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「単身女性」の3割が貧困、「母子世帯」の就労収入は181万円:「ハウジング・リスク」を抱える人々(1/3)

不安定就労層─住居費、収入の5割前後に



2008年、リーマンショックで話題となった「派遣切り」は、不安定就労層が急速に広がっていることを明らかにした。

そのような派遣労働者を含む非正規雇用で働く人々の数は、過去最高で、全労働者のうち、38.2%を占めると報告された(2013年7月総務省発表)。

非正規労働者は、一般的に昇給や賞与がなく、十分な賃金や身分保障がないため、生活が不安定になりやすい。貯蓄も少ないため、準備がないまま失業や解雇を経験した場合、容易に生活困窮や家賃滞納等のハウジング・リスクが発生する。生活困窮者の多くは、そのような元労働者だ。その労働者が家賃や光熱水費などのライフラインに必要な最低限の生活費にも事欠く状態に陥ってしまう。

そのなかでも生活費に占める住宅費の割合は極めて高い。相談者の多くが住宅費を払うことが困難になり、ネットカフェや友人宅を住居として利用している。

例えば、先日相談に来られた都内在住の倉庫整理業の派遣労働者の30歳代男性の場合、毎月の収入は手取りで約12万円である。家賃は月額6万円、ワンルームを借りている。住宅費に収入の約50%が支出される。他に光熱水費を支出し、食費を捻出すると手元には毎月数百円しか残らない生活が続いている。男性は体調を崩し、休職する日が続くと収入は減額されるため、生活ができないと相談を寄せられた。

別の埼玉県在住、書店アルバイトの40歳代男性の場合、毎月の収入は手取りで約16万円である。男性の家族は、病弱な妻と幼い娘がいるため、収入は男性に依存せざるをえない。家賃は2LDKで月額8万円である。ここでも住宅費に収入の約50%が支出される。

このような相談者の多くが生活困窮を抱えて苦しんでいるが、特筆すべきは、その住宅費の負担の大きさであろう。上記の事例で、例えば住宅費が1万円~3万円程度と想定したらどうだろうか。低所得であっても安心して暮らすことは可能かもしれない。今後も広がり続ける非正規労働者や不安定就労者のために、住宅費の軽減は必要不可欠であることは言うまでもない。(藤田)

障害者─進まない「脱施設化」、「地域福祉」



2000年に社会福祉基礎構造改革が行われた。その時のテーマは、地域福祉の推進であった。地域福祉とは、住み慣れた地域で誰もが安心して住み続けられるように、支援システムを整備していくことである。

障害者が一人暮らしをしたいと思ったときにも可能なように支えていくことだろう。しかし、未だにその支援システムの整備は進んでいない。そのため、家族などの介助者がいれば、地域で住み続けることは可能だが、介助者がいなくなった場合、介助困難を理由として、施設への転居を勧められることは頻繁に行われている。

軽度知的障害のある50歳代の男性は、介助者の母親の死をきっかけに、役所から施設への転居を勧められたが、拒否をした。その後、家賃の支払いや生活全般に関して、介助なしでは困難なため、住み慣れた公営住宅を解約し、ホームレス生活に至ってしまう。公営住宅で一人暮らしを支える仕組みや支援者がいれば、施設入所することなく、その場で生活することは可能であっただろう。

そして、障害者にとって必要な住宅支援とは何か、という議論が不足している。障害年金で住み続けることが可能であり、バリアフリーなどの特別な配慮のある住宅は、十分な量の供給がない。移動に制限があるにもかかわらず、公共交通機関から離れた不便な場所に住み続けざるを得ない人々の姿も見られる。

また、社会福祉分野では「社会的入院」という言葉がある。これは、医療機関における治療や静養が必要なく、退院が可能にもかかわらず、医療機関に留まっている人々を表す言葉である。例えば、精神科病院の患者は、平均291.9日間、療養病棟では171.8日間、入院継続している。20年、30年というより長期間にわたる入院患者も存在している。

このように何らかの障害を有し、日常生活に何らかの配慮を必要とされる人々の住宅が足りない。病院以外の場所で生活することは可能であるが、低廉な、バリアフリー住宅、グループホーム、ケア付き住宅が不足している。

地域福祉が推進され、「脱施設化」が叫ばれ、障害者の地域生活支援を支える仕組みが整えられてきているが、障害者にとって住みやすい住宅とは何か、という議論は今も不足したままだ。(藤田)

参考文献・資料:厚生労働省「平成24年(2012)医療施設(動態)調査・病院報告の概況」


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