多様な「生きづらさ」を感じる人たちの「居場所」を運営する人たちがいる。コロナ禍において「不要不急」と言われがちな活動を、感染拡大防止策を取りながら、「居場所」として維持するために、どんな苦労を感じどんな工夫をしているのだろうか。

 NPO法人ダイバーシティサッカー協会理事でビッグイシュー基金スタッフの川上 翔が登壇した、「居場所フェスタ2020 in とよなか」(2021年1月30日に大阪府・豊中市が開催)の第2部パネルディスカッションについてレポートする。

コロナ禍がもたらした、生きづらさを感じる当事者、団体運営への影響とは

外国にルーツのある若者の場合/山野上 隆史さん:公益財団法人とよなか国際交流協会

「当事者に関しては、居場所が閉鎖されたことで行く場所を失う若者がいたという点が大きいです。その他にも職を失う、生活が不安定になった者など様々な影響があります。不安を発散する場が無くなってしまったため、オンラインの取り組みや感染対策を施しながらの活動を開始。以降は少しずつペースを取り戻してきたようです」

「運営面では、これまで大事にしてきた『場の継続』が公共施設の閉鎖により途絶えてしまったことがあります。幼い頃からオンラインに慣れ親しんでいる若者でも、物理的に足を運ぶこと、リアルタイムで場の空気を共有することをオンラインで完全に代替することはできませんでした」

オンライン運営の難しさ

「Zoomで交流はできていますが、言葉にならないようなもの、全体ではシェアしないけれど誰かに尋ねられたり、水を向けられたらポロっと出るようなものをどうやって拾うか、これは課題です。場をマネジメントする上でのアンテナの張り方は変わってくるのではないでしょうか」

2部_山野上 隆史さん:公益財団法人とよなか国際交流協会

公益財団法人 とよなか国際交流協会
大阪府豊中市玉井町1-1-1-601 「エトレ豊中6階」
TEL:06-6843-4343
FAX:06-6843-4375
https://a-atoms.info/about/index.php?y=2017

「ひきこもり」などの若者の場合/山下 耕平さん:づら研(NPO法人フォロ)

「当事者研究会『づら研』はオンラインでもできたんですが、居場所「なるにわ」の活動は、会食を軸としてきたので、それができないのは大打撃でした。言葉でのコミュニケーション以前の、目的なくゆっくり過ごすという、まさに『不要不急』のことにこそ居場所の意味があるんだと思います。一方、遠方の方とオンラインで繋がることができたり、対面での発言が苦手な人がチャットならつぶやくことができたりなど、良い面もありました」

オンライン開催の難しさ

「対面ならなんとなく場を共有していると見えてくるものがありますが、オンラインでは司会がその穴埋めをしないといけないため、運営側の負担が増えています」

特定非営利活動法人フォロ
大阪市中央区船越町1-5-1
TEL:06- 6946-1507
FAX:06- 6946-1577
http://foro.jp/narnywa/

ホームレス状態の人や若年無業者、うつ病、LGBTなどの多様な人のスポーツの場の場合/川上 翔:NPO法人ダイバーシティサッカー協会

「屋外での活動はリスクが低いものの、200人規模の大会は開催を見送らざるを得ませんでした。晴れ舞台があるからこそ日常の活動が機能するという側面もあり、練習を続けているところはたくさんありますが、モチベーションに影響が出ています。また緊急事態宣言下では『不要不急』の解釈が我々にとって切実な問題となります。団体として宣言下の活動は休止していますが、情報やインフラの格差がありオンラインではすぐに代替できないのが実情です」  

2部_川上 翔さん:NPO法人ダイバーシティサッカー協会

オンラインでの工夫

「Face to Faceが辛いという人もいる中、Shoulder to Shoulder=肩を並べる活動という考え方で、オンラインでも身体を動かすということをしています。身体を使ったじゃんけんやオンラインもぐら叩きなど、遊び要素のあるプログラムがいろいろとできます。(コロナ禍が収束しても取り組みを続けるかという問いに対し)おそらく続けます。海外関係団体ともオンライン企画で繋がることができるようになり、リフティング動画を繋げようというプロジェクトに参加しています」

