あわただしい米軍撤退にともない、何千人ものアフガニスタン人が国外へ逃げ出そうと必死だ。飛行機にしがみつき、離陸した機体から落下するショッキングな映像は日本でも話題になった。その後、報道はぐっと減った感があるが、現実問題として、アフガン市民たちは国外に落ち着ける場所はあるのだろうか。アメリカン大学国際政治学の上級講師で、難民事情に詳しいタズリーナ・サジャドによる『The Conversation』での最新レポートを見てみよう。


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アフガニスタンのハーミド・カルザイ国際空港。自国を逃れるため、米空軍C-17輸送機にすし詰め状態で乗り込み、離陸を待つ大勢のアフガン市民。AP Photo/Capt. Chris Herbert/U.S. Air Force

米軍は、軍関係者、米国民、そして「特別移民ビザ(Special Immigrant Visa:SIV)」を認められたアフガン人たちの国外退去を進めている。SIVとは、米軍に協力したことで命の危険性があるアフガン人たちを保護するためのプログラムだ。

ドイツ、フランス、イタリア、英国も、自国民および一部アフガン人の退避活動を小規模ながら進めている。しかし、その進捗は遅い。混乱の最中にある首都カブールでは、タリバンの暴力行為に市民が巻き込まれ、検問所を通過するのはほぼ不可能な状況だ。アフガン独立人権委員会の議長シェヘラザード・アクバルは、この状況を「失敗に次ぐ失敗」と表現する。 現在進行形で起きているこの痛ましい状況を、長年続く「アフガン難民問題」という大きな文脈で見てみたい。そこには、先進国と発展途上国の間での難民受け入れにおける不平等な状況がある。

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図1 The Conversation, CC-BY-ND Source: UNHCR

米国、欧州、豪の「控えめ」な姿勢

米国では、1980年に制定された「難民法」(The US Refugee Act of 1980)によって、戦争、暴力、紛争、迫害などから逃れてきた人々を難民として受け入れる手続きが規定され、厳格な審査が導入されている。だが、過去40年の間に、米国の難民受け入れ率は大きく低下。1980年の20万人から、2019年には5万人未満まで減っている。

この20年で米国が受け入れたアフガン難民は2万人以上になる。年間、ざっと千人だ。だが2020〜21年にかけて、米国が世界各地から受け入れた難民はわずか11,800人で、うちSIVを取得したアフガン難民は495人のみだ。現在、SIVの申請手続き中のアフガン人が約2万人、さらには申請資格のあるアフガン人とその近親者が約7万人存在することを考えると、この数は非常に少ない。

この数十年間、アフガン人はヨーロッパ各国にも移住してきた。2015〜16年だけで約30万人、シリア人に次ぐ規模である。

とはいえ、ヨーロッパにおけるアフガン難民の規模は小さく、国によっても受け入れ数にばらつきがある。もっとも多くのアフガン難民を受け入れているのがドイツで、オーストリア、フランス、スウェーデンがそのあとに続く。今回のタリバン制圧以前には、強制送還されたアフガン人も多くいた。 2021年の1〜3月で、約7千人のアフガン人が永久的または一時的にEU圏内で居住できる資格を得た。主な行き先はギリシャ、フランス、ドイツ、イタリアだ。

オーストラリアの2016年度国勢調査によると、約4万7千人のアフガン人が永住権を得て暮らし、一時的な居住権を持って暮らしているアフガン人も約4200人いた。

多くの難民が向かう先は中東諸国

アフガン難民の大部分は、欧米諸国以外に移住している。
2,640キロに及び国境を接しているパキスタンは、難民条約*の当事国でないにもかかわらず、長年、アフガン難民の最大の受け入れ国であり続けている。

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パキスタン・チャマンの国境検問所。パキスタン兵士が見張る中、パキスタンに入国するアフガン難民。AP Photo/uncredited photographer

