山口県・上関原発計画で海の埋め立て許可への反対運動のことを本誌364号で報告した。埋め立てに先立つ海域でのボーリング調査計画に対して、建設予定地のすぐ対岸に位置する祝島の漁民たちは「原発建設へつながる」として、船を出して調査阻止を続けている。祝島の漁民を中心とする同原発計画への反対は、計画が明るみになった1982年から実に37年にわたる。







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中国電力の調査準備を、船を出して阻止する祝島の漁民たち(2019年11月15日)
写真提供:小中進さん


埋め立てに先立つボーリング調査/わずかな調査で断層の評価は困難

この原発計画は電気出力137万kWの沸騰水型原発を2基建設する計画だが、敷地面積が狭く、海を埋め立てて建設するというもので、全国でも例がない。埋め立てを許可した山口県は同時に、建設の見通しが立つまでは工事に入らないことを要請し、中国電はこれを受け入れている。この点から海域の埋め立て前に調査を行なわなければならないが、12年の埋め立て延長時には海域ボーリング調査は計画に入っていなかった。

19年10月8日、中国電はボーリング調査の許可申請を山口県に提出し、県は同月31日にこれを許可した。しかし、県や中国電に対して全国各地から許可取り消しや中止要請などの声が集中。調査は11月14日から実施される計画だったが、準備作業にさえ入っていない(12月13日現在)。

計画によれば1月31日までに1本のボーリングを行なうだけだ。調査では、敷地内から続く推定断層の活動性を「上載地層法」を使って評価するという。断層面の上部の地層の年代を評価することで、その年代以降に活動していないことを示す方法だ。設置許可申請前に実施した海域ボーリング調査のデータ補強ともいうが、わずか1本のボーリングコアの追加で断層の活動性が決定できるとは考えにくい。また、掘削は海上に櫓を築いて行われるため、漁業従事者は騒音で魚が逃げてしまうと懸念しているが、調査に伴う環境影響や魚介類への影響の評価は行なわれていない。調査は許可申請の継続のために実施するのだろうが、その必要性に疑問は増すばかりである。

最重要利害関係者、祝島漁協の同意はない

 また、上関原発は新規計画である。経済産業省も原子力規制委員会もこれを認めている。しかし、18年に出された「第5次エネルギー基本計画」には原発の新増設は盛り込まれていない。中国電の清水希茂社長は「新増設の位置づけが明確にならないと、上関を動かしていくことは現実的に難しい」と述べている(18年4月11日付中国新聞)。

 同社の最新の経営ビジョンでも、着工時期や運転開始時期を「未定」としている。福島事故以前には必ず時期を明記して計画が具体的であることを示していたが、少なくともこの先10年以上建設見通しがない状況を電力会社自身が想定している。再稼働申請中の島根3号の再稼働が実現すれば、供給力は需要をはるかに超える。新規原発など不要であることは誰の目にも明らかである。

 もう一つ大きな問題がある。海域ボーリングの許可申請には利害関係者の同意書が必要で、情報公開手続きにより入手した申請書には山口県漁業協同組合の同意書が添付されていた。県内各漁協の合併で一つの大きな漁協となり、従来の祝島漁協は県漁協祝島支店となった。地先3㎞ほどの距離に原発が建つことになる祝島漁協こそが最も重要な利害関係者だが、その合意は得られておらず、調査強行というほかない。

 そうした状況からすれば、海域ボーリング調査の必要はないばかりか、上関原発計画自体も不要だと言える。

 12月3日、関東地域で上関原発計画に反対する「上関どうするネット」は衆議院議員会館で会合を開催した。現地からは小中進氏(元山口県議)に来ていただき阻止行動の様子を、プロダイバーで写真家の武本匡弘氏には計画地は貴重な海草類などが豊かに生育している数少ない海域であることを報告していただき、国会議員の方々に現地調査を依頼した。

※この記事で取り上げた中国電力の海上ボーリング計画は、準備工事に入れず中断されました(2019年12月16日発表)。


(伴 英幸)

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(2020年1月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 374号より)
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伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
http://cnic.jp/

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