外国にルーツがある、不登校、生活困窮、ヤングケアラー、ひきこもり、発達障害など、生きづらさを感じる人たちはコロナ禍でさらに厳しい状況に置かれている。
多様な「生きづらさ」との向き合い方として、様々な「居場所」が運営されているのをご存じだろうか。
当事者はもちろん、家族や支援者、行政とその「居場所」の情報を共有することで、繋がりの網の目を細かくしようと、2021年1月30日、オンラインイベント「居場所フェスタ2020 in とよなか」が開催された。
当日はNPO法人ダイバーシティサッカー協会の理事でビッグイシュー基金スタッフの川上 翔が登壇。
各登壇者の発表内容もあわせて簡単にレポートしたい。
外国にルーツのある若者に「特別なことをするより安心して素を出せる場でありたい」/山野上 隆史さん:公益財団法人とよなか国際交流協会
設立29年目を迎えた「とよなか国際交流協会」は、外国人居住者が6千人と総人口の1.5%を占める豊中市において、マイノリティである外国人を対象としたエンパワメント推進事業や多文化共生社会を推進する人づくりに取り組んでいる。学校に馴染めない、就職が難しいという外国にルーツを持つ若者のための居場所づくりを2012年にスタート。毎週日曜の夜、とよなか国際交流センターで「若者のたまりば」を開催している。 参加要件は「外国にルーツを持つ若者」であること。
「一口に『外国にルーツを持つ若者』と言っても実際は多様です。来日して間もない人、小学生やそれより早い段階で日本に来る人、日本で生まれ育っても両親や祖父母が外国にルーツを持っていてそれをどう受け止めるか悩んでいる人、日本国籍で両親も日本人だけれど外国暮らしが長かった人…(それぞれが置かれた)状況に対する線引きはしていません」と事務局長の山野上さん。
当初は自己表現の場としてラジオや映像作品などの製作・発信や、地域イベントへの出演・出店などに取り組んだが、最近は食事をつくりながら交流するなど“単純に集まれる場”、“ふらっと行ける場所”をつくることに主眼を置いているという。
「普段活動している中で感じるのは、とにかく安心できる居場所というものが、(とくに)外国にルーツを持つ若者にとって少ないということ。学校に通っていない若者もいます。 職場では日本式の仕事の進め方に馴染めない、家でも親と感覚が合わない-そんな中で窮屈さを感じています。だからこそ、特別なことをするというより何も強制されない、安心して自分の素を出せる場があり、受け止めてくれる仲間がいることこそが大事だと思っています」
普段の交流の他、遠足や、得意なことを披露するためのイベントやワークショップを企画することもあり、各回10人程度が参加している。
公益財団法人 とよなか国際交流協会
大阪府豊中市玉井町1-1-1-601 「エトレ豊中6階」
TEL:06-6843-4343
FAX:06-6843-4375
https://a-atoms.info/about/index.php?y=2017
「生きづらさを感じている人をどうにかするのではなく、生きづらい社会の在り方を問う」/山下 耕平さん:づら研(NPO法人フォロ)
「づら研」を主催するNPO法人フォロは2001年に大阪でフリースクールを開始。“学校に行くことは当たり前。行かない子どもを問題視し「不登校」と名付ける。そして学校に戻すことを支援とする。”-そんな風潮に対し、「学校の在り方を問わなければならないのでは?」という問題意識を持ったことが活動の原点。これと同様に、働いていない人をひきこもりやニートと名付ける状況に対し、社会の在り方を問うのがこの法人の姿勢だ。
2006年に18歳以上が集う居場所運営を始め、15年になる。2011年からは生きづらさからの当事者研究会、通称「づら研」を発足させ、毎月第3月曜に10人~15人が集まる。
理事・事務局長の山下耕平さんは、「生きづらさ〈を〉考えるというと、ともすれば生きづらさを感じている人をどうにかしようという目線になりがちですが、「づら研」では当事者が自分を見つめるのではなく、自分の生きづらさや抱える問題〈から〉社会の在り方を問う、という視点で活動しています。当事者といっても、診断名や障害名などを当事者としているのではなく、「生きづらい」と感じている人であれば誰でも参加できます」
さまざまな“当事者”が集まる場においては、自分の感覚だけではわからない「当事者性」を常に意識しながら運営しなければならない。
「どんなに気を付けていても、ある発言で相手を傷つけてしまうことがあります。それを絶対に生じさせてはいけないということではなく、誰しも傷つけてしまうことがあるということを共有しておくことが大切です」
また、長期間の活動を経て感じる、居場所の運営や社会の変化として、生きづらい人の年齢層が上がってきていることを挙げる。
「かつては、大人になる過程で社会に参入できない人がひきこもりとして問題にされていました。しかし昨今は、誰もがいつ社会からこぼれるかわからない。それは、マジョリティの“圧”が軽減されてきたという側面もありますが、多くの人が生きづらくなっているということでもあるので、大変な世の中ですが、逆に言えば、一部の人の問題に閉じ込めるのではなく、多くの人と考え合う可能性も出てきているのではないかと思います」と話した。
