大型連休の序盤に開かれた108回目の「歩こう会」は、通常のまち歩きに加えて、濱田さんにとって初の試みとなる路上清掃企画に取り組んだ。
図書館司書の経験もある濱田さんは世話好きな性格で他の販売者からの信頼も厚い
「日ごろお世話になっている大阪の路上をきれいにして、様々な方への感謝を表したい」と語る濱田さん。この想いを受けて集まった参加者は、「歩こう会」の常連メンバーを始め、学生やビッグイシューの活動を支えるボランティアなど約20名。販売者とスタッフを含めると総勢30名を超える大所帯となった。
JR北新地駅にほど近いビッグイシュー大阪本社前で互いの自己紹介を済ませると、濱田さんが手短に開始の挨拶を述べた。普段ならば早速まち歩きに入るところだが、この日は路上清掃からのスタート。案内用の手旗をトングへと持ち替えて道端のゴミを拾っていく濱田さんの姿に参加者らも続く。
慣れた手つきでゴミを拾う濱田さん。普段の販売前にも周囲の清掃は欠かさず行っているそう。
二班に分かれた参加者は、地下鉄西梅田駅付近にある大阪マルビルをそれぞれのルートで目指した。排水溝の奥に溜まった吸い殻、植え込みの中に隠れた空き缶やペットボトルも見逃さず隅々まで掃除していく。距離にしておよそ1km、まっすぐ歩けば15分ほどで着く道のりを1時間かけて向かう。
当日の清掃ルート(Google マップより)。もう一方の班は出入橋を経由し曽根崎通りを中心に移動した。
「わ、何これ!?」参加者のひとりが突然叫んだ。植え込みから黒くて平たい謎の物体が現れたらしい。「タイヤのチューブ?」「ベルトの切れ端?」と正体をあれこれ想像する一同。「…多分、バナナの皮じゃないですかね」との答えに「あ〜、それかも!」と声が漏れる。思わぬ形で交流の輪が広がる。
植え込みの中には多くのゴミが捨てられていた
拾ったゴミが溜まるにつれ、参加者の間にも自然と役割が生まれていく。空き缶やペットボトルを次々と潰していく者。ゴミの分別に励む者。いつしか連携の取れたチームができあがっていった。合流し全体の成果を確認したところで、「こうして見ると、路上にはたくさんのゴミが落ちているのがよく分かりますね。みなさん大変お疲れさまでした」と濱田さんから労いの言葉がかけられた。
大阪マルビル前で記念撮影
集められたゴミはスタッフが回収し廃棄を行った
西梅田の時の流れを感じながら野外彫刻を訪ね歩く
JR大阪駅の前で彫刻作品を紹介する濱田さん
路上清掃を終えると、続いてまち歩きが始まった。「読者と販売者が交流できる場を増やしたい」と濱田さんが立ち上げた「歩こう会」が梅田エリアを歩くのは2013年以来、実に6年ぶりだ。
この日のツアーは西梅田の彫刻を巡るというもの。日本の街角に彫刻が盛んに設置されるようになったのは80年代後半のバブル経済期。時代が昭和から平成へと移り変わろうとしていた頃だ。今回は平成の終わりということもあり、節目の開催にふさわしいテーマだったと言えるだろう。
まち歩きといえばガイドの解説を軸に進行するのが一般的だが、濱田さんの説明は控えめ。むしろ参加者に近い目線で、疑問や感想を共有しながら一緒にまち歩きを楽しむ。本人も自らをそう呼ぶように「案内人」という言葉がしっくりくる。
歴史や地理、または他の専門的な視点で都市を眺めるのもまち歩きの醍醐味だが、集まって歩くという行為には純粋な楽しさがある。そうした点に重きを置き、フラットな感覚で街に向き合う「歩こう会」のまち歩きは、想像を膨らませる喜びに満ちたものだ。彫刻作品に臨みながら、「目の前のお店と関係があるのかな?」と参加者の話にも花が咲く。この気楽さもまた、長く運営が続けられている理由のひとつなのだろう。
道中鑑賞した彫刻の数は20点にのぼった
この日の最終目的地は西梅田公園。たどり着き腰を下ろすとスタッフからお茶が配られる。喉を潤しながら感想を語り合う参加者たち。「歩こう会」には初めて参加したと話す学生は、「ゆるやかな雰囲気で、気負わない関係性が心地よかった。濱田さんに誘われながら、次はどこに行くのかなというワクワク感も楽しめました。掃除した道はこれから通る度にゴミを気にかけてしまいそうです」と語った。
イベントの終了後、濱田さんはこのように話した。「路上清掃は初めての試みでしたが、参加者がみな熱心に取り組んでくださり、企画者としても非常に嬉しかったです。きっと色々な想いを胸に抱いて帰られたのではないでしょうか。清掃を今後またこのような形で実施するかは、今日寄せられた意見も参考に改めて検討したいと思います。これからもまち歩きの活動は私の体が動く限り、続けていくつもりです」
次回の「歩こう会」情報
通常の「歩こう会」は月に1回程度開催されています。※7月、8月、12月はお休みです。
ビッグイシュー基金のイベント一覧でご確認ください。
https://bigissue.or.jp/event/
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