ホームレスの人に向かって「とっとと働けよ」などと言ってしまう人が、少なからずいる。そのような発言は、就職活動以前に解決しなければならない「土台」が欠落していることへの理解不足から来るのではないだろうか。「今日はどこで安全に寝られるか」を心配せずに済む環境を整えることもその1つだ。

ドイツでは昨冬、ストリートペーパーを発行する諸団体が発起人となり、コロナ禍で空っぽになったホテルをホームレスの人々に利用してもらうプロジェクトがすすめられた。ドイツ・ドルトムントのストリート誌『BODO』が取材した。



2021年2月ー 普段なら人の出入りが絶えないホテルロビーは閑散としている。異様な光景だ。ロックダウンの最中、ホテルは一般客をすべて断った。そして、いつもの宿泊客がいないこのホテルには現在、10部屋に路上生活者が宿泊している。


ロックダウンの影響で空きだらけとなったホテルに路上生活者が滞在

アイデアは単純だ。ロックダウン中のホテルはガラガラなのだから、緊急シェルターが使えない人たちに、ホテルの空き部屋に入ってもらえるのではないか。路上生活者は厳しい寒さを凌ぐことができ、ホテル側も継続して収入を上げられる。

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Sebastian Sellhorst

この事業にはドイツ各地の都市が参加、運営費はコミュニティや財団資金、寄付によって賄われた。ドルトムント市では、『BODO』の他、「ガストハウス(Gast-Haus)」、「チームワームバス(Team Wärmebus)」といった団体が資金と寄付金を提供し、ホテルステイ事業の試運転を始めた。シングルルームとダブルルームを10室用意し、宿泊費は特別に設定してもらった。相談業務を行うための部屋も1室設けた。

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Sebastian Sellhorst

利用希望者には面談を行って、宿泊場所を割り当てる。支援団体のソーシャルワーカーたちが1日おきに現場を見回り、滞在者が問題なく過ごせているか、必要なものはないか、質問はないかを確認している。

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Sebastian Sellhorst

20人以上の路上生活者が凍死するドイツ

パンデミック初年度は、未曾有の事態を前にさまざまなリソースが枯渇し、路上生活者の貧困状態も深刻を極めた。ホームレス支援団体は、「コロナ禍の冬(Corona-winter)」がもたらす危険性を警告し続けてきた。「ホームレス慈善団体協会(Federal Association of Homeless Charities)」によると、2月中旬までに、ドイツ全体で20人が凍死している。

極寒の時期が近づくにつれ、ドルトムント市でも宿泊場所を倍増させ、シェルター利用を呼びかけた。夜間に雨風をしのげるようにと、駅の地下通路を開放する措置も取られた。ただ、寒さが危険だとわかっていても(ドルトムント市の1〜2月の気温は0℃前後)、シェルターの人数制限や劣悪な環境などを理由に、路上を選ぶ者たちもいる。


ホテルに滞在している路上生活者の様子

現在このホテルには11人が滞在している。その1人、ミハエルは路上生活歴2年になる。パンデミック前は「本を読みに図書館に行ったりしていましたが、今はそれもできません。私は本好きで知られているんです」と笑う。部屋には、ドイツの作家の小説やビートルズの関連本が積まれている。今読んでいるのはウンベルト・エーコの『フーコーの振り子』だ。彼はホステルを利用した経験はない。狭い空間で他の利用者とうまくやっていけるか、不安の方が大きかったからだという。「こんな寒い時期にホテルに滞在できて、なんともありがたい。家をなくして以来のテレビがある生活ですよ」

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Sebastian Sellhorst

トマス(51歳)は、「ここに来て、日々のニュースを追うことができています。天気予報も確認できるしね」と語る。例年は、この季節でも野宿していた。「寝袋の中でたくさん重ね着しても、外気が3、4℃だとほんとにつらい。野宿していると熟睡できなくて、気持ちまで冷え切るんです」。一年で最も寒い時期を屋内で過ごすことができ、「とても穏やかな気分です」と語る。警戒心が解けると、他のことにもエネルギーを向けられる。「今、自分が利用できる制度はあるのか調べてみよう、住所登録もしようなどと考え始めました」と言う。住所のないホームレス状態の人たちも、社会福祉相談所の住所を登録すれば、職業案内所からの郵便物などを受け取れる。

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Sebastian Sellhorst

寝床の心配をしないで済む分、路上脱出を考える余裕が出てくる

ホテルステイ事業はすでに大きな効果をもたらしている。「路上生活者がしっかりと休養をとれ、久々にベッドの上で心配ごとのない朝を迎えられるのです」と支援団体のラットコウスキーは言う。「滞在者が他のことに立ち向かうエネルギーを得られるのは、とても大切な効果です」と別のスタッフ、スエックが言う。

滞在者を他の支援につなげることも重要視し、滞在者のその後を想定したアドバイスも行っている。路上生活を続けている一人ひとりの事情に合わせて、支援団体を割り当てる。既存の支援事業の枠から抜け落ちてしまった人たちを見つけ、支援につなげるイメージだ。

スエックは以前からトマスに社会保障給付金の手続きをするよう勧めていた。住居を持つための第一歩となるからだが、本人にそこまで考える余裕がなかった。「ここで安心して過ごせるようになり、彼は先のことを考えてみようという気力が出てきたのです」とスエックは言う。

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Sebastian Sellhorst

当事者がホームレス状態から抜け出すことに向き合える状態に持っていく、これが何より肝心だ。そのためには、支援者からの助言、具体的で忍耐強いサポートはもちろんだが、そもそも当事者が「今夜はどこで寝るか」という命にかかわる悩みから解放される必要がある。

ホテルステイ事業の終了時に成果を統括することになっているが、今後の見通しは明るい、とスエックは言う。「当事者たちがこんなにもすぐに気力を取り戻し、自分の今後について考えられるようになっているのですから。とてもうれしいです」

By Alexandra Gehrhardt
Translated from German by Louise Thomas
Courtesy of bodo / INSP.ngo

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