今年で3年目を迎える「中央ろうきん若者応援ファンド」。家庭環境や経済状況、病気や障害などの諸事情による社会的不利、困難を抱え、不安定な就労や無業の状態にある若者の自立支援をサポートする市民活動助成制度です。助成を受けた団体はその後、どのような活動を展開し、どんな課題に直面しているのか? 共通の問題意識や連携の可能性はあるのか?  2015年、2016年に助成を受けた3団体に語っていただきました。

《鼎談》フェアスタートサポート / BONDプロジェクト / CCV

生きづらさを抱えた若者
就労・生活支援する3つのNPO

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永岡 鉄平さん NPO法人フェアスタートサポート代表
福田 由美さん NPO法人CCV代表
水野 ちひろさん NPO法人BONDプロジェクトスタッフ


永岡 
神奈川と東京で、親を頼れない若者の就労支援をしています。2010年頃から児童養護施設の若者支援を始めて、11年に株式会社、13年にNPO法人を設立。昨年から定時制高校の中に入っての支援も始めました。株式会社が就職の斡旋をし、NPO法人が就職前の職業適性検査や会社見学、就労体験などのキャリア教育、そして就職後も定期的に「ごはん会」を開いて本人たちの関係を継続させつつ、就職先とタッグを組んで、一人で思い悩んで辞めてしまうような“もったいない辞め方”を防ぐ取り組みをしています。

水野 
私たちは10代・20代の生きづらさを抱える女の子を支援しています。フリーライターとカメラマンだった代表の二人が、夜の渋谷や新宿で女の子たちの声を聞く中で「妊娠しているのに相談先もなく病院にもかかれていない子」などと出会い、支援の必要性を感じて09年にNPOを立ち上げました。電話・メール相談、面談、連絡をくれた女の子に会いに行く出張面談、専門機関や施設へつなぐまでの一時保護、つなぐ先や行くあてもない子の自立を支援する中長期的な保護などをしています。
一昨年からは、若者応援ファンドの助成も受けて、生活スキルを身につける合宿も始めました。

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キャンプ合宿でのうどん打ち(BONDプロジェクト)

福田 
栃木県鹿沼市を拠点に活動しています。9年前まで小学校の教員をしていましたが、不登校や発達障害の子が増えてきたので、まずは自宅で、彼らの見守りや衣食住を共にする活動を地域ボランティアと始めました。そこで「障害福祉サービスを始めたい」と声をあげた保護者と、09年にNPOを設立。フリースクールや若者・障害者の就労・生活支援に加えて、グループホームの運営や、最近では「活きいきこっとん村」という市民団体の綿花づくりにも参加しています。

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料理・カフェ活動の様子(CCV)

学校と地域と、有機的つながり
早期離職避ける丁寧なマッチング
公的制度後の支援が課題

福田
学校との連携を進めたいと、今年からは週に4日、小中学校の先生を対象に、保護者からの不登校や発達障害などの相談への助言をしていますが、先生たちはそういった相談に十分に応えられないほど忙しい。だから鹿沼市では、民生委員や児童委員が発見した課題のある家を家庭相談員さんが訪問するようになりました。先生たちの荷を軽くし、学習支援や食育なども地域が分担したほうがうまくいく気がしています。

永岡 
そうですね。就職領域においても、多忙な先生方は生徒一人ひとりに対してマッチングを意識した丁寧な見立てまでは十分にできないことが多い。高校生は3年生の7月からのたった2ヵ月間で、文字情報のみの求人票を頼りに応募する1社を決めないといけない。その結果、最初の就職でミスマッチが起こり、早期離職からワーキングプアに陥るという構造がある。
東京都の調査によると、施設出身者は、就職して1年で40%、僕たちの体感だと3年以内で約70%が辞めている。そこで、2年前、人材育成に熱心な地元企業の情報を載せた、顔の見える求人サイト「18スタート」を始めたんです。

福田 
学校で暴れていた子も、ガテン系の仕事に就いて社長にかわいがられると落ち着いたりしますね。

水野 
学校に行かない子の支援も難しくて。たとえば二人暮らしをしている20代のお母さんと娘の両方が発達障害というケースでは、お母さんが娘を学校に行かせようと叱っても伝わらず、思わず手が出てしまったり。お母さんは学校ともうまくコミュニケーションが取れず、風俗で働きながら一人でがんばってきたのですが、支援を始めて7年、ついにギブアップし、生活保護につながりました。これから二人を、どんな支援につなぐべきか悩んでいます。

