違法薬物の国際的サプライチェーンの実態

ヘロインのルートを辿ると、薬物供給がいかに国際的で、その道のりにあるすべてのコミュニティーーアフガニスタンの農家、賄賂を受け取って国境や港での検査通過を黙認する役人、薬物を注射または吸引する人までーーに影響を及ぼしているかが見えてくる。「違法薬物は製造プロセスにおいても悪影響。気候や社会の破壊に着目しよう」に続いて、ヨーク大学准教授のイアン・ハミルトンが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。

ヘロインの大半はアフガニスタンで栽培されるオピウムが原材料

ヨーロッパで流通しているヘロインの大半は、アフガニスタンの小規模農家が栽培したオピウムを原材料としている。多くのアフガン農家はオピウム栽培を生活の糧としているが、その収穫によって多額の富を得ることはない。多額の富を得ているのは、オピウムをヘロインとして供給・流通させる者たちだ。

Stanislav Palamar/iStockphoto

2021年8月にタリバンが政権を奪還して以降、農家の暮らしは新たな脅威に直面している理念上、オピウムの生産に反対の立場を取っているタリバンは、政権奪還からまもなく、指導者たちは農家のオピウム栽培を禁じる命令を発した。命令に従わない農家の作物を破壊することで服従を強いたが、アフガン国内にはまだ相当量のヘロインの在庫があるため、ヨーロッパへの供給に大きな影響が出ることは当面はなさそうだ。

しかし、ニタゼンやその他の新たな合成オピオイドなど、より有害性の高い合成麻薬の出現を後押しする恐れが出てきている。いずれにせよ、ヘロイン取引に関与する密売組織は、オピウム農家の幸福など頭にない。在庫が不足するなど違法薬物の入手可能性が変わるときによく起こることだが、こうした組織はすぐに適応し、たちまち代替製品を提供する。

アフガニスタン中部の農民 Jonathan Wilson/iStockphoto

オランダ、バルカンを経てヨーロッパへ

密売組織に関する機密情報の収集には困難かつ危険が伴うが、その実態やオペレーションに関する知見については、欧州薬物・薬物依存監視センター(EUDA)のものが参考となる。それによると、オランダは以前からヘロイン流通の重要なハブ拠点となっており、アフガニスタンからのヘロイン輸入や流通に関与する犯罪集団が複数存在する。他にもいくつかの犯罪ネットワークが存在し、サプライチェーンの大部分を支配しているようだ。これらプロフェッショナル集団は、バルカン半島を通ってヨーロッパ内にハブ拠点を持つという供給ルートを通じて、違法活動を支えるビジネスを構築してきた。これに対し、政府や警察が取る対応にはスピード感がなく、犯罪集団が繰り返し見せつける手口の多様化や巧妙さに追いついていない。

アジアでも薬物消費が急増

薬物検出技術が向上する一方で、犯罪集団も手口をますます進歩させている。新型コロナウイルス禍では、大量のマスク流通を隠れ蓑として、大量のコカインを南米から中国や香港に流通させたと見られている。

Ja’Crispy/iStockphoto

欧米のコカイン市場が飽和状態になる中、犯罪集団はアジアでも市場を切り拓いているため、アジアでもコカインの押収や合成刺激剤メタンフェタミンの消費が急増、2023年の押収量は史上最高に達した。犯罪集団にとっては、ヘロインやコカインのように農産物を使わずとも提供できる合成薬物の生産・供給は、サプライチェーンに必要な流通や距離を大きくカットすることができ、様々な点で利便性を向上させられる。

大量の薬物や地域内での生産拡大の両方において、警察や国の統治の隙をつく犯罪集団たち。薬物依存から収益を上げることを目論む者たちにとっては、不安定な地域にこそチャンスが広がっている。続く記事では、シリア、ロシア、ウクライナで大金を獲得している者たちについて考えてみたい。

Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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