リゾート先として人気のハワイだが、実はホームレス状態にある人の割合が全米トップレベルにある。そんなハワイで最近、この危機に立ち向かおうとするムーブメントが広がりつつある。ワシントンD.C.のストリートペーパー『ストリートセンス』の記事を紹介しよう。

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ラハイナマウイの路上に座っているホームレスの女性/Debora Vandor/iStock

住宅難で緊急事態宣言が出たハワイ、期待されるイノベーション

ホームレス対策の一環として、2023年、ハワイ州知事のジョシュ・グリーンは住宅難の緊急事態宣言を発表し、建築規制の多くを一時停止措置とした。これにより、不動産開発業者は手頃な価格の住居、いわゆる「アフォーダブル住宅」が建てやすくなっている。

とはいえ、アフォーダブル住宅の建築にはさまざまな障壁があると業者は口を揃える。高騰する建築資材に加え、建築スピードの鈍化や高額化をもたらす政治状況もわざわいし、人々のニーズに応じることは容易ではないのだと。しかし、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の最新研究でも指摘されているとおり、ホームレス人口増の主要因は「アフォーダブル住宅の不足」にある。

非営利の不動産開発業者ホームエイド・ハワイは、ハワイ州各地に「カウハレ(Kauhale)」と呼ばれる住居を建設していく計画だ。カウハレとは、ハワイ先住民の風習にならった、質素な寝室と共有スペース(バスルーム、ダイニングルーム、リビングルームなど)を組み合わせたもので、重視しているのは単なる「“家”の提供」ではなく「“支援コミュニティ”を築くこと」だ。

ホームエイド・ハワイ取締役のキモ・カルヴァーリョは、「緊急事態宣言下では、イノベーションを追求できると期待しています。規制緩和により、我々の支援対象であるコミュニティが必要とする住宅を開発しやすくなっています」と意気込む。開発業者と支援対象者が対話しやすくなるため、ホームレス状態にある人たちが「安定した生活を送れるだけでなく、コミュニティとして生き生きと暮らせる家をかたちにしやすくなる」のだと。

『ストリートセンス』販売員のジェット・フリジェットは、5年間ホームレス状態にあった。ホームレス状態を経験した後に住まいを得た仲間を数多く見てきた一方で、住宅支援プログラムから取り残される人もいたと話す。「住居を得てからも、多くの人はまたもとの仲間のところに戻ってきます。それまでのつながりが懐かしくなるのでしょう。仲間たちから切り離され、隣人が閉鎖的な人だったりして、孤独になってしまうのです」

米国ホームレス問題連絡協議会(USICH)によると、「サポーティブハウジング」とは、地域に根ざした安価な住居と、当事者主体の包括的支援を融合したものをいう。障害者やホームレス状態の人などが主な対象者とされ、カウハレモデルや欧州の公営住宅など、さまざまな住宅設計のヒントとなっている。

公営住宅とサポーティブハウジングは、いくつかの点で異なる。「公営住宅」は政府が所有し、低所得層とより豊かな層がすぐそばで暮らし、「サポーティブハウジング」は民間運営のものもあり、必ずしも住人の所得層は多様ではない。サポーティブハウジング事業の成功度合いはまちまちで、住人の間に連帯感が形成され、包括的なサービスが提供されているコネチカット州の事例に対し、提供される支援も限られ、住人が孤立しがちなアーカンソー州の事例もある。その原因は、政治環境、不十分な包括的支援、高騰する家賃対策の欠如、修繕の行き届かなさなど、『ストリートセンス』紙でも報じてきた問題にあるのだろう。

プレハブ住宅、バリアフリー、ボランティアによる建築...各デベロッパーの対策

住宅建設には多額の費用がかかる。ワシントンD.C.拠点のシンクタンク「アーバン・インスティテュート」の解説記事*1 によると、開発業者には、土地購入、建材の入手、会社の運営など、さまざまな費用が課せられる。利益が上がることを投資家や融資元に納得させられなければ、施工前に事業を打ち切られる場合もある。不動産開発業者は、建設費を低価格に抑えなければならない厳しい立場にある。

*1 https://apps.urban.org/features/cost-of-affordable-housing/

取材した不動産開発業者は、こうしたプレッシャーにそれぞれの対策を講じていた。住宅建設における技術的障壁ーー工期、労力、建設費ーーを重視し、常識にとらわれない方策(タイニーホーム(小さな部屋)、3Dプリント技術、麻製の建材など)に投資していると語った業者もいた。

その一つ、コネクトホームズ社では、事前に建てた家を搬送する「プレハブ住宅」を活用している。「弊社は、モダンな住空間を、多くの方により適正な価格で提供することをモットーとしています」とマーケティング主任のホイットニー・ウォーカーは話す。これまでにカリフォルニア州で何百床ものプレハブ住宅や複数のシェルターを設置した実績がある。