特定非営利活動法人フォロ
大阪市中央区船越町1-5-1
TEL:06- 6946-1507
FAX:06- 6946-1577
http://foro.jp/narnywa/
「希望を持つことが自立の第一歩。誰しもにサッカーをする権利を」/川上 翔:NPO法人ダイバーシティサッカー協会
ダイバーシティサッカー協会は認定NPO 法人ビッグイシュー基金の活動から独立したNPO法人。ホームレス状態の人や若年無業者、うつ病、LGBT、ひきこもり、難民、依存症など、様々な背景を持つ当事者が「スポーツを通じて自分らしく生きられる社会」を実現するべく活動している。毎月第2・第4土曜に大阪市北区の扇町公園でフットサル交流を行っており、多い時で30人、コロナ禍においても10人~15人が参加している。フットサルをしたい人なら誰でも無料で参加することができ、20代~60代と幅広い年齢層のホームレス状態・ひきこもりの当事者・経験者を中心に、大学生、会社員、ビッグイシュー販売者なども参加している。
フットサルを通した交流の他、東京・大阪の2拠点で年1回ずつ開催される「ダイバーシティカップ」というフットサル大会では、参加する様々な団体や自助的なグループが身体を使ったアイスブレイクや対話のワークショップなどを行っている。(2020年はコロナ禍で中止)
「マイノリティと言われる人々にとって、発散できる場、自分らしく楽しめる場は社会の中に少ないと思います。『ホームレス状態の人、ひきこもりの人がなぜスポーツをする必要があるのか?』という質問や指摘を受けることがよくありますが、家や仕事を持つための直接的な支援だけでなく楽しみ、繋がり、仲間を増やすことで希望を持つことができ、自立に繋がることもあるのです」と川上。
しかしなぜフットサルなのか?という問いに、イギリス発祥の「ホームレス・ワールドカップ」が起点であることを説明した上で、川上はこう続けた。
「フットサルの良いところはそれぞれに役割があること、ルールが単純で初めての人も参加しやすいこと、チーム分けやルールを柔軟に変えられ、変えることで活躍できる人が変わったりする面白さがあることです。 いろんな人に役割、出番、居場所を作りやすいのです」
当協会のビジョンは、誰もがスポーツがしたいと思ったら参加できるよう環境を整えること。いずれは東京・大阪だけでなく全国的な活動となることを目指す。
NPO法人ダイバーシティサッカー協会
https://diversity-soccer.org/
「どんなケアでもその人なりのストーリーがある。 そこを大事にしつつ、仲間として一緒にやっていく」/朝田 健太さん:ふうせんの会
ふうせんの会は、家族のケアを担う18歳未満の子どもと若者たち、いわゆるヤングケアラーと経験者の集まり。 祖父母の介護、精神疾患のある両親の見守り、きょうだいの世話、外国にルーツがある親の通訳、家計補填のためのアルバイトなど、多様なケアの形がある。「仲間と出会うこと、私たちの存在を社会にアピールすることを目的として活動を始めました」
こう話す代表の朝田さんは22歳から10年間、母と祖父の介護を続けた。介護者の集まりは70代~80代が中心で50歳でもかなりの若手扱いされる。将来について同じ目線で話せる人がいないと感じ、ヤングケアラーに特化した場を運営することにした。奇数月の日曜14時から大阪歯科大学牧野キャンパスにて開催されており、コロナ禍でもオンライン同時開催とすることで10人~15人が参加。自身の介護体験や就職活動などのテーマについて、お互いが傾聴・共感する姿勢を大事に交流している。
「ヤングケアラーの存在や実態を、当事者だけでなく支援者である教育・福祉の専門家にも認知してもらうことが大切です。取材や講演活動をする中で啓発を図り、関連団体と連携して課題の共有や支援方法の検討を行っています」
会の運営においては、大学の先生にファシリテーションや企画の支援を得るなど、時間的制約のある当事者だけでは難しいことを支援者と共にやっていくスタイルだ。
「どんなケアでもその人なりのストーリーがある。そこを大事にしつつ、仲間として一緒にやっていくことを大事にしています。コロナ禍で活動に制限がありますが、若者らしいことができていない人が自分の人生を見つめ直すきっかけを掴めるよう、様々なアプローチを考えています」
ふうせんの会
https://peraichi.com/landing_pages/view/balloonyc/
Twitter:@yc_balloon
「人間にだって“さなぎの期間”がある。たくさんの選択肢から社会と関わるきっかけを得て、少しずつ自信に」/岡本 康子さん:こもりむしの会
こもりむしの会は、年齢や性別を問わずひきこもりに関する悩みを持つ当事者・家族・支援者が交流や情報交換をするグループ(市民団体)で、宝塚市・西宮市にて活動している。コロナ禍で昨年からイベントや講演会は開催できていないが、10人程度が参加する交流会は毎月第2・第4金曜に、オンライングループカウンセリングは月1回~2回のペースで開催されている。「社会に長年関わっていないことが、本人に自信を失わせてしまっています。でも、さなぎの期間が人間にも必要。 興味のあることから外に出るきっかけを得て、少しずつ自信をつけていってほしいと思っています」
