「ホームレス支援とアート」イベント、続いて新人H ソケリッサ!代表であるアオキ裕キさんが登壇。
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アオキ
新人H ソケリッサ!代表、一般社団法人アオキカクを代表しておりますアオキ裕キと申します。ダンサー・振付家として活動をしておりまして、そこで日々、生きることに向き合わざるを得ない状況にある路上生活の方々の体には「自分に欠けた感覚があるんじゃないか」と感じています。例えば、寒さや怖さを感じながら就寝をして、朝になったら鳥のさえずりが聞こえて、朝の喜びを感じる。そういう体は、人間として、生き物として、外に開いた感覚があるのではないか、ということで、「一緒に踊らないか」と誘って活動を行っています。
ソケリッサ主宰のアオキ裕キさん
ソケリッサは、2005年にスタートして、2007年に初めて人前でパフォーマンスを行い、今年で10年が経過しようとしています。現在は、だいたい7名が参加してくれて、下が42歳、上が70歳くらい。参加歴は3ヶ月くらいからだいたい8年くらいの人まで。
ソケリッサのメンバーを紹介するアオキさん
この写真は、みんな凄くいい顔をしていますが、最初から、このような顔をしている人たちを誘ったわけではなく、踊っているうちに素晴らしい表情になっていきました。
「どうやったら、生きる姿を表現できるか」
私は以前、マットさんと知り合う機会をいただき、リオのエマウスというところにあるホームレスセンターへ行きました。そこでは参加者がエネルギッシュで、みんな本当に楽しんでいる姿を見ることができました。自分たちは、年齢も重ねているので、穏やかな創作ダンスで、メンバー一人ひとりが動きを作る踊りをしています。その踊りが、ノリノリのブラジルでうけるか不安に思っていましたが、実際、やってみるとすごく喜んでくれて、「こういう踊りがあるのか」っていうところに興味を持ってくれました。リオでのワークショップ風景
大聖堂の地下でワークショップをやらせていただいたこともあります。ホームレスの方はダンス経験のない人が多いので、自分が振り付けをした振りを覚えてもらっても、動くことが精一杯で機械のようになってしまう。やっぱりそこには生きている姿が一番映らなければいけないので、「どうやったら、生きる姿を表現できるか」ということで、言葉によって振り付けをすることを行っています。
例えば、口を開けてほしいときは、「こういう動きをしましょう」ではなくて、「太陽を飲んでください」と言う。そうすると、その人の好きな大きさだったり、その人の骨格に合った口の開け方になって、太陽を飲もうというエネルギーあふれる踊りになります。
この日来場したメンバーがそれぞれの動きを披露
アオキさんの言葉から連想するイメージを全身で表すメンバーたち
「では、暗闇を吸ってください。」というとどんな動きになるでしょう。暗闇が怖いものかもしれないし、宇宙のように広大なものかもしれない。そういうことを、自分なりに表現していきます。次は、体のエネルギーを見たい。自分が形をつけるよりも、遥かに面白く、自分の想像を超えた表現で、おじさんたちの歴史も感じます。「ラストは、感情を見たいので、優しい獣でいきましょう」などの言葉によって、おじさんたちを誘導します。
これが組み合わさって、音楽がかかれば、一つの踊りとして確立されていきます。自分は、このようにして、作品として形にしています。おじさんたちは、自分の中から出たものを、それは表面的なものじゃなくて、体の中から溢れ出たものをアクションにする。そこに、価値があると感じています。
路上から芸術を-東京近郊でのパフォーマンス
2017年3月に、東池袋中央公園でパフォーマンスを行いました。だいたい30分くらいの作品を東京近郊の路上でやって、路上生活の方々、なかなか芸術に触れることのない方に提供して、自分たちの踊りに「参加をしてみたいな」という人が増えるといいな、そういうことも考えながらやっています。千代田区のテラススクエアでは、歌手の寺尾紗穂さんと一緒に行いました。川崎でのパフォーマンス(写真:河原剛)
川崎のトカイナカヴィレッジという農園や、文京区の光源寺でも公演。光源寺では写真家のアダムさんの写真展示とあわせて、踊る企画でした。台東区の隅田公園、江東区の木場公園での公演もありました。
台東区では区の支援を受けて、錦糸町の駅前でパフォーマンスもしました。墨田区役所の前には路上生活者の方が以前はたくさんいたので、声をかけて広めていきたいと思っています。
錦糸町でのパフォーマンス(写真:岡本千尋)
横浜での公演は10月で雨が降って激寒でしたが、映像は凄く美しいものが撮れました。井の頭公園での公演の日も雨で、ドロドロになりながら踊りました。先ほども踊ってくれた平川さんは、泥だらけになるのを嫌がる方ですが、一番最初に転んで、みんなから「おー」と言われていました。テニスコーツという歌手の方ともコラボレーションさせていただきました。自分の息子が途中から勝手に入ってきて、邪魔することなく一緒にメンバーと踊ったこともあります。
井の頭公園、雨が降る中でのパフォーマンス(写真:河原剛)
足立区の北千住では、現代美術家の山川冬樹さんと一緒にやらせていただきました。町田市の芹が谷公園では、プレイパークという山の斜面を利用して、子どもたちと一緒に踊りました。彼女は、難病を抱えていたんですけど、人前で踊ることで凄く目がキラキラしていました。
台東区の玉姫公園は、路上生活の方がたくさん住んでいるところで、歌手の寺尾紗穂さんとまたご一緒させていただきました。最後の最後に、近くに住んでいる路上のおじさんが一緒に踊ってくれました。こういうところでも繰り返しやって、路上生活の人たちがもっと参加してくれると面白い景色が生まれるんじゃないかなと感じています。
一番最近では、青梅市の国立奥多摩美術館でやらせていただきました。古い工場を改築して、美術の展示をしているので、本当にボロボロなんですよ。奥多摩の、都心から離れていてなかなか人が行けないところですが、そういうところでも自分たちはやりたいなと思って、やらせてもらいました。
2020年に東京オリンピックがありますが、オリンピックは、競うということに価値を集約するのではなくて、いろいろな経験を持った体に価値を見出せるような祭典になればいいなと思っています。自分たちは小さな団体ですが、活動に新しい価値を見出せるような存在になりたいです。
今年、クラウドファンディングをして、マットさんの協力を得て、イギリスの路上でパフォーマンスをしたいなと考えています。個人レベルで活動しているので資金が不足しています。今日来てくださっている団体や川崎市に、我々の活動に少しでも興味を持っていただき、一緒に頑張れたらと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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マット・ピーコック:
3年前に裕キさんにお会いしたときに、ホームレスの人々とのダンスを取り扱っている団体としては世界で唯一であろう、というお話しをしました。裕キさん、それを聞かれて非常にびっくりなさっていた覚えがあります。
そして、パフォーマンスなさっているのを私はリオで見せていただきまして、本当に素晴らしいものでした。それは、個人的に、あるいは社会的に重要なだけではなく、芸術といった域でも非常に強いものであり、そして非常に価値のあるものであると感じました。ソケリッサのような団体がパフォーマンスをなさいますと、スキルですとか信念、真実、そういうものが全て芸術的なものに集約されたものと感じます。そして、より多くの人々は、このような作品を見ていただく必要があると思います。
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