「第5次エネルギー基本計画(エネ基)」の改定案がまとまった。同基本計画はエネルギー政策基本法に基づいて経済産業省で策定され、閣議決定を経て、国会へ報告されることになっている。この基本法は温暖化対策の柱に原発を位置づけるために自民党が提出した議員立法で、2002年に成立した。3年ごとに見直し、必要とあれば改定する。改定にあたっては経産大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会の意見を聞くことが法律に定められている。





「30年代に原発ゼロ」は明記なし
原発をベースロード電源とし新電力買取や送電線使用を制限

10年6月の第3次エネ基では、再生可能エネルギーの最大限の導入を目指すとするものの、原発に関しては、30年までに14基の新増設を明記し、発電に占める原発の割合を50%程度にすることが具体的にうたわれていた。ところが、この翌年に福島第一原発事故が発生。ただちに見直しに入ったが、産業界の激しい抵抗や、民主党から自民党への政権交代もあり、30年代に原発ゼロを目指したエネ基は実現しなかった。14年に改定された第4次エネ基でも、原発は「重要なベースロード電源」と位置づけられ、同時に可能な限り依存度を低減するとされた。

“ベースロード電源”とはどういう意味だろうか。日本独特の位置づけだが、原発の場合には出力の調整が困難であるため、定期検査期間も運転を続けるという意味だ。これが曲者で、東電や関電などの旧一般電気事業者は停止中の原発でもベースロードにカウント、太陽光などの新電力の買取や送電線の使用を制限している。

翌15年に電力需給見通しが策定され、30年時点における発電量に占める原発の割合を20~22%とした。この割合を達成しようとすれば少なくとも30基以上を再稼働する必要があり、当時から批判が強かった。他方、「大量導入をめざす」とされた再エネは22~24%にとどまった。

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5月23日、エネ基見直しに向け、脱原発や自然エネルギーに取り組む7団体が12万筆超の署名を国会議員に提出

脱原発を望む声、国民の7割。
原発の新増設は盛り込まれず中電の上関原発は計画中断に


第5次エネ基見直しの議論が始まった昨年8月に、世耕弘成経済産業大臣は「骨格を変えるような状況にない」と述べた。これと並行してエネルギー情勢懇談会が設置されて、50年の姿を展望する議論をすすめ、4月10日に提言「エネルギー転換へのイニシアティブ」を公表した。提言では、現在は「戦後5回目のエネルギー選択」の時期で、大きな変化が不可欠であるとの認識が示されている。具体的には、再エネを主力電源に押し上げるという方向を明確に打ち出した。原発については、「福島第一原発事故が原点であるという姿勢」で、可能な限り依存度を低減する方針を堅持し、脱炭素化の選択肢と位置づけた。

エネ基改定案では、新たに「2050年に向けたエネルギー転換への挑戦」という章が追加され、上記の提言を受けた内容が盛り込まれている。将来の方向は示されたが2030年への政策は第4次エネ基とほとんど変わらない。再エネは主力電源化に向けて導入を加速すると少し重きがおかれたものの、原発は「重要なベースロード電源」との位置づけが継続されている。また、核燃料サイクルの推進や原子力事業環境の確立なども記され、原発推進基調となっている。

今回の改定で注目された点は、原発の新増設が盛り込まれるかどうかだった。電力会社で構成する電気事業連合会や全国電力関連産業労働組合総連合などは、新増設をエネ基に盛り込むように強く主張していた。また、許可申請が出されたあとに、福島第一原発事故で審査が中断したままの上関原発(山口県)計画について、中国電力社長は「エネ基に政策の方向として新増設が盛り込まれなければ計画の続行は難しい」と発言していたこともあり、いっそう注目された。だが、新増設は盛り込まれなかった。中国電力が計画を白紙にする様子は見られないが、これにより計画は中断したままとなる。

エネ基改定案は、原子力政策が直面している最大の課題は社会的信頼の獲得としている。福島原発事故以降、脱原発を望む世論は約7割と高い水準のままだ。そんな中で社会的信頼が得られるとはとても考えられない。この改定案は現在パブリックコメントにかけられている。一人ひとりが脱原発の声を届けてほしい。

(伴 英幸)

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(2018年6月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 336号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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