東北でサッカーを通した居場所を作っている2つの団体がある。宮城県でフリースクールやグループホームなどを運営するNPO法人「まきばフリースクール」と、福島県で不登校の子どもや若者支援を行う団体の混成フットサルチーム「FYO」だ。それぞれ8年、5年の活動歴がある2団体は、どんな工夫をして、どんな思いで活動を続けてきたのだろうか。
この記事は、2020年12月5日に開催されたオンラインイベント“東北で「わかもの」とサッカーで居場所をつくる~排除に抗するサッカー vol.1~”のレポートです。
主催:NPO法人ダイバーシティサッカー協会
イベントの参加者は、「まきばフリースクール」の理事、中山崇志さんと利用者の奥田将太さん。そして「FYO」の発起人、鈴木稜さんとチームメンバーのともやんさんだ。司会はビッグイシュー基金のスタッフでありNPO法人ダイバーシティサッカー協会の理事でもある川上翔が務めた。
学校に行かない選択をしても、スポーツを楽しめる環境を
宮城県栗原市を中心に活動するNPO法人まきばフリースクールは、不登校やひきこもり、虐待などの経験のある子ども・青年を対象にフリースクールやグループホームなどを運営している。フリースクールの活動の一環として、フットサルを取り入れだしたのは2012年のこと。2016年より、MKBカップという大会を開催している。開催のきっかけになったのは、不登校やひきこもり状態の当事者が目標を持てるようになれば、という思い。中山さんは当時を、こう振り返る。▲まきばフリースクールのフットサルメンバー奥田さん(左)と理事の中山さん(右)
「毎週フットサルをしてても、なかなか試合をする機会はない。そこで、目標になるような大会を主催してみようと思ったんです。学校に行かないという選択をしたときに、部活やスポ少(スポーツ少年団)にも参加する機会がなくなるわけで、スポーツを一生懸命、継続して取り組むというのがなかなかできないんですね。そこで、ちょっと集まって楽しくスポーツをするだけじゃなくて、目標に向かって練習をできるよう大会をやってみようと。事情があって学校に行けなくても、スポーツを本気でがんばりたい子もいるので」
さらに東日本大震災を経験したあと、中山さんには心境の変化があったという。
「それまでは、うちに来る子どもたちや若者たちを、みんなに助けてもらいたいと思っていました。でも震災を経て、内陸に住む我々より、沿岸部の人たちのほうが明らかに助けを必要としていると感じたんです。そのときに何かの助けになれればという思いが生まれてきました。MKBカップで、うちで作った野菜を芋煮会で作って提供したりして、うちの団体でもだれかの助けになれるんだってことを、メンバーに知ってもらいたかったんです」
MKBカップの開催日には芋煮会のほかにも、スライム、ビーズアクセサリー制作やフェイスペイントなどの子どもたちが楽しめるイベントも同時開催している。さらに今ではフットサルだけでなく、ゲーム「スマッシュブラザーズ」のeスポーツ大会にも力をいれているまきばフリースクール。多様な背景を持った人たちが参加するフットサル大会、ダイバーシティカップにも過去3回参加している。
まきばフリースクール
まきばフリースクール (npomakiba.org)
一方のFYOが福島県で立ち上がったのは、2015年。福島県で不登校の子どもや若者支援を行う団体の混成チームで、若者の就労支援施設や不登校・ひきこもり支援をしているNPOとつながりがあった鈴木さんが、ダイバーシティカップへ参加するために各団体に声をかけたところから始まったという。チームにはひきこもりや被災を経験した人や、障害のある人など、さまざまな背景の人が参加している。
鈴木さんがチームを運営するうえで重視していることは、人とのつながりだという。
「人が関われること、出会えること、コミュニティに所属している実感があるようにと考えています。実際、僕らのところに来ている若者が、『自分が関われる数少ないコミュニティ』だと言ってくれたときはうれしかったですね」
▲FYOチームメンバーのともやんさん(左)と鈴木さん(右)
東京で、過去5回開催されたダイバーシティカップには毎回参加しているFYO。その理由を、鈴木さんはこう話す。
