自分や周囲の人の「感情の起伏」との付き合い方

理解しがたい衝動的な言動が多い同僚や、気分のアップダウンが激しいパートナーなど、「気分の波が激しい人」に心当たりはあるだろうか。臨床心理士でザルツブルク州心理療法協会の会長を務めるマリア・トリグラーに、気分の浮き沈みへの対処法についてオーストリアのストリートペーパー『アプロポス』誌が話を聞いた。

ー気分の浮き沈みはどの程度なら「正常」と言えるのでしょうか?

気分の波があるのはごく自然なこと。特に思春期、初恋、出産、リタイヤ時など、人生の大きな転換期には強い感情が湧き上がりやすくなりますし、そこにはホルモンバランスの変化も影響してきます。「正常」から「治療が必要」の間は流動的で、重要なのはその気分の変化が説明可能な範疇のものかどうかです。何か特定のトリガーと関連しているのか、それとも突如起きたことなのか。自分で気分を安定させることはできそうかどうか、等。ただ、感情が極端に激しく変動することが長く続き、生活や仕事の質に大きく影響するのなら、それは正常な範囲を越えていると言わざるを得ません。

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ー感情的に不安定な人とうまくやっていける人もいれば、そうでない人もいます。

一般的にうまくやっていけるのは、心理的安全性が担保された環境で育った人です。そういう人は他人の感情の起伏に引きずられず対処できる傾向にありますが、幼い頃から周囲の人の気分に適応せざるを得なかった人は、どうしてもより敏感に反応してしまいがちです。結局、他人がどうあるかということより、自分はそれに付き合えるのか、相手と自分のあいだに線引きできるかどうかなのです。

もちろん、相手の激しい感情や不安定さに巻き込まれて苦しくなるのはごく自然な反応ですが、その出来事に心を占領され続けると、自分自身がさらに消耗してしまいかねません。自分が責任を持てる範囲を確認し、自分がよくいられる状態や大切にしたいことを知り、そうした対策をできる範囲で日常生活に取り入れていく。それが、相手の感情に巻き込まれすぎず、自分の生活や心を守るための力になります。レジリエンスは、ある程度自らの力で育んでいくこともできると私は考えています。

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心の疾患は大抵、ストレスが原因となっています。レジリエンスが高ければ、心理的な問題を回避できる可能性が高くなります。ハワイのカウアイ島で行われた優れた研究では、困難な環境で育った子どもでも、目標を持ち、家族以外に信頼できる大人(親身になってくれる教師など)がいれば、驚くほどのレジリエンスを身につけられることが分かりました。友人のグループや職場環境が「再養育」の役割を果たすこともあるのです。

ー「心が安定している」ことへの大きな期待に応えていく上で大切なこととは?

とかくメンタルヘルスについては「欠けているもの」、つまり「正常でない状態」ばかりが語られがちです。しかし、そもそも「精神的な健康」とはどういうことなのかを、もっと社会として考えていく必要があると思います。人を強く、しなやかで、力を発揮できる状態にするにはどうしていくべきかに視点を向けていくことが大切で、これはもっと早い段階で、子どもを取り巻く社会の中で直接的に教えていくべきです。

自分の心の健康を維持できる環境、についてよく考えてみるとよいと思います。これは非常に個人的なもので、社会環境や信念のみならず、状況によって大きく違ってきます。家族なのか、同僚なのか、見知らぬ人とのちょっとした出会いなのか。自分のコミュニケーション能力を踏まえ、どう対処するのが賢明なのか。一歩引いて、自分の気持ちを冷静に伝えることは可能だろうか…など。

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ー職場の人間関係がストレス原因になることも多いです。おかしな言動を取る同僚にどう対応すればよいですか?

職場では一緒に働くだけでなく、人間関係も築いていかなければなりません。基本、毎日顔を合わせるので衝突も起こりやすく、ほんのささいなことでも人間関係の問題に発展してしまいます。しかも、そこには明確な上下関係があって、それが迅速な意思決定を可能にしているのですが、直属の上司を飛ばしてその上に相談をしたりすると反感を買い、システムがうまく機能しなくなることも。上下関係が絡むと、単なる「ファクト」ではなく、責任や権力の問題に発展しかねません。

相手の不安定さや攻撃的な言動まで、あなたが引き受ける必要はありませんが、自分を守るために、自分の反応の傾向を知っておくことは役に立つでしょう。たとえば、自分は何につけ気にしすぎの傾向がないか、相手の言動をすぐに自分への攻撃と受け止めていないだろうか、事実の問題と関係性の問題を切り分けて考えられているだろうか、扱いにくい同僚であっても仕事上の成果や貢献があればそれを評価できているだろうか、などです。 

ー対立を解決するためのアドバイスはありますか?

自分はどれくらいのストレスに耐えられる人間なのかを把握しておくことが重要です。誰からも好かれようとする人は、自分の限界(バウンダリー)をすぐに押し広げようとする傾向があり、それが過剰な負担を背負うことや燃え尽き症候群につながる可能性があります。大切なのは、コミュニケーション能力、傾聴力、そして相手の立場に立って考える力です。すぐに誰かを責めようとするのではなく、解決策を見つけるために協力する姿勢を心がけたいものです。

時々、自分に問いかけてみてください。これは本当に自分が争うべき問題なのか? 自分がこの問題にこだわりすぎているだけではないのか?と。些細なもめごとが、あっという間に終わりの見えない対立に発展してしまうこともあるので、対立はなるべく早い段階での解決を目指したいものです。

By Sandra Bernhofer
Translated from German via Translators Without Borders
Courtesy of Apropos / INSP.ngo

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