「ホームレスの人たちがサッカーをする」と言うと、「ホームレスのくせにスポーツなんて」「そんな暇があれば働けばいいのに」という反応が返ってくることがある。しかしホームレスになる人たちは、路上に至るまでに著しく自己肯定感をそがれ、他人とかかわることを極度に恐れ、いきなりの就労は考えにくい人も少なくない。


そんな社会的弱者とされる人たちの “自己肯定感” や “生きる力” を高めるためのサッカーが世界的に広がっている。日本のビッグイシューはもちろん、世界35か国にあるストリートペーパー事業の多くがこの取り組みを支援している。そして2003年から年に一度、「ホームレス・ワールドカップ」が開催され、各国のストリートサッカーチームが対戦を繰り広げている。直近では2019年は英カーディフ、2018年はメキシコシティ、2017年はオスロ、2016年は英グラスゴーで開催された。

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Photo by Anita Milas

2020年もフィンランドのタンペレで開催されるはずだった(6月28日-7月6日)。だが、新型コロナウイルスの影響でプロサッカーリーグを含むあらゆる大規模イベントが中止を余儀なくされるなか、ホームレス・ワールドカップの主催者も3月20日の時点で大会中止を決めた。

「ホームレス・ワールドカップ2020」はオンラインで開催

とはいえ、スポーツの力でよりよい世界を目指すこの大会の火は消したくない。4月上旬、主催者は誰でもどこからでも参加できるオンラインイベント「ホームレス・ワールドカップ・デー」の開催を発表した。開催日は決勝戦が予定されていた7月5日だ。



ホームレス・ワールドカップ財団の広報担当マリアナ・メルカドは、大会設立から18年目にして初となる中止について、やむを得ないこととは言え「非常に残念」と国際ストリートペーパー・ネットワーク(INSP)の取材に語った。「私たちの取り組みを知ってもらうには、実際の大会開催に勝るものはありません。現地で準備に取り組んでいた関係者、そして選手たちのことを思うと、とても悲しいです。そこで、こんな状況でもできることはないだろうかと検討し、今回のイベント開催を決めました」

ホームレス・ワールドカップ創設者で会長のメル・ヤング(INSPの共同創設者でもある)も「ひとつのスポーツイベントを開催できなかったというだけではありません。サッカーには人々を奮い立たせ、生き方を変えさせる力がある、そのことを披露する場を失ったのです」「ホームレス・ワールドカップは単に対戦するだけでなく、参加者に大きな転機をもたらし、人生を変えうるもの。ですから、これまでにない別のやり方を考え出す必要がありました」と語った。

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Photos by Daniel Lipinski

各国代表選手がオンラインでリフティング対決

ホームレス・ワールドカップ・デーの主役はもちろん選手たちだ。どんな苦境や貧困を乗り越えて今サッカーをしているのか、チームスポーツに取り組むことがどれほど助けになってきたのか、ホームレス・ワールドカップからは人々を勇気づけるストーリーが数多く生まれている。

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Photos by Daniel Lipinski

だが一堂に会して試合ができないとなると、選手たちはどういったかたちで参加するというのか。答えはサッカーの基礎の基礎であり、されど奥の深い「リフティング」での対決だ。各国の代表選手が30秒間リフティングの技を披露、肩を使うと+3点、頭を使うと+2点、腰より下を使うと+1点、ボールを落とすか手を使うとー2点となる。ラウンドごとに選手は交代させること、がルールだ。 「もちろんワールドカップの代わりにはなりませんが、これだって真剣勝負です。ルールも厳しく、点数を稼ぐのは簡単ではありません」とメルカド。男子は33ヶ国、女子は16ヶ国が参加。ホームレス・ワールドカップ・デー当日に最終勝者が発表された。

<結果>
男子は1位キルギス、2位トーゴ、 3位 北アイルランド
女子は1位アイルランド、2位ガーナ、 3位キルギス


最終戦の模様。


日本の男子は ステージ1(33ヶ国→16ヶ国)を突破し、次ステージ(Round of 16)に進んだが、北アイルランドに101 vs 99で敗れた。


日本の女子は最初のステージ(Round of 16)でアメリカに46 vs 23で敗れた。


プロの選手が過去の名勝負を分析

また、過去の試合映像から名勝負やスリル満点なプレーを“再観戦”する試みもなされた。しかも、元プロサッカー選手や有名評論家らによる試合解説付きだ。ジョン・コリンズ(元スコットランド代表のミッドフィルダー)、カレン・カーニー(元イングランド女子代表)、マイケル・アントニオ(ウェストハム・ユナイテッドFCの現役フォワード選手)、ヌーノ・ゴメス(元ポルトガル代表のストライカー)らがコメントを寄せてくれた。

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Photo by Ole Christian Eklund

「ホームレス・ワールドカップについて知らない人がほとんどでしたから、じっくり過去の試合を見て、大会の規模感を知っていただけてよかったです。選手たちは皆ホームレス状態を経験してきたということ、そんな選手たちのフェアプレーぶりに感激されてました」とメルカド。「過去の出場選手たちも、自分たちの試合に英国プレミアリーグの選手たちがコメントしてくれるなんて思ってもみなかったでしょうから、勇気づけられるはずです」


イベントでは世界の貧困やホームレス問題についてのディスカッションも行われ、英スコットランドの自治政府首相ニコラ・スタージョンや、昨年のホームレス・ワールドカップ大使を務めた俳優のマイケル・シーンなど著名人も参加した。


コロナ禍でスポーツイベント開催の先行きが見えないなか、本来なら実際に人が集まってこそ成り立つ大会を、新たな方法で規模感を失わないよう開催した。「他の団体などからも多くのご厚意や支援をいただき、本当にうれしく思っています」とメルカド。「完全オンラインでのイベントは私たちにとっても初めてのこと。難しくはありましたが、このご時世にあって、多くの人が挑戦していることでもあります」

「事態が早く終息し、再びホームレス・ワールドカップの舞台を提供できることを願っています。でも、もしまた同じようなことになっても、今回のように工夫すればやり方はあるのだということを証明できたとも思っています」

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Photo by Steve Beddoes

By Tony Inglis
Courtesy of INSP.ngo

※2020/11/02 編集部追記
2020ホームレスワールドカップの結果について、男子の1位と女子の3位がクルディスタンとなっていましたが、キルギスの間違いでした。訂正し、お詫び申し上げます。


HOMELESS WORLD CUP FOUNDATION
https://homelessworldcup.org
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