人は「若者」でなくなると、若者を非難しがちだ。「ファッションや恋愛にかまけてばかりで、将来のことを考えず、世の中にも目を向けない」などと。
環境保護を訴えるグレタさんが日本でも一躍有名になったのは記憶に新しいが、世界をよりよくしようと奮闘する若者は、彼女だけではない。そんな若者たちに『ビッグイシュー・オーストラリア』がスポットを当てた。
高校生らの「銃乱射事件へのリアクション」の変化
2018年2月14日、フロリダ州パークランドにあるマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で銃乱射事件が発生、17人が犠牲となった。この種の事件の ’その後’ 、大抵はお決まりパターンだ。
まずは失われた若すぎる命に多くの人が心を痛める。そして政治家が意見し、祈りをささげる。メディアは大急ぎでわが国(オーストラリア)の徹底した銃規制を取り上げ、ネット上をかけめぐる。有名人らも相次いで、悲しい、信じがたい、もう二度とこんな事件を繰り返してはならないとSNSに投稿する。「全米ライフル協会」は「国民が武器を保有する権利」を定めた米国憲法修正第2条について語る。 そして世界はまた日常に戻る。
Image by lindahicks from Pixabay
しかし今回は違った。丸坊主の女子高校生が現れたのだ。彼女がひどく悲しんでいることは誰の目にも明らか。だが驚いたのは、彼女が怒っているということ。
「嘘つき!」エマ・ゴンザレス(当時18)がテレビやパソコン、スマホの画面で叫ぶ。
「“子どもは大人の話はわかりゃしない。まだ君らは若すぎるから政治のことなんか理解できない” なんて言われるけど、でたらめばかり言わないで! 」
人々の正義感と共感を呼び起こした彼女のスピーチは、ネット上で一気に拡散。私たちは、時代が新しいフェーズに入ったことに気づかされた。
悲しい銃乱射事件として歴史に記録されるだけでなく、新たな展開を見せた今回の事件。その後、ゴンザレスとまだ幼さも残る彼女の仲間たちは、挑戦的な態度でタイム誌の表紙を飾り*、彼らがソーシャルメディア上で怒りをぶちまけると、世界中に波紋が広がった。
*参考記事(https://www.huffingtonpost.jp/)
ワシントンDCで行われた銃規制を訴える学生主導のデモ「私たちの命のための行進(March for Our Lives)」には約80万人が参加し、過去40年で国内最大規模となった。
トランプ大統領にも挑戦的なツイートを送った。
私たちの過ちだなんて言わないでくれませんか。あなたは現場にいたんですか。最善を尽くしたのですか。そうでないなら、 人々に何を信じるべきかを説く権利などありません。
若者ならではの言動を取り巻く賛否両論
今回の事件の生存者の一人、デヴィッド・ホッグ(当時17)も銃規制を訴える活動の中心メンバーとなっている。Foxニュースの保守派コメンテーター、ローラ・イングラハムが彼をTwitter上で揶揄するや、彼はイングラハム氏の番組の主要スポンサー企業リストをツイート。自分のフォロワー約62万人に向け、各社への“ボイコット”を呼びかけた。その結果、番組の広告時間が半減する事態となった。
今やゴンザレスのTwitterフォロワーは162万人。全米ライフル協会(79万5千フォロワー)の倍以上だ*。「お決まりパターン」と決別した若者たちに世界は熱狂。たとえ銃規制の影響を直接受ける身でなくても、彼・彼女たちの行動に見入ってしまう。歴史が動くのを感じざるを得ない。
*フォロワー数はいずれも2019年12月時点。
「命のための行進」への支持を表明し、50万ドル(約5400万円)を寄付したオプラ・フィンフリーは、「人々を奮い立たせる若者たちを見ていると、60年代に『もううんざり。私たちの声を聞いて』とアクションを起こしたフリーダム・ライダーズ*を思い起こさせる」とツイートした。
* 公共交通機関の人種差別を撤廃させた非暴力不服従運動。黒人と白人が一緒にバスに乗り込み、人種隔離の標識を撤廃させた。
オバマ元大統領もこれに賛同、タイム誌への寄稿で「彼らには若者特有の力がある。 世の中を新たな視点で見つめ、古い制約や時代遅れの常識、『知恵』という言葉で飾り立てられた臆病さを拒む。大人たちを不快にさせるかもしれない。だが若者とは元来そういうものなのだ」と書いた。
