さまざまな背景をもつ人が集まる「ダイバーシティカップ」。スポーツを軸に、枠を越えて交流を生み出す

2018年10月21日、ホームレス経験者、若年無業者、うつ病、依存症、難民といった社会的に孤立しやすい人たちがフットサルを通じて交流する「ダイバーシティカップ」の第5回大会が東京で開催された。参加者は東京からだけでなく宮城や福島、山梨など全国各地から。5月には初の関西大会も開かれた。スポーツを軸に、枠を超えて交流を生み出すダイバーシティカップの模様をレポートする。

ボールを蹴るのに、立場や背景は関係ない

NPO法人ビッグイシュー基金の主催で、2015年から東京と大阪で開催されてきた同大会には、さまざまなNPO、依存症などからの回復施設、フリースクール、若者支援団体などによって結成されたチームが出場。これまでに延べ1000人以上が参加してきた。勝ち負けを競うのではなく、スポーツがもつ「人と人をつなげる力」を生かした試みだ。

「ボールを一緒に蹴っているときは立場や背景は関係ない。話すのが苦手でも相手との距離が近くなる」。この参加者の言葉が、ダイバーシティカップの意義をよく表している。

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5回目となる今回は、全10チームが参加。福島県の子ども・若者支援や被災した障がい者の支援団体などの混成チーム「FYO」は、第1回目から毎年出場している。一方、精神科通院中の人たちを対象とした障害福祉サービス事業所チーム「レーヴェン勝田台」は今回が初参加だ。小学生から60代までと年齢層も幅広く、体力やスポーツ経験にかかわらず誰でも参加できる。

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開会式の挨拶で「ここに来ること自体が大きなチャレンジだった人も多かったと思います。集まったみなさん、お互いに拍手しましょう」と声をかけたビッグイシュー基金の長谷川知広。体力に自信がない人、知らない人と接するのが苦手だという参加者も多い。プログラムは、そんな緊張感をほぐし、コミュニケーションしやすい雰囲気をつくるための「アイスブレイク」から始まる。遊びの要素をいれながら周りの人と身体を動かすうちに、不安そうだった表情に顔が浮かんでくる。

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「外との交流が少ないので、大会がいい刺激に」

試合は「チャレンジリーグ」と「エンジョイリーグ」に分かれて2コートで進行。小学生の頃から大学までサッカーをやっていた30代の吉岡さん(仮名)は、山梨県にあるギャンブル依存症回復施設「グレイス・ロード」からの初参加メンバーだ。

「依存症から回復するためには、ギャンブルに代わる趣味を見つけなさいと言われます。スポーツもそのひとつ。ギャンブル優先になっていたときは、好きだったサッカーもあとまわしだったけど、いまは仲間と毎週練習をしている。施設で暮らしていると外との交流が少ないので、大会への参加はすごく刺激になります」(吉岡さん)

「FCグレイス・ロード」のチームリーダーである田村仁さんは、今大会が4回目。「参加するまでは、いろいろな背景の人同士が集まってちゃんと試合ができるのかなって思っていたのですが、違うチームと話してみたら面白い人が多い。自分のなかにも偏見があったんだなって、いまは思います」

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スポーツが苦手でも、大会に来られなくても

参加しているのは、スポーツが得意な人ばかりではない。「最初は応援さえできなかった」と話すのは、5回目の参加となるチーム「FYO」の佐藤陽子さんだ。

「いままでスポーツはあまりしてこなかったし、コンプレックスでもあったのですが、地元でも練習するようになって、気の置けない仲間とやるスポーツがすごく楽しいことに気づきました。まだ大会に来ると緊張しますが、前よりも応援ができるようになったのが自信にもなっています。それに、ボールを追いかけているときは、ネガティブなことは頭に浮かんでこない。身体を動かすのがいいのかな」(佐藤さん)

佐藤さんは選手として参加する以外に、大会のリーフレットなどのデザインも手掛けている。「スポーツが苦手な人、東京に来られない人にも活躍の場をつくりたい」と考える「FYO」には、プレイヤーとして出場していなくても、チームの旗や応援グッズの制作など、さまざまな形でこの大会にかかわっている仲間がいるという。

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各チーム4試合ずつのリーグ戦が終わると表彰式が行われるが、大会はこれで終わりではない。昼食後の第二部は、各チームのメンバーを混ぜたミックスチームでの交流試合だ。一緒にボールを蹴って距離が縮まったところで、「サッカーを始めたきっかけ」や「これからチャレンジしたいこと」などを円になって話し合う。コートだけでは見えないお互いの一面に、それぞれ真剣に耳を傾けたり、笑い合ったりしていた。

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運営スタッフも飛び込みで試合に参加

回を重ねるなかで、大会にも少しずつ変化が生まれている。たとえば以前にチームで参加した人から「メンバーが足りなくてチームでは出られないが、個人でも出場したい」という声があがり、今回初めて個人参加者による混成チームが誕生した。

以前にひきこもり支援団体のチームから出場したという男性は、「もっといろいろな人と話せるようになりたい。このダイバーシティカップは自分にとって必要なチャレンジの場」と今回の個人参加を決めた。

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運営には、ブラインドサッカーの有志ボランティアによるチーム「新宿IGUAIS」、「東京済生会中央病院」がボランティアで協力。ビッグイシューの元販売者をはじめとする、個人のボランティアも多数この大会にかかわっている。ときには運営スタッフやメディア取材で来た人までが、飛び込み参加で試合を一緒に楽しむ光景が見られるのも、ダイバーシティカップの醍醐味だ。

「課題は、年々フットサルのレベルが高くなっていることでしょうか(笑)。大会を目標に自主練習を始めたり、ここで知り合った他チームと合同練習をしたりといった話も聞きます。それはとても嬉しいこと。ただ、スポーツが得意でない人が気軽に参加できる大会でもあり続けたいので、子どもも大人も、体力がある人もない人も、誰もが楽しんで活躍できるような仕組みを考えていきたいと思っています」(ビッグイシュー基金 長谷川)

(中村未絵)


「ダイバーシティカップ5」
日時:2018年10月21日(日)10時~17時
場所:フットサルステージ(東京都多摩市落合1-47 ニューシティ多摩センタービル8F)
主催:認定NPO法人ビッグイシュー基金
共催:ダイバーシティサッカー協会
協力:社会福祉法人 恩賜財団 済生会支部東京都済生会 東京都済生会中央病院、新宿IGUAIS
助成:平成30年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業



「社会性スポーツ」に興味を持った方へ

ビッグイシュー基金から独立して設立された「ダイバーシティサッカー協会」では、「社会性スポーツ」の試みを広げていくために、ボランティア・寄付サポーターを募集しています。活動に賛同いただける方は以下のページをご覧ください。

https://bigissue.or.jp/2018/03/info_18031501/

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