福島第一原発の爆発事故から13回目の311日がやってくる。第一原発の中では廃炉作業が思うように進んでいない。このところトラブルが続いている。202310月にはアルプス装置の中で作業員5人が被曝するという事故が起きたばかりであった。







(この記事2024年3月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 474号からの転載です)

人為的ミスで汚染水5.5t漏洩
放射能量は220億ベクレル

今度は汚染水が漏れるトラブルが発生した(2月7日)。トラブルは第二セシウム吸着塔(サリー)の入り口で起きた。原子炉から受け入れた高汚染水からセシウムやストロンチウムを吸着除去する設備の出口から漏洩した。設備は点検中だったが、閉じるべき弁が開いており、漏洩につながった。東電HDは、漏洩量は5.5t、放射能量はガンマ線量で220億ベクレルと評価している。この事故のトラブルも前回と同様、作業前に手順確認をきちんと行っていれば避けることができたと考えられる。どちらも手順を守っていなかったことから起きた。

廃炉作業ではさまざまなことが行われているが、大きくは2つのことを中心に進んでいる。1つは使用済み燃料プールからの使用済み核燃料などの取り出しである。すでに取り出しが終わっているのは3号機(21年)と4号機(14年)である。現在準備工事が行われているのが1号機と2号機であり、1号機は27年から、2号機は25年から取り出しが開始される予定である。1号機は燃料取り扱いクレーンがプールの上にかぶさっており、これを取り除く作業が山場であろう。また、2号機は建屋の汚染が強く、除染が課題である。そして、5、6号機を含めて、すべてのプールからの燃料の取り出しの完了時期を31年としている。当初計画からは10年遅れている。

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使えなかった英国製アーム
2051年の廃炉予定は困難

もう1つは、燃料デブリの取り出しである。これは多くの専門家が指摘するように最大の難関である。1g程度の少量の取り出しですら、21年の実施予定が延びており、最近の報道では、23年度中の取り出しはあきらめたので、24年下期との報道もある。それも計画通りに進展するかは怪しい。

少量取り出しのための全長22mの折りたたみ式アームは英国で製造され、日本に運ばれ、楢葉町のモックアップ試験施設において1年近く操作訓練を行ってきた。いよいよ実機にセットしようとして、開口部のふたを開けたところ、ケーブルなどが溶けて固まっており装置が入らないことが判明した。当該開口部はこれまでも炉内の放射線量の測定や接触試験などを行う時に使われていた。その開口部の大きさは今回のとは違い、開口部に小さな穴を開けて使っていた。しかし、その段階で全面的に塞がっていることを想像できてもおかしくなかった。実施業者が異なり、横の連絡が充分取れていなかったのかもしれない。いずれにせよ「開けてびっくり」では情けない。

東電は使っていた既存の穴から釣り竿式の回収装置を入れて少量を取り出すという別の方法を検討するとしている。そうなると今回のこの折りたたみ式アームの建設は無駄になってしまったのではないか。
少量の取り出しからその先の計画はまだ固まっていないという段階である。にもかかわらず51年の廃炉は動かさないと言う。このために汚染水の海洋放出が強行された側面がある。この際、実態に合わせて廃炉中長期ロードマップを見直すべきである。(伴 英幸)

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
http://cnic.jp/ 


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