しかし、若者をはねつけることは容易だし、太古の昔からおこなわれてきたことでもある。アリストテレスはこう言った。 「(若者は)生きることへの謙虚さが足りず、必要な制約も知らないため、すぐに舞い上がる。実際に役立つものではなく崇高な言動をとろうとし、 愛することも憎しむことも、やることなすこと全てにおいて度を越してしまう」
作家トム・ウルフは、1976年に『ニューヨーク・マガジン』で発表した若者についてのエッセイに 「ミー・ジェネレーション」という造語を用いた。自己実現で頭がいっぱいの自己陶酔的な若者を表現するのにぴったりだと、社会評論家たちからも絶賛された。
近年、大学などでは学生たちによる「政治的な正しさ(ポリティカル・コレクトネス)」を求める動き*が過熱気味だが、大衆紙はこれに怒りの論調だ。 英テレグラフ紙は2015年、「泣き虫ミレニアル世代よ。文句ばっかり言ってないで、私たちのように一生懸命働きなさい」と書いた。
* 大学キャンパス内での「事前警告」や「セーフスペース」の提供をめぐる議論が盛り上がっている。
さらには、若者をネガティブに描写する「スノーフレーク(雪の結晶)世代」という語も生まれた。「2010年代に成人した、打たれ弱く、これまでの人たちと比べて感情を害しやすい世代」と定義され、コリンズ辞典の2016年度「今年の単語トップ10」にも入った。
若者ならではのポテンシャルに期待せよ
「普段から若者と関わりを持っている人なら、そんな発言はできません」と反論するのはダクシー・ソーリャクマラン。オーストラリアの若者を応援する財団「Foundation for Young Australians」の社会事業部門YLabのディレクター(参考)だ。「リーダー世代がこういった(若者に批判的な)論調を受け入れてしまっているのもおかしな話です。若者たちの可能性には、もっと期待していいのです」
若者はあまりに無邪気で、思い込みも強く、ファッションも理解しがたい....と不満を持つことも確かにあるだろう。だがその純粋さゆえに、にっちもさっちもいかない問題に直面したときなどに素早くかつダイナミックに行動できるのも彼らなのだ。
問題とは何も、銃規制や政府をたたきのめすことだけではない。 20歳のマララ・ユサフザイは「女子教育」をかけた戦いに命がけで取り組んでいる。 11歳のレヴィ・ドラハイムは「地球温暖化を促進する化石燃料を使い続けることで、彼の憲法上の権利を侵害している」と米国政府を相手に訴訟を起こしている。
「私自身もそんな若者の一人でした。長い間、悶々としていました」とソーリャクマランは言う。 「若者たちも、ひとたび活躍の場を与えられると張り切ります。 しっかり準備し、ユニークかつ鋭い洞察力を提供しようとします。 普段、自分たちが立ち入れない領域だからこそ、チャンスを与えられると両手でがっしりつかみ、フルに活かそうとするものです」
権力に対して真実を語る方法、自分が信じるもののために情熱と熱意を持って戦う方法を示してくれる若者たちを見ていると、自分ももっとできることがあるんじゃないかと焦ったり、社会に無関心でいることの気まずさを痛感させられたりするかもしれない。しかし、こうした「若者の動き」が世界的に広がっているのは、そんなネガティブな感情によるものではなく、もっと別の、希望のようなもののはずだ。銃乱射事件が起きた高校の生徒たちが「若者にできること」を見せつけ、思い出させてくれたのだ。
いつだって若者は歴史を変えてきた。そんなときに 大人がすべきこと、彼らを励まし、彼らの知恵を分かち合い、邪魔をしないことだろう。
マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの孫娘、ヨランダ・リネー・キング(9)は、「命のための行進」でこう訴えた。「私たちの言葉を広めて。 私たちは(銃社会と訣別する)偉大な世代になります」
By Katherine Smyrk
Courtesy of The Big Issue Australia / INSP.ngo
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