<「住宅政策提案書」はビッグイシュー基金ウェブサイトよりダウンロードできます>
公営住宅制度─募集戸数、10年で54パーセント減
公営住宅法は「住宅に困窮する低額所得者」のために1951年に創設された。国庫補助をもとに地方公共団体が建設・所有・管理する低家賃の公営住宅は、セーフティネットを構成する中心手段である。しかし、住宅政策の市場化が進むなかで、公営住宅の役割はしだいに限定されてきた。
第1に、量が減った。経済が停滞し、住宅確保の困難な世帯が増大したにもかかわらず、公営住宅の新規建設はほとんど停止に近い水準にまで減少し、さらに、ストックさえ減り始めた。公営住宅を建て替える事業では、管理戸数の減少をともなうケースが増大し、それがストックの縮小に結びついた。
管理戸数は、2005年のピーク時に219.2万戸であったのに対し、10年度末には217.1万戸に減った。募集戸数は、1997年の21.0万戸をピークとして急減し、2007年には9.7万戸となった。このため、応募倍率は高く、2010年のデータによると、東京都では29.8倍、大阪府では17.6倍であった。
第2に、供給対象が狭められた。公営住宅入居要件である収入基準のカバー率(入居資格をもつ世帯数の総世帯数に対する割合)は、1960年代半ばでは60%であったのに対し、70年代に33%まで低下し、96年の法改正によって、25%まで下がった。さらに、公営住宅は、「福祉住宅」と化し、「高齢」「障害」「母子」などの「福祉カテゴリー」に合致する世帯をおもな対象とする傾向を強めた。
これは、住宅セーフティネットの対象を稼働能力の弱い世帯に限定し、公営住宅の少なさを正当化する政府方針を表している。高齢でも母子でもない、といった世帯は、稼働能力をもつとみなされ、たとえ低所得であっても、公営住宅入居の機会をほとんど与えられず、就労収入によって市場住宅を確保するように求められる。
第3に、地方分権の影響をみる必要がある。前世紀の末から、中央政府は、地方政府に対して、より自主的な施策展開と経済自立を求めてきた。この枠組みのなかで、住宅政策の主体を中央から地方に移そうとする力が強まった。しかし、低所得者向け住宅対策は、地方政府の税収の伸びに貢献せず、福祉関係の財政支出を増大させる。このため、地方公共団体が公営住宅を積極的に供給し、セーフティネット整備に熱心に取り組むことは、ほとんどありえない。地域主権一括法にもとづく2011年の公営住宅法改正によって、入居者資格の設定などに関する自治体の裁量範囲が拡大した。
住宅施策のこうした変化は、地域実態をふまえた住宅施策の展開を促すという積極面をもつ一方、セーフティネットの拡充には結びつかない。住宅政策の分権にともない、公営住宅の管理戸数を減らそうとする自治体が増えている。(平山・川田)
住宅扶助─貧困ビジネスを支える?
生活保護制度には、住宅扶助制度があり、居住地域ごとに最低限度の家賃が支給される。生活保護受給期間に定めはなく、保護受給中は無期限の住宅扶助支給が可能な制度である。また、住宅扶助に限らず、礼金や敷金、更新手数料や火災保険料、連帯保証料など住宅を確保するために必要な一時金の支給も行われる。
住宅扶助は、家賃の金額に応じて必要な金額が支給されるため、保護受給中は家賃滞納のリスクや住居喪失の恐れは軽減される。生活に困窮した場合、積極的に生活保護申請を行い、早期に住宅扶助や一時金の支給を受けることにより、住居喪失等を免れることが可能である。
しかし、福祉事務所による生活保護「水際作戦」と呼ばれる保護費支給抑制策は相変わらず跡を絶たない。必要な人が保護を受けられていない状況は続いている。そして、福祉事務所が住宅にかかる費用を抑制するために、民間団体が運営する劣悪な居住環境の宿泊所を紹介し、いわゆる貧困ビジネスの隆盛を支えてしまっている状況もある。
福祉事務所は生活保護における「居宅保護の原則」を徹底して貫き、積極的に地域生活支援をしなければならない。貧困ビジネスなどの施設を安易に利用することのないように、福祉事務所だけではなく、分野横断的な支援体制を構築することが求められる。公営住宅への入居支援、民間不動産業者との連携、ケア付き住宅など社会福祉事業の整備である。行政内部において、福祉部局と住宅部局が連携をとりながら、新しい支援体制を構築していく努力を求めていきたい。(藤田)
<「住宅政策提案書」はビッグイシュー基金ウェブサイトよりダウンロードできます>
<住宅政策に関する過去の記事は、こちらのページから閲覧できます>