モノがあふれかえる現代。「廃棄」という考え方を捨て、廃棄物を再資源化させる産業政策を「サーキュラー・エコノミー」といい、今、各国がその対応を問われている。
アルゼンチンのスラム街で実践されている事例をご紹介しよう。この時代を先取りした取り組みをすすめているのは、スラム街の入り口に佇むスープキッチン*「エン・アッコーレ(En Haccore)」だ。



*困窮者に無料または低価格で食事を提供する施設。

「かつてはごみ収集車が来ないこともよくあり、ごみがあふれ返っていました。それが今では、バイオダイジェスター(生ごみ分解装置 *後述)でごみをバイオガスに変換しています。料理に使うエネルギーも節約できるようになりました。ひとつ夢が実現しました」エン・アッコーレの代表を務めるビルマ・アクーニャは言う。

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写真:Daniel Gutman/IPS ビルマ・アクーニャ。若者の薬物使用と闘う母親たちのネットワーク施設も兼ねている。 

彼女は1993年にこのスープキッチンを立ち上げた。食肉加工工場の職を解雇されてのことだったが、当時のアルゼンチンの失業率は約20%、この地域でも多くの人々が職を失っていた。スープキッチンは、聖書に出てくる泉の名前から「エン・アッコーレ」と名付けた。 場所は首都ブエノスアイレスの南端、市の中心部から車で15分ほど、約2万5千人がひしめき合って暮らすスラム街「オクルタ町」(別名「隠された街」)の入り口にあたる。

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写真:Daniel Gutman/IPS オクルタ町への入り口。ビジャ・ルガーノ地域の一角にあたる。

公式データによると、アルゼンチンの人口4400万のうち、2018年以降は265万人が貧困状態に陥っている。オクルタ町でも支援の必要性がこれまで以上に高まっている、とアクーニャは語る。ほんの数分、彼女と一緒にあたりを歩けば、その意味するところがわかる。住人らが近寄ってきて、牛乳や米、麺類などの食糧を要求してくるのだ。

エン・アッコーレでは月曜から金曜まで、1日約300人に昼食とお茶菓子を提供しているが、毎日のように新しい人々が現れ、食べ物を求めてくる。

スラム街の一角で「循環型経済」を実践

エン・アッコーレでは2017年から「都市型バイオシステム」を運用している。これは都市部で “自然の営みの再現” を目指したもので、消費されるものはすべて地域内で生産し、廃棄物もすべて再利用する「サーキュラー・エコノミー」の考えを取り入れたものだ。

「バイオダイジェスター」を使うと、日々スープキッチンから出る数十キロものジャガイモや人参の皮といった有機物を分解し、燃料となるバイオガスを作り出すことができる。気密性コンテナの中で酸素をなくすことで微生物を発生させ、有機物を分解するのだ。また、有機ごみは肥料・堆肥として、スープキッチンの屋上にある都市型菜園でも使用している。さらに太陽集熱器もあり、貯めた熱エネルギーでお湯を沸かし、ガスボンベの購入を減らすことができている(貧しいこの地域には、都市ガスは通っていない)。

この取り組みの責任者であるゴンサロ・デル・カスティージョは言う。

「私たちに言わせれば、貧しい人々を排除しているから環境問題が解決しないのです。彼らの生活の質を向上させ、エネルギーや健康的な食事を入手しやすくすることで、環境も改善していけます」

「環境問題に取り組めるのは基本的ニーズを満たされた者たちだけ、という誤った考え方を正したいのです。むしろ私たちは、環境を改善することが、困難に直面している人々のレジリエンス(身のまわりの問題に柔軟に適応する力)につながると考えています」

彼は「ローマクラブ」のアルゼンチン支部代表でもある。ローマクラブは1968年にイタリアで創設され、さまざまな経歴や地域の人々が参加している国際組織だ。環境破壊が人間の幸福に突きつける課題に、いち早く声を上げた団体でもある。

アルゼンチン支部では「持続可能性センター(CeSus)」を創設し、地方自治体に対して環境・社会問題に関する技術支援を行っている。ブエノスアイレス市からの依頼で、オクルタ町で活動することに。地方でつくられた食糧や燃料が都市部で消費され、廃棄物だけが農村部に戻されてしまう仕組みを打破すべく活動している。

「統合された仕組みを作りたかったんです。太陽エネルギーを活用することで調理用ガスの消費を抑え、スープキッチンから出る生ごみはバイオダイジェスターにかけてバイオガスという新たなエネルギーに変える。残りのごみは有機菜園の肥料にしたり、堆肥を作る装置に入れたりします」とデル・カスティージョが説明する。

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写真:Daniel Gutman/IPS 都市型バイオシステムのコーディネーター、ミラグロス・サンチェス。生ごみを再利用して育てた屋上の菜園にて。 

菜園といっても、コンクリートの屋上に土を詰めた木箱を並べたシンプルなものだ。そこで、コーヒーかすなどの生ごみを使って、野菜やキノコを栽培している。土を使わず、水を有効利用する「水耕栽培」も実践している。

地元住民をも巻き込んだ取り組みがもたらす気づき

エン・アッコーレは使用済み植物油の収集所でもあり、財団が定期的に回収し、バイオディーゼル燃料を作るのに使う。

「料理用の油はこのあたりの深刻な問題となっていました。油を直接、排水管や井戸に捨てることも多く、下水処理を不安定にし、インフラ全体によく不具合を起こしていましたから」とプロジェクト・コーディネーターを務めたミラグロス・サンチェスは話す。

CeSusセンターによる活動が終わった後も取り組みが継続されるよう、ワークショップを開催して地元住民らが参加していることも、このプロジェクト大きなポイントだ。

参加者の一人、アレハンドラ・プグリエーセは、子どもと高齢者を支援する仕事に就いている。2018年からの不況のあおりで、ここ最近は収入が落ち込んでいたが、ワークショップで都市型菜園について学んだことで、日々の生活への見方が変わったという。

「自宅でも機器を使って、エネルギーを賄えたらと夢見ています」

「“自然の循環” とつながることができれば、資源が限られていても生活の質を向上できることに気づけたんです」

都市型バイオシステムは、同スラム地区内の別のスープキッチンや、別のスラム街「ビジャ21」でも導入が始まっている。昨年、政府が社会事業団体と実施した調査によると、アルゼンチンには「ビジャ(villas)」と呼ばれるスラム街が4千以上あり、約300万人が暮らしている。

CeSusセンターでは現在、公的機関からの支援を求めている。自然生態系に基づいた“循環型”の考えを導入すれば、「ビジャ」のみならず都市コミュニティもが「自立」できることを示していきたい考え。

サーキュラー・エコノミーとはつまり、「生産-消費-廃棄」を基本とする既存モデルを、「生産-消費-リサイクル」に置き換えること。できる限りクリーンエネルギーへの移行をすすめ、環境との共存を目指すものである。

By Daniel Gutman
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo
サムネイル写真:Image by PDPics from Pixabay

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