有限会社ビッグイシュー日本では、ホームレス問題や貧困問題、ビッグイシューの活動への理解を深めるため、高校や大学などで講義をさせていただくことがあります。

今回の行き先は、関西大学千里山キャンパス。学内で年に2回開催される「人権啓発行事講演会」の催しとして劉雪雁先生が企画し、ビッグイシュー日本大阪事務所長・吉田耕一と販売者・Y・Tさんが「ビッグイシューの取り組みと販売者が語る半生」をテーマにお話させていただきました。


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会場に約100人、オンラインで約90人の学生や教職員、一般の方々が参加

震災、病気、介護…ホームレスになるきっかけは、遠い世界のことではない

はじめに、吉田より「『ホームレス』という言葉を聞いて、どんなイメージがありますか?」と学生のみなさんへ投げかけます。すると、会場からは「貧しい」「怖い」「行き場のない人」といった、率直な回答が。

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Google Formsを使用し、リアルタイムで集計結果を共有

吉田:「『ホームレス』という言葉には、今みなさんに回答してもらったようなイメージがあります。
僕はこの仕事を始めてから数百人の方とお会いしてきています。どんな経緯でホームレス状態になったのかを聞くんですが、“震災でやっていた事業がダメになってしまった”、“病気になってしまった”、“親の介護で働けなくなった”と、それぞれにいろんな経緯があるんですね。一人ひとりの人柄も違うんです。つまり『ホームレス』という言葉は状態を表す言葉であり、人格を表す言葉ではないと考えています。」

格差の広がりが社会にもたらすものを知り、社会のあり方に目を向けることが大事

人によってさまざまな経緯がありますが、一度ホームレス状態になってしまうと、元の状態には本人の努力だけでは戻りづらく、住まいや収入が得られない状態が続いてしまいがちです。そうしているうちに、当事者の自己肯定感の低下を招くことも。

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吉田:「ホームレス状態からもう一度、家があり、働いていた元の状態に戻ろうと思っても、住所がないから働けない。アパートを借りたくても保証人がいない、または保証金が払えないから入居できない…などの高い段差のある“階段”が続きます。そのあまりのハードルの高さに『俺、もういいか』と諦めてしまう人も多い。

そうしたホームレス状態にある方でもすぐに始められる仕事を提供できるという意味で、ビッグイシューという仕組みの価値がでてきます」

参考:ビッグイシュー販売のしくみ


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ビッグイシューについて知ってもらったあとは、ビッグイシューを“読む“時間。
熱心にページをめくり、記事に目を通す学生のみなさん


最後に吉田が触れたのは、格差社会について。

「貧困状態にある層と富裕層の格差が進むと、どの層でも競争が激化してしまい、人との信頼関係が築きにくくなったり、ストレスが高まったりします。また、健康水準が低くなったり、犯罪率が高くなるという研究結果もあります。これは、社会のあり方にみんなで目を向け、どんな社会であるべきか考える必要があるということだと思います。」と伝えていきました。

家族の事情で学校中退、震災で友人を失い販売に至った、Y・Tさんの半生

続いて、販売者・Y・Tさんの半生を語るコーナー。

福岡県出身のY・Tさんは、中学時代から音楽に興味を持ち、高校に進学すると友人と音楽活動をするなど、ごく普通の少年時代をすごしたそう。卒業後は「新聞奨学会制度」を使い、新聞配達の仕事をしながら音楽の専門学校へ通っていました。

ところが、父親が要介護状態となったこと受け、音楽の夢を一度諦めて学校を中退し、帰省することになります。

そして、地元で介護をしながらファーストフード店で働く→建設業や工業派遣の仕事をする→東日本大震災をきっかけに、震災関連のボランティアや、原発事故の除染作業員として勤務、と職を転々とします。

大阪へ戻り就職活動を試みた当時のことをY・Tさんは「就職しようと思っても、心にぽっかり穴が空いたように活力が湧かなくて、ネットカフェで過ごしていました。でも、だんだんお金がなくなり、公園で眠る生活が始まりました。」と振り返ります。