取材した不動産開発業社のうち3社は、住宅問題の真の障壁は「技術」よりも「政治」にあるとの意見だった。ホイールパッド社の管理職は、住宅業界のロビイスト*2 が競合他社を追い出そうと必要以上に厳格な建築基準法を用いているうえ、政府のイノベーション支援も十分でないと訴えた。

*2 院外活動の専門家(権益団体から金をもらい、議員や官僚などに働きかけ、議会での政策決定に影響を及ぼそうとする)

ホイールパッド社では、車椅子利用者用のリフトなど、障害者が利用しやすくなる設備の製造、据え付けを行う。製造にかかる時間は競合他社よりはるかに短いが、金額が法外に高くつく。「既存のテクノロジーを活用できるようにつくられているのですが、ひと昔前に自宅の屋根に太陽光パネルを取り付けたときのように、時間やお金、労力、専門知識が必要となります」と、同社のビジネスグロース部長RJアドラーは言う。再生可能エネルギーを支援しているように、政府が新しい技術に助成金を出せば、障害者向け設備に特化した企業がもっと事業拡大できるだろうと指摘する。

ホームエイド・ハワイでは、高価な最新技術に投資するのではなく、広く支持を集めることで住宅の適正価格を実現している。全国展開しているホームエイドグループ傘下にあるため、建材や資材、設備を割安で入手できるうえ、地元のボランティア(建築家、建設管理者、土木技術者などの専門家を含む)が労働力を提供し、事業当たりの建設費を平均で80%削減させている。ハワイ州最大のホームレスサービス機関「インスティテュート・オブ・ヒューマンサービセズ」で6年間働いていたことのあるカルヴァーリョは、政府との関係は「常に煩わしい」と言い、政府からの支援よりも、現場で力になってくれている人たちとの関係性に比重を置いている。弊社は、建設業界、ホームレス支援団体、そしてホームレス当事者たちをうまくつなぐ立場でありたいと考えています」

「必要だとは思うけど、自分の近所には建てないで」のニンビー問題

開発業者が直面するのは、政府の形式主義の弊害だけではない。「ニンビー(Not In My Backyardの略語)」と呼ばれる、近隣での不動産開発に反対する住民たちからの圧力にもさらされている。風力発電所から刑務所、そしてアフォーダブル住宅まで、ありとあらゆる建造物の建設に反対する人たちがいる、と指摘するのはカリフォルニア大学バークレー校環境デザイン学部のジェニファー・ウォルチ教授だ。「『自分たちはリベラルで進歩的だけれど、自宅近くの商業エリアに高いビルは建ってほしくない』という人たちがいるのです」

アフォーダブル住宅に反対する声も大きく、そのせいで頓挫する開発事業も少なくないという。とくに強い反対勢力となっているのが、ウォルチ教授いわく、裕福で政界につながりのある人たちで、近隣の不動産価格を維持したいがために人種的マイノリティや低所得者を排除する立場は、“心が狭く、有害だ”と批判されている。

先住民の文化を大切にした「カウハレ」

とりわけハワイ先住民がホームレス人口の半数以上を占めている地域では、先住民の風習に注目する必要がある。「私たちは入居者を念頭に置いたコミュニティを築き、ここが自分の居場所だと感じてもらえるよう最大の努力を払っています。先住民の文化を中心に据え、住人たちがどんなふうに実践できるかを考えています」とカルヴァーリョは言う。

カウハレはハワイ語で「村」を意味する言葉。その特徴は「村のような機能を果たし、住人がその場所とお互いの面倒を見る」ことにある。タイニーホーム、プレハブ居室、その他の低コスト住宅など、いろんなタイプの住居がありうる。その他の共同生活モデルとは明確な違いがある。その一つが、カウハレの住人は必要なだけそこで暮らすことができ、一般の住宅に移らなければならない期限や義務がないこと。また、居住スペースの通常メンテナンスはメンバー自身が担うということ。

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ホームレス状態に陥るリスクが高いとされる、病院から退院した人向けのカウハレ「プーラマ・オラ」。https://www.projectvisionhawaii.org/kauhale
 Courtesy of HomeAid Hawaii

カウハレはハワイ全州の不動産開発プロジェクトで採用され、グリーン州知事は今後3年間で12のカウハレビレッジの建設を目指している。従来のサポーティブハウジングに欠如していた「コミュニティへの所属感」を育むうえで重要な手段になる、と推進派は期待している。「カウハレは、隣人、友人、路上でつながった人たちと新しいネットワークをつくりだせるモデル。おたがいのトラウマを理解し、コミュニティとしての目標や中間目標を設定する。お互いに支え合うことが大切なのです」とカルヴァーリョは言う。

By Cole Kindinger
Courtesy of Street Sense Media / International Network of Street Papers

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