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地域生活移行支援事業─成果あげたハウジングファースト型の支援
2004年度から2009年度にかけて東京都は「ホームレス地域生活移行支援事業」を実施した。これは都内の主要な公園等に暮らす野宿者を対象に、民間アパートを借り上げて原則2年間(延長あり)、月3000円で提供するという事業で、計1945人がこの事業を利用した。
入居者には、希望者に対して約半年間、都立公園の清掃などの軽作業の仕事が提供されたほか、NPOなどのスタッフによる訪問相談や様々な社会資源につなげるための同行支援なども実施された。事業終了時には全体の83.6%にあたる1626人が一般住宅で地域生活を継続できることになった。
この事業は、海外のホームレス支援団体が実践している「ハウジングファースト・アプローチ」を日本で初めて公的な支援現場に持ち込んだものとして大きな注目を浴びた。
従来の自立支援センターを中心とする日本の「ホームレス自立支援事業」が「いったん施設に入り、そこで一般就労を確保できた者のみがアパートに移行できる」ことを前提としていたのに対して、「ハウジングファースト・アプローチ」では「まず安定した住まいを確保した上で支援をおこなう」という特徴を持っている。この方式は従来の対策を忌避していた野宿者にも歓迎されたが、財政上の理由から事業は2009年度をもって終了することになった。
この事業は各地で増えつつある民間アパートの空き室を利用したという意味でも画期的であった。居室のサブリース契約のあり方にあいまいな点が残るなど、法的に改善すべき問題点もあるが、今後、低所得者向けの居住支援策を発展させていく上で参考にすべき事業であると言える。
アメリカでは、PathwaystoHousingというNPOが重度の精神障害を持つ野宿者を対象にしたハウジングファースト型の支援事業を成功させている。日本でもこうした実践が進むことを期待したい。(稲葉)
震災被災者向け住宅施策─「融資」より「補助」が必要
東日本大震災(2011年)に襲われた東北太平洋沿岸地域では、住まいの再生が重要な政策目標になる。
阪神・淡路大震災(1995年)の経験をへて、そして近い将来における大震災の発生が予想されるなかで、住宅復興の制度はしだいに整備されてきた。しかし、被災者の住宅確保に関する課題は多い。
応急生活段階では、仮設住宅の供給が大きな役割をはたす。この仮設住宅は、短期の暫定生活を想定するがゆえに、入居者に耐乏を求める低水準の空間としてつくられてきた。
だが、大災害では、応急生活は短期間では終わらず、その安定を抜きにして、被災者の生活再建は困難である。①広さと遮音・断熱などに関する性能の向上、②供給方式の多様化などによる立地の改善、③高齢者などの見守りとコミュニティ形成に関する施策の充実、などの必要性が指摘される。
東北の被災地では、民営借家を利用する「みなし仮設」が大量に供給された。「みなし仮設」は、恒久建築であることから、高い性能を備え、その多くは、利便性の高い市街地に立地する。しかし、「みなし仮設」の被災者は、ばらばらに散らばるため、孤立状態に陥る場合がある。また、入居期限が終わるときに、被災者の安定をどのように守るのか、という難しい問題がある。
恒久住宅のセーフティネットを形成する中心手段は、公営住宅建設である。阪神・淡路大震災では、不便な場所に大規模な団地が開発され、そこに高齢者などが過度に集中し、孤立するという問題が生じた。
これに対し、東北沿岸地域では、木造低層の団地建設、コミュニティ形成を促す建築計画、同一集落からのグループ入居などが試されている。災害復興の経験を重ねるなかで、公営住宅の供給方式にさらに工夫を重ねる方向性が期待される。
また、東北の被災地では、阪神・淡路大震災の場合に比べて、震災前に持家に住んでいた被災者が多く、その再建が課題となった。住宅再建支援の中心手段は住宅ローンの供給である。
しかし、経済が停滞し、高齢者が多い状況下では、「融資」ではなく、「補助」がより重要な手法になる。被災者生活再建支援法(1998年創設、2004・2007年改正)は、住宅再建に対する最大300万円の補助を可能にした。これに加え、多くの自治体が持家再建支援の補助制度を用意した。
しかし、住宅再建を促進するには、補助のさらなる充実が求められる。とくに大切なのは、被災者生活再建支援法の拡充である。最大300万円の補助では持家を再建できない世帯が多い。自治体による独自制度は、地域ごとの住宅事情の特徴に配慮するという積極面をもつ一方、補助金額の違いをみせ、援助の公平性という側面での問題をはらむ。国の制度である支援金を増額すれば、それは、持家再建を促進すると同時に、自治体の制度を補完として位置づけ、公平性の問題を緩和する効果を生む。(平山)
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