31歳で失業してホームレス状態になった彼の、再就職までの道のりとは

「これまで自分を支えてくれた人、この場にいる皆さんに感謝しています」
 
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(C)Natsuki YASUDA

この言葉はホームレスワールドカップの元日本代表選手の佐々木善勝さんがダイバーシティカップの閉会式で語った言葉です。佐々木さんは10年前にホームレス状態となり、雑誌『ビッグイシュー日本版※』の販売を始めるとともに、ホームレスサッカーチーム「野武士ジャパン」の活動に参加してきました。現在は堀江車輌電装株式会社(以下、堀江車輌)の清掃の仕事をしています。「皆さんに感謝しています」に込められた思いとは。 

 佐々木さんは山形県出身の44才。高校を卒業してから自衛隊に4年間在籍した後、地元の建設会社に就職したが不況のあおりをうけて失業。31歳で上京してからは建築現場を渡り歩いたが、「仕事もないし、そんなに人はいらない」と働く場所を失いました。

※『ビッグイシュー日本版』とは、有限会社ビッグイシュー日本が「ホームレスの人々の救済ではなく仕事を提供し、自立を応援する」ことを目的に発行する雑誌です。ホームレスの人に独占的に雑誌販売をしてもらい、その売り上げの50%以上が収入になります。

2 渋谷駅でビッグイシュー誌を販売(2008年)
渋谷駅でビッグイシュー誌を販売(2008年)
(C)Natsuki YASUDA

 ご家族との関係を聞くと「父は大工、母は俺が小学校4年生の時に亡くなった。親父とはずっと関係が悪くて失業し帰る家がなかった」といいます。路上生活をはじめ、路上仲間から紹介されたのがビッグイシュー誌の販売の仕事。

「説明を聞いても仕組みがよく理解できなくて…でも、路上での生活は寒さや食べ物など辛いことが多くて試しに販売をやってみた。そしたら“お兄ちゃん頑張ってね”って温かい言葉を大勢の人が言ってくれてね、その言葉に励まされて人生捨てたもんじゃないぞ、頑張ろうって思ったんだよね」

 雑誌販売の仕事をするようになって変わったことがあるといいます。

「人との関わり方かな。それまでは飯場を転々としていつクビになるのかこの人を信じていいのかという不安があった。でも、お客さんは雑誌を買ってくれるだけでなく挨拶や世間話したりね。人を信頼できるようになったかな。それにネットカフェで寝れるようにもなったしね」

 

3 夜はネットカフェで生活していた頃

夜はネットカフェで生活していた頃
(C)Natsuki YASUDA

 2009年、佐々木さんはホームレスワールドカップ・ミラノ大会にホームレスサッカーチーム「野武士ジャパン」のメンバーとして参加します。

「はじめは気分転換のつもりで練習に参加したんだ。でもね、試合で点を決めると嬉しい。スタッフに勧められてミラノ大会に参加することになったんだ。でも、路上生活をしていたからパスポートをとるにも住所はない。それで、1度だけ親父に会いに行ってパスポートをとってね。試合結果はボロボロだったけど色々あったね…(苦笑)」

 
5 ホームレスワールドカップ・ミラノ大会(2009年)
ホームレスワールドカップ・ミラノ大会(2009年)
(C)Natsuki YASUDA

 その後、路上生活から脱した時期もありましたが、就職活動で苦労をします。「履歴書を出しても書類選考さえも通らない。塾の清掃の仕事の面接にいったらそこも不合格。自分は頑張ってもダメなんだ、就職は諦めようって思ったよ…」

 そのことをビッグイシュー基金のスタッフと話をすると、これまでも仕事の中で数字の計算などができずクビになっていたことが分かりました。病院での検査を受けたところ、佐々木さんは知的障がいの診断がおり、現在の堀江車輌の障がい者就労で清掃の仕事に就くことになりました。

 障がい者就労や堀江車輌での仕事については「障がい者って足や手がない人の事だと思っていたから、知的障害って何だろうって分からなかった。でも、お医者さんと話したら、学生時代や仕事をしてからも、人の話が理解ができずぶつかり仕事をクビになってしまうことがあった。自分、障がい者なんだって最初はショックだったかな…でも、今は、職場の人が自分の強みも弱みも分かってくれた上で仕事を任せてくれるし頼られていて嬉しいかな」
 

6 朝の清掃現場

朝の清掃現場

7 ダイバーシティカップ4(2017年)
 ダイバーシティカップ4(2017年)

 堀江車輌での仕事はビルの清掃。朝は早いし現場も複数掛け持っているので大変だと言いつつ「雨や雪で仕事が大変と思う時はあるよ。でも、路上生活に比べれば全然マシ。帰る家があるし、信頼できる人たちがいるからね」と笑って答えます。

 「ダイバーシティカップ4」には、その堀江車輌で働くメンバーとともにチームを組んで参加し優勝をしました。「これまで一緒にやってきたみんなと別のチームになる寂しさもあったけど、野武士ジャパンのメンバーが応援に来てくれて嬉しかったな。優勝できたのも、仕事しているのも、路上生活を抜けられたのも、やっぱり自分一人の力でなくて、お客さんや野武士メンバー、職場の人のおかげだと思う。だから、みんなに感謝してるよ」
 
8 お客さん(ビッグイシュー読者)からの手紙
お客さん(ビッグイシュー読者)からの手紙
ホームレスサッカーやダイバーシティカップの活動をまとめた『2017年度ダイバーシティサッカー活動報告書』は下記からご覧いただけます。ぜひご覧ください。