その後、建築現場の仕事にありつきますが、仕事中に怪我をしたこと、コロナ禍で会社の経営が傾いたことを受け、自己退職の道を選んだといいます。元々、雑誌『ビッグイシュー日本版』の存在を知っていたこともあり、事務所に連絡して販売の仕事に至りました。

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吉田「販売で工夫していることは?」

Y・Tさん「毎号雑誌が出るたびに、手紙や詩を書いて雑誌と一緒に渡すようにして、お客さんと会話が生まれるようにしていますね。あとは、やっぱりお客さんと接する仕事なので、毎日シャワーは浴びるし、爪も切るし、身なりは整えるようにしています。僕は、この仕事をビジネスとしてやっているので、綺麗にするのは当たり前のこととしてやっています。」

吉田「販売を始めてよかったことはどんなことですか?」

Y・Tさん「お客さんと会話を続けていくと、僕とお客さんのつながりができることですね。」

雑誌『ビッグイシュー日本版』の販売を続けて来られたY・Tさんは、アパートへ入居することが決まったそう。最後に皆さんへ、こんなメッセージを送りました。

「偏見を取り払って、物事を見てほしいなと思います。今まで気づかなかったようなことに気づけば気づくほど、広い視野で世の中を見られる。そんな人が増えたら、人を見下したりするような社会にはならないのではと思います。」

学生の皆さんからの質疑応答

後半の質問コーナーでは、質問がたくさん寄せられました。その一部をご紹介します。

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Q.ビッグイシュー販売の収入で生活は成り立つのですか?

Y・Tさん:「販売の収入は、販売場所によるところも大きいと思います。売れる場所と売れない場所がどうしてもある。僕の場合は、アパートを借りられるまでに至っています。服も買って、ご飯も食べられている。交通費も払えている。贅沢はしないけど、最低限の生活はできています。」

吉田:「平均で6〜7万ほどの収入になっています。売れる場所とそうでない場所はどうしてもあるので、二つの場所を掛け合わせる、雑誌の発送などの仕事を依頼するなど、販売者全員の生活が回るようにサポートをしています。でもやっぱり、もっと販売者の収入を増やしたいなと思います。」


Q.ビッグイシュー日本は社員に給料を払えているのですか?

吉田:「雑誌1冊あたりの売り上げ450円のうち、販売者には230円が、会社には残りの220円が入ってきます。それらの路上販売分の収益や、通販、広告費、寄付をいただくなどの収入をもとに、社員にも給与はなんとか支払えています。社会をよくしながら、自分たちの生活もよくする、そうした方向を目指して運営しています。」

「イメージに捉われず、互いに向き合える社会に」

今回の講義を、学生の皆さんはどう受け止めたのでしょうか?授業後の感想の一部をご紹介します。

「ホームレス状態にある人も1人の人間であること変わりはないし、しっかり自立して生きようとしている人もいることを知った。そこで私のホームレスの人に対するイメージや概念がガラリと変わった。」

「非常に興味深く、また自分を見直すきっかけにもなった。日本経済が低迷し格差社会が広がっていくなかで、誰もがホームレスになる可能性を秘めており、決して他人事ではないのだということを強く実感した。」

「格差社会が進んでいくことでどのようなことが起きるのかを学びました。」

「自分が持つイメージや社会が持つイメージに捉われることなく、その人自身を見つめて、お互いが向き合うことができる社会になればいいなと感じる。」

など、ホームレスの人たちに対するイメージが変わったという声だけではなく、社会に目を向けたいという感想もありました。

今回、講義を企画してくださった劉先生は、「人権を自分達の生活に身近なことから考えてもらえるよう、ビッグイシューの講義を依頼しました。普段、駅などでビッグイシューの販売者を目にしていても気づかないことがあるように、“見えているはずなのに、気づいていないこと”に気づいてもらいたいという想いがあります。また、今はインターネットを使って情報を集められる時代ですが、雑誌という、手に取って読むものにも触れてもらいたいと考えています。」と学生の皆さんへの想いを語ってくださいました。

取材・記事作成協力:屋富祖ひかる


格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 



参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」



人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか

より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。

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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。