障がいのある人たちが営む事業の形‐地域に根づいた本文化を継承する「あおぞら古書店」(宝塚・阪急山本駅前)

兵庫県宝塚市・阪急山本駅から東方向に歩いて1分。線路沿いの小さな古書店の棚には、小説、文芸評論、芸術関係、思想哲学といった本やCDがずらりと並ぶ。

「あおぞら古書店」

ここは「あおぞら古書店」。いわゆる地域支援センターと呼ばれる福祉事業所で、障がいのある人たちが、日常生活のリズムや社会的なつながりを築くことを目的とした場所だ。店にある古本は、すべて地域の人たちからの寄贈で、「だいたい定価の3分の1くらいの値段」だという。2006年のオープン以来、定年を迎えた男性、主婦、親子など、幅広い世代のお客さんが訪れ続けるこの店で、利用者さんたちはここで本やCDの選別・値付け・クリーニング・棚づくり・接客など自分の得意を活かした作業を行い、工賃を手にしているという。この店のなりたちやあり方について、支援員の金田恵郎さんに話を伺った。

「障がいのある人が地域と交われる場所を」と始まった場所

「最初は、一日家にいて寝ているよりは、着替えて家を出よう、とりあえず集まろう、ということで、みんなで昼ご飯を作って食べていたんです。でもせっかくならそれだけじゃなくて、何かやろうといろいろ検討したり、試行錯誤したりしてたんです」
1988年から始めていた同じグループの作業所であるリサイクルショップ「虹の家」がうまくいっていたこともあり、「それを参考に、本好きのメンバーから“古書店はどうだろう”と話が持ち上がりました」

お金の寄付は難しくても、読まなくなった本なら寄贈してもらいやすいのではと考え、書籍の寄贈を呼び掛けた。市の協力もあって新聞にも掲載され、あっという間に6,000冊もの書籍が集まった。

古本はすべて地域の人から寄付されるものだそう。

「始める前は、“漫画とかが寄贈されて、子どもの居場所になるのかな”と思っていたのですが、寄贈いただいた本はしっかりした人文関係の書籍が多くてビックリしました。本当にたくさんの本に囲まれた状態から、みんなで1冊1冊を丁寧にクリーニングし、手書きで値札を書いて、本棚を募ってはもらいに行って少しずつ増やしていき、きれいに並べて…オープンにこぎつけるまで、けっこう大変でした」と金田さん。

用はなくとも一息つける場所

「かなりひっそりと始めたので、10年くらいは地元の人たちにも気づいてもらえてなかったかもしれない」と金田さんは話すが、今は月にだいたい100冊くらいが寄贈され、60冊くらいが売れていくという。
それだと、増えていく一方では?と聞くと、「そうですね、今は15,000冊くらいになっています」という。商売上の在庫と考えると焦りそうなものだが、「ここは古書店という形ではありますけど、僕の仕事は本をさばくことではなくて、利用者さんと関わるのが仕事なので…。」
「それに、これだけ本に囲まれていると、空気が変わって来るんです。この雰囲気が気に入ってメンバーになる人もいるんですね。僕考えたんですけど、本って木と成分が一緒でしょ。だから、森林浴と同じ効果があるんじゃないかなって(笑)。」と何か嬉しそうだ。

本に囲まれた店内

数字にこだわらない姿勢はほかにもある。
「地域の人がお店に来てくれた時に、ちょっと一息つけるようにと最初はコーヒーを出していたんですが、それは今はやっていなくて」というので、カフェをやめたんですね、と聞くと「いや、コロナ禍以降、飲み物を作って出すのをやめただけで、店内でゆっくりおしゃべりはしてもらえます。用がなくても、おしゃべりしに来られる方もいます。飲み物が欲しい方には、“そこの自販機で買って来て”、って言うんです(笑)。持ち込みもしてもらって構いません」とのこと。

「経済的活動ではないけれど、価値のあることをする人たちの居場所を守りたい」

金田さんのこのおおらかな姿勢はどういう環境で育まれたのだろうか。
金田さんが大学生の時、阪神淡路大震災をきっかけに、全国から様々なボランティアが阪神エリアに集まった。瓦礫だらけで子どもの遊び場がないという中で、他県から来たボランティアの学生などと接するうちに、金田さん自身もいろいろなボランティアに従事するようになったのだそう。「大学を卒業した後もだいぶ長いことフラフラしてたんですが、ここの親の会の人とつながりがあって誘われて。それでここで働き出してから、20年以上になりますね」と穏やかに笑う。

「いろんな経験をして、稼いで、とにかく社会的に自立することが常識とされていた時代に、ここにかかわるメンバーの人たちは『いかに社会的資源を活かしながら、有意義に過ごすか』ということを考えておられた素晴らしい人たちだったんです。自身の詳細な日記をまとめて自費出版することをライフワークとしている人がいたり、障害のある宝塚の人たちとたくさんつながって交流して、当事者さんの意見を話す場をつくったりする人とか。経済的活動ではないんだけど、本当はめちゃくちゃ価値のあることをしている。いろんな作業所や居場所が、できてはなくなっていくというなかで、僕はこの人たちのいるこの居場所を守りたいなという思いでやってきました」