「大会にみんなで参加することで生まれる、道中の時間がすごく良くて。今回の大会はどうだったとか、ほかの大会と比べてどうだったとか、一緒に体験を共有したことで一体感が生まれて、盛り上がるんです。こういう非日常の体験が、自分たちの活動に彩りを与えてくれると思っています」
チームメンバーのともやんさんも頷く。
「最初にダイバーシティカップに参加したときは、とくに旅行気分でしたね(笑)。東京にみんなで行って、代々木でプレイできる、みたいな。僕自身、サッカーが好きだということもあり、サッカーの聖地でプレイできたことは本当にうれしかったです。あとは大会があることで、練習に緊張感が出るし、刺激になるので、本当にありがたいなと思っています」
どんな形でも参加できるようにし、困りごとは過度に奪わない
多様な背景を持つ人が集まりスポーツをする2つの団体。活動に際して、どんな工夫をしているのだろうか。FYOの鈴木さんは、どんな形でも参加できるようにと工夫しているという。
「うちは練習場でゴロゴロしてるだけの人もいるけど、何かその場で共有できるものがあればなんでもいいから来てほしいと思っていて。ハーフタイムショーみたいな感じで、フットサルの合間に歌を歌ってもらうこともあります。このような『周辺的参加』を大切にしていますね。
さらに大会に参加するときはうちわやTシャツを作り、応援だけの参加も大歓迎。ダイバーシティカップでは応援賞をもらったこともあります。あとは、参加のハードルをさげること。たとえばダイバーシティカップに参加するとき、家以外の場所で寝泊まりするのが苦手な人は、早朝に福島を出てきてもらっています」
まきばフリースクール主催のMKBカップも、真剣に参加する人がいる一方で、参加の形はとても自由。メンバーの奥田さんが「MKBカップに去年参加したときは、プレイはしなかったけど、芋煮会の里いもをむいた。あと、みんなでお風呂に入りました」と話すと、「それも参加したことになるんですね(笑)、いいですね」と川上は顔をほころばせた。
もうひとつ鈴木さんが活動に際して心がけているのが、「配慮はしても困りごとを過度に奪わないこと」。
「僕は、困ったこととか失敗したことって、宝だと思ってるんですよね。まきばフリースクールのみなさんが、ダイバーシティカップのために夜中に東京に向かって、パーキングエリアで仮眠してから試合に出ようとしたら、全然寝られなくてフラフラで、しかもものすごく強いチームに当たっちゃって、負けてしまったという話が僕は好きなんですけど(笑)。『あのとき、みんなで困ったよね』って話せることって、宝物ですよね。困ったことがあったらみんなで解決することを大切にしています」
一方のまきばフリースクールで工夫していることは、「人数が集まらなくても必ず週に1回は活動すること」と、と中山さん。
「8年も活動をしていると、人があんまり集まらない時期とかあるんですけど、しばらく来てなかったOBの子がたまたま来たいって言ったときに、今週はないんだとか最近出来てないんだって言いたくないんです。社会に出れば良いときもあるし、うまくいかないときもある。そんなときに、帰ってこれる場所として、いつでもそこにある状態にしておきたい。僕自身も必ず毎週出るようにしています」
野武士ジャパンというフットサルチームで、ホームレス当事者や経験者とフットサルをしている、司会の川上も同じような思いで活動をしているという。
「ある方が、僕らの活動を階段の踊り場のようだと喩えたことがあります。自立を階段にたとえたときに、自立に向かって階段を上っているときもあれば、下りているときもある。ずっと上り続けると疲れちゃうので、階段の踊り場があればそこでちょっと休憩もできるし、みんなでサッカーをしながら息抜きもできる。今チームに所属していなくても、だれかが立ち止まったり、戻れる場所として存在することに意味があるのかなと、感じています」
平日の昼間にサッカーをすることを受け入れられる地域にしたい