ひきこもり状態にある多くの人が「外に出たい」という気持ちを持ちながら、気軽に行ける場所、興味のあることを見つけられずにいる、と代表の岡本さんは言う。10人いたら10人の考え、興味・関心、得意・不得意がある。それに対し選択肢を増やしていこうということで、ホームページ作成講座、落語講座、合コン、料理教室などのユニークな企画が並ぶ。当事者には会の運営にも関わってもらう。
「同じ境遇の人と話すことで、苦しいのは自分ひとりではないと気付いていきます。現在は遠方の方が多いのですが、近隣の方にもぜひ参加していただきたいです」
かねてから、ひきこもり当事者の会には女性が入りにくいと言われている。岡本さんは以前「ひきこもり女子会」に参加した際、女性が行ける会があっても2ヶ月に1回程度で外出する機会が少ないことを知り、それがきっかけでこもりむしの会を立ち上げた。開催場所、時間帯、チラシ作りなど、当事者の意見を聞きながら一つ一つ作り上げている。
こもりむしの会
兵庫県宝塚市光明町2-5-101
TEL: 050-5215-0900 (10-16時)
LINE:@jlz8694z
Webサイト: https://harapeco-morimushi.com/about
ブログ: https://ameblo.jp/harape-comorimushi/
「目指すところは、切れ目のない支援体制作りの主体に当事者団体としてなること」/石橋 尋志さん:さかいハッタツ友の会
さかいハッタツ友の会は、発達障害を持つ人の自助グループとして15年前に堺市南区で発足した。居場所は当初2人からのスタートだったが、すぐに参加者が20人を超えグループを分割。 現在は大阪、兵庫、京都、和歌山で31のグループに分かれ、それぞれが数人~20人の規模で運営されている。豊中市では毎月第2土曜に、ノースムーンというグループが居場所を開催している。 (コロナ禍においてはオンラインで開催)「一つの団体では開催日時や人数規模などのニーズにこたえることができないと判断し、分割してそれぞれに主催者・リーダーを設けました。発達障害の自助グループとしては国内最大級です。 困り感を言葉にして共有したり、工夫や情報を共有できる場にしたいと考えていますが、セルフヘルプだけでなく行政や支援機関との連携、研究者・医療関係者への協力もしている」と代表の石橋さん。
居場所が少ない地方での工夫について質問には「都市部では数・バリエーションが揃っていますが、地方都市でいかに主催者を増やしていくかは目下の課題です。地域性もありますが、主催者には難しく考えず、曜日を決めてまずはそこにいるだけで良いと伝えています。 シンプルにすることが続けるコツだと思っています」と回答。
「目指すところは、切れ目のない支援体制作りの主体に当事者団体としてなること。行政や専門家には守備範囲がありますが、そういった専門性を持った人の間を繋ぐのが当事者団体であり、主体であるべきだと考えています。 15年の経験をもとに困っている人の通訳ができる。このポジションは困っている人にも支援する側にも求められていると思います」
さかいハッタツ友の会(石橋代表)
TEL: 090-6903-6060(9時〜18時)
https://sakai-dd.hatenablog.com/
第二部(4/3公開予定)に続く
「居場所フェスタ2020 in とよなか」
主催:大阪府・豊中市会の目的:当事者活動や居場所の活動、そしてコロナ禍での影響について、より多くの当事者、運営者、行政関係者に知ってもらい、新たな社会資源に繋がることを期待。
進行:PSIカウンセリング 代表 竹内 佑一さん
大阪・心斎橋にあるPSIカウンセリングルーム代表。公民問わず積極的に他団体とも連携しながら、「家族問題」「ひきこもり」「不登校」「水商売」「非行」などの相談に対応している。
コメンテーター:長崎県立大学 地域創造学部公共政策学科 講師 伊藤 康貴さん
自身のひきこもり経験にもとづきながら、ひきこもりに関する社会学的調査研究を行っている。ひきこもり当事者の複数のグループに日常的に参与しながら、同時にそこで出会った当事者の生活史やライフストーリーをインタビューしている。
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取材協力 甲斐彩子
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THE BIG ISSUE JAPAN414号
特集:“居どころ”つくって元気に暮らす
https://www.bigissue.jp/backnumber/414/
THE BIG ISSUE JAPAN424号
特集:子どもケアラー
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ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。