NPO法人ダイバーシティサッカー協会
https://diversity-soccer.org/

ヤングケアラーの場合:/朝田 健太さん:ふうせんの会

「開催時期の遅れという影響はありましたが、コロナ禍で困っている人の居場所がなくならないよう模索しています。大学のキャンパスという会場の特性(広さ)を生かして感染対策を十分に施し、オンラインだけでなく必ず対面の場も用意しています。また、広角カメラを導入し、会場全体をうつすことで、オンラインでも同じような雰囲気で参加できるよう配慮しています」

オンラインのメリット・デメリット

「良い面は物理的な制約なく来ていただけることや動画で振り返れること。悪い面は発言のタイミングが計りづらくファシリテーターがいないと場がまわらないこと。また急な参加が可能なため、Zoom URLの配信など運営側は大変です」

2部_朝田 健太さん:ふうせんの会


ふうせんの会
https://peraichi.com/landing_pages/view/balloonyc/
Twitter:@yc_balloon

ひきこもりの人たちの場合/岡本 康子さん:こもりむしの会

「2020年4月~5月の緊急事態宣言下は公民館が急に使えなくなるなどしましたが、宣言解除後は広い会場で人数制限をしながら集まったり、オンラインでもZoomで週3回~4回、1回あたり6~7時間など、どこまでやるべきかと思いつついろいろ試しながら活動を続けてきました。『不要不急』の捉え方に悩みながらも、リアルに集まれる場を待っている人がいることを感じています。市外県外の人も、来られるようになるときまで気持ちを持ち続けてほしいと思っています」

こもりむしの会
兵庫県宝塚市光明町2-5-101
TEL: 050-5215-0900 (10-16時)
LINE:@jlz8694z
Webサイト: https://harapeco-morimushi.com/about
ブログ: https://ameblo.jp/harape-comorimushi/

発達障害のある人たちの場合/石橋 尋志さん:さかいハッタツ友の会

「感染対策を施し、飲食なしで対面開催をしたり、人数制限がある会場ではオンライン開催をしています。コロナ禍を受け、やらざるを得なくなりオンラインでやってみると、それなら参加できるという人が出てきて、違う層を取り込めているのは良い点と言えます。リーダーのIT得意不得意の差が表れ、自助グループの世界もオンライン優位に変わってきていると感じています」

オンライン活動の特徴
「オンラインはZoomとは限りません。参加者はラジオのように聞いているだけ、文字で喋るスタイルのツイキャスを活用しています。発達障害の人には、喋るのは苦手だが文章化は得意という人も多く、うまく組み合わせられています。
グループが31あるのでそれぞれの長の判断に任せています。得手不得手あるので、得意な人はどんどんオンラインでやる、不得意な人はコロナ禍では中止してもよいと割り切っています」

2部_石橋 尋志さん:さかいハッタツ友の会

さかいハッタツ友の会(石橋代表)
TEL: 090-6903-6060(9時〜18時)
https://sakai-dd.hatenablog.com/


ここまでの話を受け、進行役の竹内氏は「辞めるのは簡単だがどうにかしてやろうと模索していることが大事」と各団体の取り組みと姿勢を称賛した。一方コメンテーターの伊藤氏は、社会学者としての視点から「コロナによって意識していなかったことが意識化されてきた今、ある種の(負の)社会実験という側面があると思っている。居場所のメリットがもっと表に出てくるのでは」と述べた。またデジタルにうまくのれない部分は、昔の知恵を発掘していくことで何か工夫できるのではないかと示唆した。