*「難民の地位に関する1951年の条約」、「難民の地位に関する1967年の議定書」を指す。

1979年にソ連のアフガン侵攻が起こり、それから2年の間に約150万人のアフガン人が難民となり、1986年までに約500万人がパキスタンとイランに退避した。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)では、2002年3月より、パキスタン在住のアフガン難民320万人の帰国を支援してきたが、2021年4月の国連報告書によると、紛争、失業、政治不安のために140万人以上が帰国できず、パキスタンに留まっている。


イランもアフガン難民の受け入れ主要国で、申請済みの難民がおよそ80万人、未申請の難民は200万人にのぼる。より小規模ではあるが、インド(15,689人)、インドネシア(7,692人)、マレーシア(2,478人)もアフガン難民・難民申請者を抱えている。

最も世界各国の難民を受け入れているトルコには、アフガン難民は980人、難民申請者は11万6千人いる。ちなみに、シリア難民の数は380万人以上だ。

アフガン国内で居場所を失う人たち

だが依然として、大勢のアフガン市民が住む家を追われたままの状態で国内に取り残されている。今回の政権交代による大混乱以前に、すでに約350万人のアフガン人が、暴力行為や政治不安、飢餓、気候問題や失職によって、国内で家を失った状態にあった。国連難民高等弁務官事務所によると、2021年に入ってからだけで50万人以上の人々が破壊行為により住処を失っている。しかも、5月末以降に家を追われた約25万人のうち、約80パーセントは女性や子どもだという。

AP通信の最新統計では、20 年に及ぶアフガン紛争で、少なくとも6万6千人のアフガン軍・警察関係者と、4万7千以上のアフガン市民が命を落としている。国内の治安は、近年とみに悪化している。ブラウン大学の「戦争のコスト・プロジェクト」によると、アフガン人の死亡者数は急増しており、その原因は激しい攻撃や爆発物、タリバンなど過激派による暗殺、米軍やNATO軍による空爆や夜間爆撃だ。

2021年第1四半期における市民の死傷者数は、2020年の同時期よりも29パーセント増加、女性で37パーセント、子どもで23パーセント増加したという(2021年7月26日発表の国連報告書より)。タリバンのカブール制圧を受け、女性や少女、少数民族、ジャーナリスト、政府関係者、教育者や人権活動家の安全性に対する懸念がいっそう高まっている。大勢のアフガン人が、カブールの外や、空港から離れた場所にとどまろうと必死になっている。

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2021年8月19日、アフガニスタンの独立記念日。首都カブールではタリバンの存在にもかかわらず、アフガン国旗を手にした市民による抗議デモが行われた。Haroon Sabawoon/Anadolu Agency via Getty Images


今後の見込み

すべての米国人がアフガン国外に退避すれば、駐留米軍も撤退を完了する見込みだ。カナダ(2万人)や英国(今後5年間で2万人)など、若干の難民を受け入れる姿勢を示している欧米諸国も少なからずあるが、強硬な反難民政策や、欧米に広がる反難民感情も根強いため、欧米で安住の地を見つけられるアフガン人はこれより少なくなるだろう。実際、オーストリアやスイスは大規模のアフガン難民受け入れを拒否している。すでに難民問題に苦しんでいるトルコの大統領は、「欧米の難民保護所(Europe’s refugee warehouse)になるのは望まない」と述べている。

アルバニア、カタール、コスタリカ、メキシコ、チリ、エクアドル、コロンビアなどの国々は、一時的に、小規模のアフガン難民を受け入れる姿勢を見せている。ウガンダはすでに南スーダンなどから150万人の難民を受け入れているが、さらに2千人のアフガン人の一時受け入れに同意した。

結局のところ、今回新たに発生する国外脱出者の大多数は、空路ではなく陸路で、パキスタンやイランへと向かうと考えられる。だが、この地域の国境越えが困難かつ危険であることを踏まえると、国内にとどまらざるを得ない人も多い。

人として最低限の生活するために何が必要か、経済的・政治的困難にどう立ち向かうべきか、治安をどう維持するか、そしてタリバンにどう抵抗していくか。この国の歴史に、今まさに新たなページが刻まれようとしている。

By Tazreena Sajjad
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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