昔は、“ホームレス”というと、世捨て人のような風貌をイメージしたものだが、昨今のホームレスの人たちの中には、パッと見て困窮しているとわかりづらい人も多い。下記に紹介する2人の女性もそうだ。ドイツ・シュトゥットガルトの女性向けドロップインセンター「Femmetastisch」(カトリック系の女性向け社会事業、の意)で住宅緊急支援部長を務めるイングリッド・ストールに話を聞いた。

約7万8千人の成人女性がホームレス状態、しかし“目につきにくい”

ホームレス支援にあたるドイツ連邦合同委員会によると、2020年時点で、ドイツ国内には約7万8千人の成人女性がホームレス状態にあるという。だが、男性のホームレス問題の方が断然、可視化されやすい。「女性のホームレスは、男性とは異なる苦労があります」とストールは語る。

これは、男女の社会的な役割に起因するのだろう。「女性の多くは世間の目を気にして、身だしなみを保とうとします。ホームレス男性に多いのはアルコール問題ですが、女性の場合は摂食障害や薬物の問題が上回ります。酔っぱらいはぱっと見てわかりやすいですが、女性が抱えている問題は、表面上はわからないケースが多いのです」とストール。

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なぜ女性が住まいをなくすのかーーこの問いに明確な答えはなく、共通項を見つけるのは難しい、とストールは言う。「唯一、共通の特徴を挙げるとしたら、そこに暴力が介在しがちなことです。選択肢が多いはずの高学歴の人でも、女性の場合は大変な出来事に見舞われ、精神を病み、まともな生活ができなくなる人がたくさんいます」

女性向けドロップインセンターの“参加型”支援

「30年前くらいから、女性に特化した支援の必要性が出てきました」と、ドロップインセンターの設立当初を振り返るストール。この日中のハブ拠点では、洗面所、簡単な食事、古着のストック、睡眠が取れる静かな部屋を提供してきた。現在は、支援型住居も提供している。賃貸とメンターシップがセットになった、女性の自立支援のための住居だ。

さまざまなアクティビティを通して女性同士が交流できる機会のほか、コンピューターや裁縫のクラスも提供している。「暮らしに最低限必要なものを提供するだけでなく、参加型であることを大切にしています」とストールは言う。「長年、ここに通い続けている女性たちもいます。不安定な生活環境からなかなか抜け出せないのでしょう。彼女たちにとっては、ここが“ホーム”なのです」

「まさか」の事が起きたときに社会的支援を

先述の通り、女性が住まいをなくすときというのは、配偶者や恋人からの暴力が関わっていることが多い。「女性が別れを経験し、生活の転落を防ぐ社会的なサポートシステムがないと、状況は一気に困難を極めます」とストール。

パウラの身に起きたことが、まさにそうだった。過去に付き合っていたパートナー二人から、立て続けに暴力を振るわれていた。最初の夫からもよく殴られ、メンタル的な問題を抱えるようになっていた。その後、婚約した相手は、彼女の銀行口座のお金を使い切ってから、彼女の元を去った。そのため、数週間、シュトゥットガルト市内で住まいのない状況に陥った。男たちが近寄ってきて、売春を求められることもあった。56歳の身には経済的にも厳しかった。友人を介してドロップインセンターの存在を知ったパウラは、現在、支援型住居に入居している。2022年8月には、健康上の問題からリハビリ施設で数週間を過ごした。

ストールはまた、男女ともにかかわるホームレス問題と、女性に特化したソーシャルワークとを区別する。「女性に特化した取り組みには、男性とは異なる配慮が求められます。女性が社会の中で置かれている状況について理解し、女性の側に立ってケアする必要があります。社会的に不利な立場にある人ほど、昔ながらの男女の役割にしばられがちです」。さらに、コロナ禍が社会における女性たちの立場を後退させ、「男女平等とはほど遠い」ことを突きつけたとも指摘する。

シルケのストーリーは、誰だって住まいをなくしうるということを物語る。32年間、夫と一緒に世界各地を旅し、生活してきた。しかし夫が突然亡くなり、シュトゥットガルトに舞い戻ってきた。元は教師として働いていた彼女だが、結局、24時間体制で介護を行う、ドイツでは東欧出身の女性が担うことが多い仕事に就いた。自分のアパートは手放し、介護する高齢者宅に住み込みで働いた。いわゆる「ミニジョブ制度*1」での仕事なので、月間給与は上限400ユーロ(約6万2千円、2023年7月現在)だ。本人いわく、“一種のサバイバル戦略”だ。

*1 給与額や、労働日数にあらかじめ制限が設けられているドイツの雇用形態。

「私にとっては、この仕事のお金よりも人間的な側面が重要なんです。夫を亡くした今、自分の持てるかぎりの愛情を患者さんに注げますしね」

「労働力をあまりにも安価で提供しているのかもしれません。でも部屋と食事付きですから、私には十分なんです」。

しかしその後、自身が病身となり、ドロップインセンターの計らいで入院することに。「この先どうなるのだろうと不安に襲われました」。退院してしばらくしてから、教会や市役所の支援でなんとか新しいアパートを見つけることができた。「路上生活こそ免れましたが、いつそうなってもおかしくない状況でした」と振り返る。

最後にシルケがぽつりと言った。「多くの女性が、紙一重のところを生きているのです」

by Nina Förster
Translated from German via Translators without Borders
Courtesy of Trott-War / International Network of Street Papers


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