都会と田舎、企業と施設、行政と民間。
全国に広げたい、連携のネットワーク


福田 
地域で活動するサークルなどにつなげば、世話好きの方がたくさんいますよ。人口が減少している鹿沼は移住者も大歓迎。東京の児童養護施設を出て行き場のない障害者の方を「活きいきこっとん村」に受け入れる準備も進んでいます。

けれど場合によっては、その人を働けるように矯正しようとすること自体が病気を悪化させることもあります。そんな時は福祉制度などを利用しながら高齢者施設で有償ボランティアとなり、お年寄りと交流し「いてくれるだけでうれしいよ」と感謝されて生きる道もある。そこからステップを踏んで正職員になった人もいます。

障害などの困難を抱える若者が地域でいろんな人と交わり活躍できる場を増やしたいと、昨年は助成を利用してフェアトレードショップも始めました。

永岡 
社員を大事に育てていこうという思いのある中小企業の社長は、若者の状況を好転させる大きな社会資源だと僕は思っています。だけど、企業と児童養護施設や定時制高校をつなぐコーディネーターがいない。そこを埋めるのが僕らの役割。特にやりたいことがなかった高校生が会社見学を機に目標を見つけ、猛勉強をし始めて施設職員さんにものすごく感謝されたこともあります。地域密着でこうした事例を丁寧に増やしたいし、同時にインパクトにもこだわり、価値観を共有できる人とタッグを組んで全国にフランチャイズ展開していきたい。僕が加盟している経済団体の中で、キーマンとなる社長を見つけてコーディネーターをお願いし、企業と施設を直接つないでいく。そんな形も検討中で、これから試していこうと思っています。

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定時制高校でのキャリア授業(フェアスタートサポート)


水野 
公的なシェルターは、学生は保護できないとか、若い子にとって大切な携帯を使ってはいけないとか、問題ある親と決別しないと入れないとか、入所のハードルが高い。親の暴力や母親の再婚相手との不仲で困ってはいるけど、行政的には緊急度が低くて公的支援の対象になりにくい子たちが安心できる居場所や相談先などの支援は中長期的には大切なこと。でも、そのための場所とお金の確保をどうするか。それが、この先もずっと課題となりそうです。私たちのような団体はそれぞれに役割があって、できることとできないことがある。でも連携できれば、相談に来る子たちの選択肢も広がるはずです。

福田 
若者といっても、課題や必要な支援はさまざまです。田舎でのんびりしたい子もいれば都会で刺激を受けたい子もいる。周りの目が気になるひきこもりの子も、遠くへ行けばリセットされて視野が広がることもあります。そんな自由な若者の移動・交流を進める支援のネットワークが全国にできるといいですね。

活動へのご参加・ご寄付などは次の連絡先まで

NPO法人 フェアスタートサポート
11年に株式会社、13年にNPOを設立。児童養護施設出身者、定時制・通信制高校の生徒など、家庭環境の問題により親に頼れない若者の就労支援を行う。
http://fair-start.co.jp/

NPO法人 BONDプロジェクト
3千人以上の女性から聞き取りをした代表二人がフリーマガジン『VOICES(ボイス)』を創刊後、09年に設立。10代・20代の生きづらさを抱える女性を支援。
http://bondproject.jp/

NPO法人 CCV(Creative Communication Village)
09年に設立。不登校・ひきこもり・発達障害などの子どもたちへのサポート、障害者の就労・生活支援、コミュニティーカフェやグループホームの運営などを行う。
http://ccv-npo.com/

【若者応援ファンド2018公募】
受付期間 2017年10月2日(月)〜27日(金)
詳しくは特設サイトをご覧ください
http://chuo.rokin.com/about/csr/assistance/

■ 中央ろうきん社会貢献基金について
http://chuo.rokin.com/about/csr/assistance

■「中央ろうきん」って?
http://chuo.rokin.com/about/roukin


ビッグイシュー・オンライン編集部より:本誌連動企画として、「中央ろうきん若者応援ファンド2017」の特集記事をお届けします。この記事は「中央ろうきん若者応援ファンド」の提供でお送りしています。







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