イベントの参加者からの「サッカーをやっていてよかった、サッカーの場があってよかったという瞬間はどんなときですか?」という質問に対して、まきばフリースクールの活動に参加している奥田さんは、プレイすることの喜びだけでなく、ふれあいをあげた。「小学校と高校のときにサッカーをやっていて、そのあとはずっとサッカーをやっていなかった。まきばにきて、久しぶりにプレイをしたけど、ちゃんとプレイができたことがうれしかった。まきばの新しい環境で、新しい顔ぶれの人とふれあえて楽しかったなと思っています」
FYOのメンバー、ともやんさんは「コミュニティで仲間と運動できるということによって情緒も安定するし、気持ちが上向きになってほかの時間に向かえる」という。
イベントの最後に今後の活動について話しが及ぶと、まきばフリースクールの中山さんは、フットサルを始めた当初の印象に残っているとある出来事を話してくれた。
「近所の空き地で、平日の昼間にサッカーをしていたら、通りすがりの人に『学校ないの?』って聞かれて、こういうわけでサッカーしてるんですって言ったら、『みんな心に傷があるのに、えらいね』って言われたことがあって。
別にえらくないと思うんですよね。ただサッカーを楽しんでるだけなので。一方で、大人が平日の昼間にサッカーしてると、『そんなことしてる場合じゃないんじゃないの』って言われてしまう。彼らはえらくないし、そしてだめなことをしているわけではない。普通のことだと思うんです。そういうふうに周りが受け止められる、そんなことが成り立つ地域にしたいなと思っています」
鈴木さんは、夢を語った。
「ダイバーシティカップをいつか、Jヴィレッジでみなさんとやれたらうれしい。以前はサッカーの日本代表があそこで合宿していて、その後は原発事故の廃炉作業の基地に。今やっとフットサルの場として再開しました。そんな福島を象徴する場所で、みなさんをお迎えできたらと思っています」
イベントの内容を受け、川上は最近出会った「ショルダーtoショルダー」という言葉を紹介した。
「場づくりや、チームづくりの場面で大切なことは、面と向かう『フェイスtoフェイス』ではなくて、一緒に前を向いて肩を並べる『ショルダーtoショルダー』が大切という話を別の場所で聞いた。今日みなさんのお話を聞いて、みなさんがやられている活動の場にはショルダーtoショルダーの関係性があるんじゃないかと思いました。フットサルというみなさんが好きな場で一生懸命やって、つながって、かつみんなで肩を並べて。プレイする人も、応援する人も、いろんな形で活躍する姿が素敵だなと」
支援者と利用者という立場を超え、ひとつのボールを蹴る。その姿に、まさに『ショルダーtoショルダー』の関係性が見えた。さまざまな困難に対して直接的な支援ももちろん大切だが、スポーツを通しての絆は、そこにいる人たちを一緒に進む仲間としてつないでくれる。そんな関係が東北だけでなく、日本各地にもっと生まれていってほしいと、ダイバーシティサッカーに関わる人々は日々活動している。
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オンラインイベント
東北で「わかもの」とサッカーで居場所をつくる~排除に抗するサッカー vol.1~ - YouTube
NPO法人ダイバーシティサッカー協会
https://diversity-soccer.org/
多様な参加の形。楽しいからはじめよう!:FYO(「ダイバーシティカップ」報告書より) https://bigissue-online.jp/archives/1063630847.html
「勝利至上主義でないスポーツ」の可能性とは/サッカー(スポーツ)大会運営勉強会レポート https://bigissue-online.jp/archives/1073010267.html
(Text:上野郁美)
**新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急企画第4弾**
2020/12/3〜2021/2/28まで受付。
販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2020/09/15944/
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ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。