おぞましい連続レイプ事件から考える、女性への暴力が起こる理由

ジゼル・ペリコが夫であるドミニクと50人以上の男から長年にわたりおぞましい性暴力を受けていたニュースは、フランス社会を、そして世界を震撼させた。夫が妻を薬物で昏睡状態に陥れ、ネットで募った大勢の男たちにレイプさせていたのだ。裁判にあたり実名公開を決意したジゼルは、強さと勇気の象徴となるとともに、加害者らを糾弾の対象として引きずり出した。

元夫と共同被告人たちに加重強姦罪などの有罪判決が決定し、声明を発表するジゼル・ペリコ
EPA/Guillaume Horcajuelo

今回の事件はどこをとっても常軌を逸した犯罪だが、「ドミニクは特殊な怪物」で片付けてしまってよいのだろうか。これを機に、女性への暴力容認がはびこる文化についてしっかり目を向けたい。「異常な怪物性を持つ男」が「異常に凶悪だった」と捉えてしまうと、男性による暴力の蔓延を見過ごすことになるのではないか。英ヨーク大学教育学部のヴァニタ・サンダラム教授が『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。


セクハラを含む性暴力の被害者は圧倒的に女性や女児が多い。性的な誹謗中傷、同意のないボディタッチ、露出、ネット上でのいやがらせやあおり行為、性的暴行、レイプなどの一連の行為は、学術的に「連続体(continuum)」と名付けられている。
近年、性暴力が大きく問題視されるようになったのは、Everyday Sexism Project、#MeToo、Everyone’s Invited など自身の性暴力被害について声を上げるネット運動の力も大きい。こうしたサイトは、女性が公共の場でのセクハラや性暴力を回避したりやめさせたりするために自らの言動をアップデートする意見表明の場ともなっている。

レイプ文化の終焉を求めるフランスでの抗議者たち
EPA/Yoan Valat

女性への性暴力の蔓延

男性による女性への暴力が職場、教育機関、病院、家庭とあらゆる状況で起きていることが、数十年にわたる研究から明らかとなっている。英国の国家警察署長評議会と警察学校の調査によると、イングランドとウェールズでは、お女性および女児への暴力犯罪が2018年から2023年にかけて37%増加し、犯罪調査では75%以上の女性が夜間の公共の場は暴力の恐れがあるため非常に危険と感じていることが分かった。世界全体では3人に1人の女性が性暴力を経験していると推定され、警察に通報しない被害者もいることを踏まえると、実際はもっと多くの女性が被害に遭っているのは間違いない。

女性や女児への暴力は頻繁に起きている。ほんの一部の異常な人間だけが起こす犯罪ではないのだ。学校や大学でもセクハラや性暴力が蔓延していることが研究から分かっている。最近の調査では、7〜12歳女子の25%近くが同意のない身体への接触(ボディタッチ)など男児からのセクハラ被害を訴え、13〜18歳の女子の92%が卑猥な暴言を受けた経験があることが明らかになった。

筆者たちによる大学の学生とスタッフを対象とした研究*1からは、セクハラが矮小化・正当化され、常態化すらしている実態が見えてきた。問題を起こすのは一部の悪者だけという考え方が、性暴力が多くの組織文化に根付いているとの理解よりもまさっているのだ。

*1 Lad Culture in Higher Education : Sexism, Sexual Harassment and Violence (2019)

この数十年、セクハラや性暴力行為で取り調べを受け、起訴されてきた男性たちの多くは、まわりから尊敬を集める大きな影響力を持つ男性たちで、彼らを形容して「邪悪」で「病的」な「怪物」という言葉が使われてきた。だが、性暴力がこれほどまでに蔓延している今、起訴された男性たちだけが恐ろしいまでに異常と言えるのだろうか?

諸原因は男女間の不平等が根付く文化にある

「ジェンダーに基づく暴力」の主要な原因は男女間の不平等にある。つまり、男女間の不平等がある状況、ならびに男女間の不平等を擁護または増幅する文化が、セクハラや性暴力が起こりやすい土壌となるのだ。

学校や大学といった場でセクハラや性暴力がこれほどまでに発生しているのはなぜなのか。教育機関のどういうところが男女間の不平等に加担し、セクハラや性暴力が起きやすい文化を生み出しているのか。そうした文化が社会のいろいろな分野で定着してしまっているのはなぜなのか。

男子はこうあるべき、女子はそんなことをすべきでないといった期待が男女間の不平等を後押ししてしまっていることは明らかだ。男は力強く、主導権を握ることを、女子は従順で、感じの良さ、受け身の態度を持つよう教えられる。家庭やさまざまな組織内でそうした期待が生まれ、強化されて受け継がれている。従来からのジェンダー規範に異議を唱える若者たちも現れているが、“男らしさ”“女らしさ”が男女の本質であるかのように語られることも多く、社会的圧力はなお強い。

「ジェンダーに基づく暴力」を許す組織文化をなくしていくにはまず、男女間の不平等が日々の行動や人とのやり取りの中にいかに浸透し、どんなふうに作用しているかに意識する必要がある。セクハラになりうる攻撃的でえらそうな態度がどのように起きているか、そんな行為が当たり前になってしまっているのはなぜなのか。

ドミニク・ぺリコの犯罪が凶悪なのは間違いないが、このような犯罪は、そこまで極端でなくともジェンダーに基づく暴力を可能としている社会だからこそ起こったといえる。認めたくはないが、ドミニク・ぺリコとその共犯者たちだけが特別なわけではないのだ。

著者
Vanita Sundaram
Professor of Education, University of York

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2025年1月7日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
サムネイル:AndreyPopov/iStockphoto

The Conversation
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