居場所は「不要不急」なのか

最後に竹内氏は「居場所に行くことは不要不急と思うか?」と各団体へ投げかけた。これに対する各団体からの答えは、「緊急事態だからやる、やらないではなく常にあること、淡々と続いていることが大事。そしてその居場所の活用、関わり方は当事者自身が決める。決められる社会であることが大事」という点で根底は一致していた。

イベントの締めくくりには参加6団体それぞれからの感想が寄せられた。各団体につき一言ずつを紹介させていただきたい。

「今回、団体同士が繫がることで居場所が増えていく人がいると実感できました。生きづらさをキーワードに居場所を作っているけれど、居場所に求めるものは支援という形ではないこと、社会の在り方を問うのだという姿勢、こういった点が各団体に共通していると感じました」
(公益財団法人とよなか国際交流協会 山野上さん)

「私たちは同じ社会状況の中を生きていて、その中で生じる困難さはその人の置かれている状況によって様々。居場所に来て元気になりました、今の社会でやっていけるようになりましたと、ともすればサクセスストーリーに落とし込んでしまいがちですが、一部の成功例を取り上げて自分たちの活動に意義があるということではなく、99%の他の困難さを抱えている人と一緒に考えていけるような道筋を作っていきたいです」
(づら研(NPO法人フォロ) 山下さん)

「多くの良いキーワードが得られ、言語化することの大事さを実感しました。継続して連携していけたらと思います」
(NPO法人ダイバーシティサッカー協会 川上さん)

「いろいろな活動のやり方があると感じました。他団体の力を借りるなど、コラボすることで、会に来ている人の選択肢が広がり、そこから新たな出会いがあるのかなと思います」
(ふうせんの会 朝田さん)

「始めた当初は『本当に来るのか?』という声がある中、まずはやってみたところから様々な出会いがあり、今に至ります。これからもここを活動の拠点として、ひきこもりの方だけでなく他の生きづらさを抱えている方にも知っていただく活動を続けていきたいと思います」
(こもりむしの会 岡本さん)

「私たちはコロナ禍で社会が大きく変わっていく、ニューノーマルが進んでいく時代に遭遇しています。これは今まで虐げられていた人にとって活躍の場が増えるチャンス。希望を失わずに生きていけばいいことがあると思っています」
(さかいハッタツ友の会 石橋さん)

各団体からの感想を受け、伊藤氏がイベントを次のように総括。
「コロナ禍で行動が制限される中で、何が本当に必要かということを実感する一年でした。居場所というものを必要とする人はたくさんいて、まだまだそこにリーチできていない人もいることがコロナ禍で可視化されたのだと思います。このイベントが配信されることも一つですが、居場所を地域でどう拡げていくか、拡がった場所をネットワーク化するかといった検討もこれから必要になってくるでしょう。今回のイベントはそのための重要な機会であったと感じています」
進行を担った竹内氏は、視聴しているひきこもり当事者、家族、行政、運営団体など様々な立場の方に対し、興味がある団体にはぜひアクションを起こしてほしいと呼びかけた。

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「居場所フェスタ2020 in とよなか」

主催:大阪府・豊中市
会の目的:当事者活動や居場所の活動、そしてコロナ禍での影響について、より多くの当事者、運営者、行政関係者に知ってもらい、新たな社会資源に繋がることを期待。

進行:PSIカウンセリング 代表 竹内 佑一さん
大阪・心斎橋にあるPSIカウンセリングルーム代表。公民問わず積極的に他団体とも連携しながら、「家族問題」「ひきこもり」「不登校」「水商売」「非行」などの相談に対応している。


コメンテーター:長崎県立大学 地域創造学部公共政策学科 講師 伊藤 康貴さん
自身のひきこもり経験にもとづきながら、ひきこもりに関する社会学的調査研究を行っている。ひきこもり当事者の複数のグループに日常的に参与しながら、同時にそこで出会った当事者の生活史やライフストーリーをインタビューしている。

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取材協力 甲斐彩子






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