前回(本誌432号)に続き、北海道電力(以下、北電)・泊原発を話題にしたい。2022年5月31日に札幌地裁(谷口哲也裁判長)が泊原発の運転を差し止める画期的な判決を下したからだ。泊には3基の原発があるが、すべてが差し止めの対象だ。想定される津波に対して「防潮堤が機能せず、安全性を欠いている」というのが判決の理由である。











津波への安全性を欠く原発
周辺住民の人格権を侵害

 1200人を超える住民たちが原発の運転差し止めを求めて提訴したのは2011年11月11日だった。長い裁判闘争だった。提訴で住民たちが求めたのは、①運転の差し止め、②使用済み核燃料の撤去、③廃炉措置の実施だった。

 判決では①のみ認めた。②については「危険性はあるが、撤去先を限定していないから、危険性がなくなるわけではない」として認めなかった。③については「廃炉が必要とまでは認められない」とした。残念なことに、原告は、政府ならびに北海道の防災計画の範囲を採用して半径30km圏内の44人に絞られた。

 原告が主張した危険性に関する津波以外の争点は、地盤や地震、火山噴火、防災計画の適否などだった。判決は「津波に対する安全性を欠いているから、他の争点について判断するまでもなく、その運転によって周辺住民の人格権(生命・身体)を侵害するおそれを有する」としている。すなわち、他の争点を否定したものではなかった。

 谷口裁判長は判決を下すに至った理由を以下のように書いている。
 「――提訴から10年以上が経過しているが、なお、北電が泊原発の安全性についての主張・立証を終える時期の見通しを述べていない。原告は危険性の主張・立証を終えたとしているのに対し、被告北電は規制委(原子力規制委員会)の審査の状況によって、主張を変更している。その変更の都度、原告は対応に追われている。こうした状況で裁判を継続することに合理性がない、として判決した」


434原発
判決言い渡し直後の札幌地方裁判所前にて  
写真提供:脱原発弁護団全国連絡会

差し止め判決は3例目
耐震性、避難不能、津波

 前回で報告したように、北電は規制委の審査においても十分な対応ができずに、更田豊志委員長から「自社に地震・津波・火山の専門的議論に応じられる人材を抱えていただきたい」とまで言われる始末だ。法廷においても、北電が専門能力の欠如から安全性を立証できなかったのだ。
 北電は防潮堤の嵩上げ工事を福島原発事故後に行い、2014年に完了している。しかし、規制委が液状化による機能喪失を指摘。この3月から10ヵ月の工期予定で解体工事に入っている。新たな防潮堤を設置する計画だが、沖合いの海底活断層の影響評価が完了しておらず、防潮堤の設計ができない状況だ。運転差し止めは自ら招いた結果といえる。
 運転差し止め判決はこれで3例目となった。14年5月に関西電力・大飯3、4号機(福井県)が耐震性の欠如で、21年3月に日本原子力発電・東海第二原発(茨城県)が避難不能で、そして今回は津波が理由だ。
 通常、訴えた側に立証責任があるが、今回の裁判も電力会社に立証責任があるとした。電力会社が詳しい資料やデータを持っており、これらが十分に公開されていないのだから、安全性の立証責任は電力会社側にあるとの判断だ。原発裁判ではこれが定着している点にも注目しておきたい。
 海底活断層問題や火山問題などまだまだ審査に時間がかかりそうだ。北電は6月2日に控訴したが、裁判に対応できず同じ轍を踏むことになるのではないか。


(伴 英幸)

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(2022年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 434号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
http://cnic.jp/ (web講座を動画で公開中)











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