経産省が公文書偽造ードタバタ劇、慣れあいの原子力行政

3月31日に経済産業省は公文書の偽造を認め、管理職員などの処分を公表。その顛末は、「関西電力株式会社に対する業務改善命令に係る不適切な手続きへの対応について」という文書に書かれている。「不適切な手続き」と軽い表現だが、実態は“公文書の偽造”だ。 

関西電力の金品受領問題
経産省と相談しつつ後始末か 

森友学園や桜を見る会など、公文書偽造が繰り返されているが、公文書は国民共有の知的資源であり、偽造などあってはならない。

福井県高浜町の元助役が絡む金品受領問題について、関電が第三者委員会の“報告書”を経産省に提出したのは今年3月14日(土)。これを受けて3月16日(月)には関電の森本孝社長を経産省に呼び出し、高橋泰三・資源エネルギー庁長官が業務改善命令を手渡している。なんと午前7時56分のこと。命令を出すには少なくとも課長・部長・長官・大臣らの決裁が必要だから、阿吽(あうん)の呼吸の手際よさだ。関電と経産省の間で、報告書公表前から後始末対応が詰められていたに違いない。

振り返ってみよう。金品受領問題に関する関電報告(2018年9月)は、その翌年にマスコミによって明るみに出た。経産省はその事実を当初から知っていて、両者は相談しながら対応してきたと筆者は疑っている。高浜町に経産省からの出向者がいて、金品のやり取りや国税が査察に入ったことなどの情報が経産省本部に届かないはずがない。 

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手続き怠り、偽造を提案
情報開示請求で明らかに 

 この3月16日朝のやりとりを知った経産省の電力・ガス取引監視等委員会(八田達夫委員長)の事務局が、命令を出す前に「第三者組織である同委員会の意見を聴取する手続きがなされていない」と指摘。電気事業法に基づく手続きを怠っていたのだ。そこで、同日にこの手続きが同委員会の5人に書面で行なわれ、全員から了解を得た。

 しかし、手続きが前後していたため、資源エネルギー庁電力・ガス事業部の担当の課長級職員(部署や氏名は非公表)が文書の偽造を提案したという。そして上司も含め、この作業を進め、村瀬佳史部長も黙認したとされる。つまり、業務命令に至る部局内での決裁手続きを破棄し、新たに15日付けで電取委から了承を得たと書き換え、必要な決裁を済ませたということだ。決裁には11人がかかわっていた。

 しかし、決裁文書などの情報開示請求があり、その過程で隠せなくなって表に出た。この件が梶山弘志経産大臣に伝えられたのは3月28日午後5時頃。大臣は改めて手続きをし直すことを指示、約1日後に電取委の意見聴取の再手続きを経て、29日夜に必要な決裁を済ませ、30日に関電を呼びつけ、命令書を再度手渡した。これを受けた関電は翌31日に業務改善計画を経産省に提出。関電の株主総会対策もあり、年度内に終わるよう急いだと考えられる。

 関電の内部処分も甘いが、経産省の処分も極めて甘い。7人の処分のうち、1人が戒告で、他は訓告や厳重注意だ。今回の偽造は、刑法155条の偽造公文書作成罪に抵触する可能性があることから、経産省は予防的に警察に報告している。人事院の指針では公文書偽造をした職員は「免職または停職」処分と厳しい。にもかかわらず、偽造が繰り返されている。今回の処分も極めて軽く、反省がまったく見られない。役人のコンプライアンス意識がまったくないと言っても過言ではない。

 公文書管理法は消えた年金記録問題を契機に2009年に成立したが、同法に罰則規定がないことも、偽造・改ざん・隠ぺいなどが繰り返される原因といえる。

(伴 英幸)

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(2020年6月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 384号より)
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伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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