市民の声を可視化するインターネットメディア「OurPlanet-TV」。ギャンブル依存症からの回復や就労にも期待がもてるという新たなワークショップの初日の現場を訪ねた。
ネットメディア、女性二人で設立。年100本超の映像を無料配信
「OurPlanet-TV」はテレビ局出身の女性が設立した非営利のインターネットメディアだ。代表の白石草さんが当時を振り返る。
「2001年ニューヨークで9・11事件が起きた際、既存メディアが報復攻撃をあおるような報道をする中、平和的解決を求める市民の声を可視化しようと、国際反戦デーに当たる10月21日に立ち上げました」
現在は福島原発事故や沖縄の基地問題、東京五輪などを独自の視点で切り取った年間100本以上の映像を無料で配信するほか、拠点のメディアカフェで映像制作のワークショップを開催。機材を貸し出し、市民の情報発信をサポートしている。
「放送法で市民のメディア・アクセス権を保障している韓国では、至るところにメディアセンターがあり、子どもから大人までが図書館感覚で無料の映像ワークショップに参加できます。英国の公共放送BBCでもマイノリティが自身のストーリーを映像化するワークショップが行われたり、海外には多様な市民の声を発信する仕組みがあります。日本でも、LGBT、外国人をはじめ、声を上げにくい人の表現を後押しするために、公的な支援が必要」と白石さん。
「これまで200人以上が私たちのワークショップを受講していますが、職業や年齢もさまざまです。映像制作会社に転職を決めた若者や壊されゆく横浜の海岸通団地に通いつめて映画を作り、あいち国際女性映画祭でグランプリを受賞した女性もいます」
依存症の患者との出会いは2010年。映像作品の企画を募集し、制作と資金を支援する同団体主催のプロジェクトに、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんが応募。薬物依存症回復施設でワークショップを行い、20人以上が映像づくりを体験した。「言葉による表現が苦手な人にとって、映像を使った表現は有用。彼らのポテンシャルを感じました」
依存症当事者が映像制作。社会の正しい理解の促進にも
そこで白石さんは今年、田中さんの協力を得て、中央ろうきん若者応援ファンドの助成を受け、6月には山梨のギャンブル依存症回復施設「グレイス・ロード」で5人の当事者、10月には当事者2人と家族3人を対象にワークショップを実施した。
ワークショップでは、BBCが実践している「デジタルストーリーテリング」という手法を取り入れた。「個人の物語を映像化するこの手法によって、当事者の自己肯定感を高めることにつながるのでは」と考えたからだ。
「恐れ」「恨み」「小さい頃好きだったこと」など、自身も当事者である田中さんが設定したキーワードに沿って、参加者はまず記憶を掘り起こし、それを組み立てて映像作品に仕上げていく。
「参加者はスタッフの質問に答えながら、初めて回復施設に行った日の詳細などを思い出すことで自分のとらわれに気づき、回復するには何が必要か整理できたようです。回復プログラムとして機能し、同時に社会に依存症を正しく理解してもらう機会になればうれしいです」と田中さん。
6月に受講したメンバーは現在、ギャンブル依存症への理解を深めるための啓発ビデオの制作を行なっているという。
「依存症についての発信のほか、映像制作の仕事への挑戦、ワークショップのファシリテーターとしての活躍など、受講者のみなさんが、次のステップにつながる可能性が十分にあると手ごたえを感じています。完成した作品は来春の上映会で披露の予定です」と白石さんは意気込みを語ってくれた。
NPO法人 OurPlanet-TV(アワー・プラネット・ティービー)
2001年に設立した非営利のオルタナティブメディア。インターネットを利用し、ジェンダーや子ども、環境や人権などのテーマで独自に制作したドキュメンタリー番組やインタビュー番組を配信。東京・神保町のメディアセンターで、子どもから大人まで誰もが映像制作やメディアリテラシーを学べるワークショップを行っている。
中央ろうきん社会貢献基金
ろうきんは、はたらく人のための非営利・協同組織の福祉金融機関。「中央ろうきん若者応援ファンド」は、若者の自立支援に取り組む団体を応援する助成制度です。2019年は、8団体へ総額1,184万円を助成しています。
http://chuo.rokin.com/**
上記記事掲載号
THE BIG ISSUE JAPAN373号https://www.bigissue.jp/backnumber/373/
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