「ペットがいるとDVから逃れにくい」問題を軽減する必要性:カナダの調査より

 カナダでは身近なパートナーによる虐待死が増え続けており、その被害者は圧倒的に女性たちだ*1。暴力を振るうパートナーの元から逃れたくても、そこにはさまざまな難題や障壁があり、その中でもあまり認知されていないものに「ペットの存在」がある。


国民の過半数がペットを飼っているが、国内にあるDV(家庭内暴力)シェルターのほとんどは「ペット同伴不可」というのがカナダの現状。DV被害者にとっての「壁」を取り除く、もしくは軽減する大胆な措置が必要だ。カナダのウィンザー大学社会学准教授エイミー・フィッツジェラルドが率いる研究チームの調査報告を紹介する。

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ほとんどのDVシェルターは「ペット同伴不可」だ(Pexels)

*1 カナダではロックダウン以降の36日間で11件のDVによる死者が出ており、いずれも犠牲者は女性だ。参照:Ten cases of men killing women in Canada in the last 36 days

「ペットの存在」で身動きが取りづらいDV被害者たち

DV加害者との生活に耐え続けるかペットを置いて逃げるか、このジレンマに直面している人は、実はかなりの数にのぼると考えられる。筆者らの試算では、過去5年間に身体的・性的虐待を受けたことがあり、かつペットを飼っている人は約43万3,200人*2。コロナ禍で動物保護施設からペットを迎え入れる人が急増している*3 ことを踏まえると、その数はもっと増えるかもしれない。

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ペットを飼っていると、DV加害者の元を離れることを先延ばしにしがち(Pexels)

*2 過去5年間に(現在または元の)配偶者もしくはパートナーから身体的・性的虐待を受けたことのある人が約76万人(回答者の約4%)だったこと(Family violence in Canada: A statistical profile, 2014)と、カナダの家庭の57%(約800万世帯)がペットを飼っているというデータ(Canadian Pet Market Outlook, 2014/Packaged Facts)を基に算出。

*3 参照:Rescue groups across Canada see surge in demand for pandemic pets(2020.3.27 CTV News)

DVシェルターを利用している女性86人を対象にパイロット調査を実施したところ、ペットを飼っているDV被害者の56%が “シェルターにペットを連れていけない” を理由に、加害者の元を早々に離れられなかった、それ故に慢性的にひどい暴力を受け続けていたことが分かった。「ペットの存在」によって身動きが取りづらいDV被害者が相当数いることが明らかとなった。

また、DV加害者の暴力がペットに及ぶ場合も(調査対象者の89%)、被害者が直ちに避難できないケースが多かった。ただ、ペットを家に残して避難してきた人たちも、その3分の1が“ペットを残してきたから” を理由に加害者の元に戻ることを考えていたのは厄介な点だ。

ニーズは把握しつつも、資金難。各シェルターの努力だけでは対応困難

シェルターで働く職員116人を対象とした別の研究では、職員の4分の3が、“ペットを置いて行けないからシェルターに避難できない”と話す女性たちがいると回答している。

また、カナダの一般国民を対象とした分析からは、ペットが虐待を受けている人はそうでない人よりも自らの命の危険を感じている率が7倍近く高いことが分かっており、命の危険を感じる状況は、実際に命にかかわる暴力が起きる前兆であるとする先行研究もある。

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DV加害者の暴力がペットにも及んでいる場合、被害者は命の危険性を感じる率が高い(Shutterstock)

これらの調査から読み取れることは、ペットが虐待されている人や、ペットが心配でDV加害者からすぐに離れられない人は、近親者からの暴力に晒されるリスクが特に高くなるということ。こうした人たちが安全な場所で支援を受けられるような対策が必要である。

こうした事情を把握しているDVシェルターも少なくなく、施設によってはペット同伴を許可する、ペットの里親を探す、動物病院や動物保護施設に預けるなどのサポートを行っている。しかし、財源不足から基本的なサービスの提供にすらおぼつかないDVシェルターが多い中、新しいプログラムまで手を広げられないのが大方の現状だ。 CBCニュースでは、カナダでは毎日平均620人の女性と子どもが、DVシェルターの資金難や人数制限のために入所を断られていると報じた*4。ペット同伴可のサービス提供しているDVシェルター「インターバルハウス・オブ・オタワ*5」でも、その運営は一般市民や事業者からの寄付が頼りだ。

*4 参照:Women, children turned away from shelters in Canada almost 19,000 times a month
*5 参照:https://www.intervalhouseottawa.org/animal-housing-campaign

米国で進むペット同伴可のDVシェルター支援

ただでさえ逼迫しがちな財源問題を解決するため、米国ではDVシェルターがペット保護サービスを提供できる体制ができつつある。2018年、米連邦政府が「ペットと女性の安全法(PAWS Act)」を承認、これによりペット保護プログラムを提供するDVシェルターに年間計200万米ドル(約2億675万円)の助成金が提供されることになったのだ*6。

*6 2020年10月より、40万ドル(約4,100万円)の助成金が最大5件提供される。
参照:PAWS Act Funding Now Available: Aid for Survivors of Domestic Violence and their Pets Arrives at Critical Time

同様の対策をカナダでも実施すべきだろう。先述のパイロット調査を全国規模で実施すれば、DV被害と動物虐待の関係性についての全貌が明らかとなり、どんな支援プログラムが必要とされているかがより明確に見えてくるだろう。

ペットの存在は心の支えになってくれる。コロナ禍のような非常時や虐待が起きている状況下では特にそうだろう。しかし、そのペットがいることがDV環境から逃げ出す障壁とならないよう、思い切った措置を講じていく必要がある。

著者

Amy Fitzgerald

Associate professor, Department of Sociology, Anthropology and Criminology, University of Windsor

Betty Jo Barrett

Associate Professor, Women’s and Gender Studies, University of Windsor
Deborah McPhee
Associate Professor, Human Resources Management and Occupational Health and Safety at The Goodman School of Business, Brock University
Patti Timmons Fritz
Associate professor, Psychology, University of Windsor
Rochelle Stevenson
Assistant Professor, Department of Sociology and Anthropology, Thompson Rivers University

※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2020年6月17日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

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