度重なる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置にもかかわらず、新型コロナウイルスの感染は拡大。並行して、雇止めや廃業などが相次ぎ、いわゆる「ふつうにコツコツ働いてきた人」も生活困窮者に陥ってしまいかねない。行政も民間も必死でもがく中、支援団体の活動にかつてはなかった動きが生まれている。その動きを共有し、深めていこうと2021年8月7日、シンポジウム〈コロナ禍の中での生活困窮者への支援活動をめぐって〉が開催された。
コロナ禍の中で、ひっ迫した状況に追い込まれた生活困窮者への支援活動に取り組んできた支援団体、弁護士ら計5人が登壇。大阪での取り組み事例の報告、ディスカッションや参加者との意見交換を行い、協働の成果と、見えてきた課題を議論するシンポジウムとなった。
本イベントの主催は大阪の市民団体「釜ヶ崎講座」(大阪)。コーデイネーターを務めたのは、白波瀬達也さん(関西学院大学人間福祉学部 准教授)。パネリストとして小林大悟さん(NPO法人釜ヶ崎支援機構)、松本裕文さん(NPO法人釜ヶ崎支援機構 事務局長)、永井悠大さん(認定NPO法人Homedoor)、小久保哲郎さん(生活保護問題対策全国会議 事務局長、弁護士)、認定NPO法人ビッグイシュー基金 プログラム・コーディネーターの川上翔が登壇した。
この記事は、2021年8月7日に大阪市内で開催された、釜ヶ崎講座シンポジウム〈コロナ禍の中での生活困窮者への支援活動をめぐって〉レポートその1です。
シンポジウムでは初めに、新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴う第一回目の緊急事態宣言が発出された2020年4月から1年半におよぶ、それぞれの団体の困窮者支援の事例を紹介。この記事では、その中から小林大悟さんの事例発表をレポートする。
22団体と専門家が連携し、ワンストップによる困窮者支援へ
2020年4月、「NPO法人釜ヶ崎支援機構」の小林大悟さんは、やがて大阪においても新たに多くの人々が行き場や居宅を失い、路上生活を余儀なくされる事態になるということを予想。「いま支援団体にできることは何か」という思いから、大阪での支援プロジェクトの呼びかけに動いた。リーマンショック時に失業者数が増え、様々な支援がパンク状態に陥った経験から、小林さんが立ち上げたのは、「新型コロナ・住まいとくらし緊急サポートプロジェクトOSAKA」という、緊急宿泊・居宅移行・生活支援をおこなうプロジェクトだ。
小林さんが「ALL大阪」と呼ぶ、22の団体に連携を呼びかけたのは、大きく目立つ看板の設置という目的がある。当初、先行きの見えない中、信憑性の有無や判断の難しい情報など、当時の小林さん自身にも、必要な情報が見つけにくいと感じる状況があった。
その状況で、困窮やホームレス状態に陥った方が、今のその人自身にとって必要で、正確な情報をどのように集められるか。
小林さんは1つの大きな看板を掲げることによって、見つけやすく、安全で正確な情報を発信できるのではないかと考え、支援団体の連携がプロジェクトの目的とした。
また、困窮者を狙った「貧困ビジネス」が横行する中、広く認知されている複数の団体が一つになることによって、信頼性が高まることを期待した。
各団体の資源、強みを共有し、スピーディな支援に
困窮者の支援と一言で言っても、昼回りや夜回りといった“アウトリーチ”が得意な団体、オンラインでの発信が得意な団体、宿泊施設や住居確保が得意な団体など、様々な特色がある。平時は各支援団体の相談員が困窮者に対応しているが、このプロジェクトでは、各団体がそれぞれに持っている資源(人材・モノ・情報など)をシームレスに利用できる体制を整えたことにより、速やかな支援の実施を実現することが可能となった。困窮者はよりレベルの高いサービスや支援が受けられるだけでなく、支援団体で働いているスタッフも、自分が得意とする分野で関われることが可能となったのだ。
クラウドファンディングによる資金を効率よく運用
このプロジェクトでは、クラウドファンディングによって資金調達を行った。テレビ放送で取り上げられたこともあり、目標金額を大幅に上回る寄付を集め、522人の協力者から約715万円が集まった。* https://camp-fire.jp/projects/view/261315資金は現在も緊急宿泊支援の実施などに充てられており、151人の困窮者に延べ1116泊の支援(5月末時点)が実施された。
これまではシェルターに入るまで毛布を配布し、数日間は野宿をして待機してもらうなどの支援方法が多かったが、今回はビジネスホテルや、西成区内の簡易宿所にすぐ案内が可能となるなど、個室での寝泊まりができるような支援が実施されている。
食料支援では、緊急宿泊支援実施中や生活保護の受給決定までの2週間~1か月弱の待機期間、必要な食料をこのプロジェクトで集まった資金だけで支援。少なくとも5500食以上を提供。また、居宅移行後の最低限必要な日用品の提供も行なった。
困窮者の相談にワンストップで解決する仕組み
2020年4月、5月、7月、年末年始、そして2021年のゴールデンウィークの期間には、西成区と北区にて相談会を実施。福祉・就労・医療・法律・労働・住まいなどの専門家が、困窮者がかかえる問題に直接相談に応じて、解決できる体制を整え、相談者数は計88人にのぼった。相談会の直前にはアウトリーチ活動(昼回り・夜回り)も実施している。夜回りで話を聞いてから、最短半日で居宅支援
先述のように、このプロジェクトが大阪ローカルニュースにも取り上げられ、一連の支援活動について実際の現場が詳しく報道され、現在もアーカイブが視聴可能だ(下記リンク参照)。例えば、夜回りで出会った困窮者に13時間以内に居宅支援を行い、相談会を訪れた方への就労支援では、2日後に就職先が見つかり、会社の寮に入ることができた人もいた。・関西ローカルニュース枠の特集(動画)
【特集】苦難の時こそ あす、住む家を失ったら…新たなホームレスを救え(「キャスト -CAST-」朝日放送テレビ 2020年5月27日放送)
ネットで専門家への相談受付も可能
また、総合のWeb相談窓口を新規開設し、各団体が大阪府内の広域で相談者に対応した。相談者の総数はこれまでに40人。いわゆる困窮者支援団体だけでなく、不動産関係、医療施設、法律、障害者福祉支援団体などが連携しながら活動している。<相談無料>住まいとくらし緊急サポートプロジェクトOSAKA https://peraichi.com/landing_pages/view/coronasoudan
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釜ヶ崎の困窮者支援、コロナ禍の影響とは/BIG ISSUE LIVE #4「コロナ禍の支援現場から見えてきたこと」その1 - BIG ISSUE ONLINE記事作成協力:Y.T
「釜ヶ崎講座シンポジウム〈コロナ禍の中での生活困窮者への支援活動をめぐって〉」イベントレポ
・困窮者にはまず住まいの確保を。「おうちプロジェクト」とは
・1万件以上の「電話相談」から見える困窮者の現状と生活保護制度のいま(弁護士・小久保哲郎さん)
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ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。