作業中の利用者さん

障害のあるなしではなく、「近所の一員」

地域に溶け込みたくとも、苦労する作業所が多い中、「あおぞら古書店」はなぜうまくいっているのか。「地域の人からモノを預かって販売するというスタイルが、そもそも関係として密接ですし、出入りがしやすい場所ということもあるでしょうね。メンバーさんにはゆるい感じでムリなくできる作業をしてもらうようにしていますが、お客さんには誠実にしてもらうように目を配っています。」

「そうやって20年もやってると、徐々に垣根が取り払われていくというか。地域のマルシェの事務局をさせてもらったりするうちに、障害のあるなしとかではなく、近所の人が“ケーキ余ったから持ってきたよ”って、地域の一員になってきた感じですね」

地域のお客さんが集まる店内

決して就労を第一目的には掲げていないが、そうやって社会と関わるうちに変化するメンバーさんもいる。「ここに着替えて来るだけでも、ちょっとパリッとしますし。生活のリズムが整うだけで元気になって、また働けるようになる人もいます。逆にちょっと社会に疲れたなって人がいたら、またここで元気になってもらえたらいいと思っています」

「どんな人も、結局は“仲間”。いろんなものをくれている」

「出入りしやすい店」にはいろんな人がやって来る。かつては、アルコール依存症と思われる方が出入りしてはメンバーに絡んでしまったこともあるというが、「でもその人も、本当はいい人なんですよ。結局は、仲間ですよ。」という。どういうことかと聞くと、「その人は、たまに来て、暴言を吐いたりすることもあったんですが、ある時利用者さんにバーッとあだ名をつけていってたんです。そしたらあだ名で呼ばれた利用者さんが、ちょっと嬉しそうというか、まんざらでもなさそうで。40を超えてあだ名で呼ばれる関係性を持てるのって、何かちょっと嬉しいことだったりしますよね。だから、(困らせているように見える人も)実はいろんなものをくれてたりするんですよ。まあ、暴力さえ振るわなければ、仲間です」

宝塚に立てなくなった販売者を引継ぐ形で、ビッグイシューも販売

そんな「あおぞら古書店」には、『ビッグイシュー日本版』の取り扱いがある。この店に出入りする人からの紹介で置くようになったのだ。

ビッグイシューコーナー

「うちのお客さんは、ちょっと変わったものが欲しいという人が多いので、ビッグイシューを置かせてもらえて、誇らしいというか、うれしいです。“変わった本”って、装丁を含めてなんだか独特のオーラがあるんですが、ビッグイシューにもそれがある。レディー・ガガの顔の表紙の特集タイトルが“タコとイカのこころ”とか、なんなんだそれはって(笑)」

山本駅は、10年近くビッグイシューを売っていた販売者が、お客さんとの関係を温めていた宝塚駅*と比較的近いということもあって「その販売者さんが関係を作って来られたお客さんを引き継ぐことができるなら、光栄です」と金田さん。まだ始めたばかりだが、20冊くらいは売れているという。

*宝塚駅前の販売者は10年近く販売してきたが、コロナ禍に入ったあたりから路上での販売を「違法行為」だとして警察などへのクレームが続き、販売を断念した経緯がある。
なお、路上でのビッグイシュー販売は違法ではない。テーブルを設置するなどして「占有」する場合は違法だが、ビッグイシュー販売ではテーブルなどの設置をすることはなく『移動販売』の形式をとっているため、道路法上の占用許可(同法32条参照)等は必要ない。参考・弁護士の見解:https://www.bengo4.com/c_18/n_796/

「古書店さんって、個人が生活を成り立たせるためにやるにはすごく大変なんですけど、こういう作業所という形にして工賃をお支払いする形にすれば、成立するんですよね。そうやって地域で古書店をやることで、地域で捨てられていたはずの本が、1度は生き残ることができる。そういう文化のアーカイブという側面で地域に役立てるという面もあるので、他の作業所の皆さんも、事業としてやってみたらいいと思うんですけどね」

「本を読まないと思っておられるのかもしれないけれど、本好きの人は年齢にかかわらず一定数います。行列ができるほど売れることはないですが(笑)細々とは売れますから」


■あおぞら古書店
〒665-0816兵庫県宝塚市平井2-1-2
営業時間:月〜金曜日10:00〜17:00
TEL:0797-80-2345
運営:特定非営利活動法人兵庫虹の会

ビッグイシューの委託販売制度

より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、カフェやフェアトレードショップ等、ビッグイシューの活動に共感いただいた場所で委託販売を行っています。

委託販売店の例

委託販売先一覧
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