうしたんだろうね、何ができるだろうね?」ととにかく寄り添って、一緒に考えてほしいですね。


森下さん:当事者やその活動について調べたり、ネットが使える方は今度(2月25日、26日)のイベントの動画とかを見ていただいたり、メールをいただいたりがうれしいですね。
あと、当事者団体ってなかなか当事者からはお金をいただけないので、経営のために少しでも寄付をいただけるとうれしいですね。

泉さん:あ、そうですね、それはぜひ(笑)

お二人の出会いは?

泉さん:大阪で、とある支援者側の交流会があったんです。そこに二人たまたま参加したときにはじめてお会いしました。でもその交流会、交流会のはずなのにあまり交流がなくて。(苦笑)


森下さん:泉さんのことはSNSで見て知っていて、交流会の終わりに、「この後時間があれば懇親会に行きませんか」って誘ったように思います。


泉さん:そうですね、交流会なのに交流会じゃなかったなあ、一日これで終わるのかなあ、こんなものかぁ、と思っていたところに、その懇親会に森下さんが誘ってくれたおかげで、みんながようやく交流ができて、楽しかったんですね。本当に大きなきっかけになりました。

それでGoogleで森下さんの名前で検索してみたら、いろんな活動の歴史が出てきて、森下さんのファンになっちゃったんです(笑)

その後、森下さんはいろんな場所の交流会に僕を招いてくれて、僕は各地で講演者として発表するようになったんです。


お2人から最後に一言ずつ

森下さん:オンラインの記事を楽しみにしています。オンラインだと自由な感じなので。あとお金が無くても読めるし、私のように潔癖症の人でも読めるし、外に出られなかったり買いに行けなかったりする人にも見てもらいやすそうなので。

私にとっての不登校やひきこもりは、親や周囲の決めた生き方を問い直し、自分なりの生き方や働き方を見つける自立への作業だったようです。失ったものもありますが、大切なものが見つかりました。


泉さん:僕を苦しめたのは人間なんですが、今、他に例えようのないしあわせを感じさせてくれるのもまた人間なんですよね。疲れた時にはひとりになって、いいんです。でも、そんな時でも、どこかで自分の事を気にしてくれている人がいる、というのは、そう思えるだけで、しんどい朝をちょっとだけ頑張ってみようと思える力になります。
こういう「つながり」は決して贅沢なんかではなく、食べる事や寝る事と同じくらい大切なことだと思います。そういうものを、つくっていけたらいいなあと、ぼんやり思います。


―――
年齢は離れているものの、ひきこもり経験がつないだ偶然の縁をきっかけに、二人はこの数年でさまざまな時間を共に過ごし、強い信頼関係を培ってきたようです。
2月25日、26日には、森下さんと泉さんのNPO団体を含む4団体が、大阪府豊中市で開催される、ひきこもりにかかわる「若者当事者全国集会」を開催します。

「つながり」と「しあわせ」について考えるイベントにしたいと語っていた二人。
どのようなイベントになったのかは下記でご覧ください。

イベントのレポートはこちら
“画一的な就労支援はワーキングプアの再生産”? 当事者主体のこの活動の豊かさを見よ~ひきこもりの全国集会より(1)~


*泉さんプロフィール
1987年大阪府生まれ。中・大学時代に2度のひきこもりを経験。ボランティア活動を経て、現在は大学で知り合った女性と結婚し、NPO法人ウィークタイ代表を務める。

*森下さんプロフィール
1967年兵庫県生まれ。高校で不登校になり、ひきこもりに。神戸の居場所に集まった当事者たちで2006年に任意団体グローバル・シップスを立ち上げ、自助グループの開催や情報発信を行う。2009年に法人化。

若者当事者全国集会

―ひきこもってた当事者、経験者、豊中で集まろう!.
2017年2月25ー26日(2日間)
メイン会場:千里文化センター「コラボ」(大阪府豊中市)
 サブ会場:上新田会館(大阪府豊中市)
事前の参加申し込み制(空きがあった場合当日参加可)
参加費:無料
対象:当事者・経験者、家族、支援者、一般の方等関心をお持ちの方
当日は第1部・4部の様子が下記サイトでライブ配信される予定です。
https://www.wakamono.info/ 


*当日は、ビッグイシュー日本版305号にも登場した「ひきこもり新聞」の木村ナオヒロさんも登壇します。
*当日は会場でビッグイシュー日本版を販売予定です。

305号は「出(しゅつ)ひきこもり」の特集です。
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299号:ガールズサポートのいま
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当事者や経験者が集う「ひきこもり女子会」のインタビューを掲載。
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217号・対話の時代へ ― わかりあえないことから始まるコミュニケーション
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208号・わかもの包摂 ― 若者就労支援の最前線
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