2011年3月の福島第一原発事故では、膨大な量の放射性物質が放出された。この放射性物質を除染するために膨大な尽力と大量の除染物が発生した。福島県内で発生した除染物は福島第一原発の周辺に作られた広大な中間貯蔵施設に保管されている。その量は24年12月現在、1300万㎥に上る。この量は今後も増える見込みだ。
(この記事2025年2月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 496号からの転載です)
中間貯蔵は文字通り中間貯蔵だ。国は中間貯蔵の開始から30年後の45年までに福島県外で最終処分を完了すると約束し、法にも明記している。ただ、県外の最終処分地は現在のところ未定だ。中間貯蔵施設では除染物を福島県内から集めるだけでなく最終処分する量を減らそうと、除染物を分類して、可燃物を燃やしたり、汚染度の高いものと低いものを分けたりしている。そして、さらなる処分量削減の一手として、国は8000 Bq(ベクレル)/kg以下の除染物を「再生資材化した除去土壌」と称した土木資材として再生利用する計画を進めている。中間貯蔵施設にある除去土壌のうち8000Bq/kg以下のものの割合は73%を占める。すべて再生利用できれば貯蔵量の約7割を削減できる計算だ。
廃棄物で再利用できるものは放射性セシウムで100 Bq /kg以下(0.01mSv〈ミリシーベルト〉/年)のものに制限している。一方、再生資材化できるものの基準は80倍高い8000 Bq /kgとされている。そもそも、放射性物質が管理されている理由は、人の健康に対する影響が無視できないからだ。100 Bq /kgは、議論があるものの、無視できる基準として設定された。無視できる基準よりも80倍高いのになぜ再生利用ができるのか。国の説明では「覆土等の遮へい、飛散・流出の防止、記録の作成・保管等の適切な管理の下で、 再生資材を限定的に利用」するから大丈夫だというのだ。
無視できない周辺住民の被曝線量
覆土なしで子ども0.97 mSv /年に
一般人の被曝線量限度は1mSv/年に制限されている。これに照らして再生利用は問題ないのか。国の資料を見ると、あるシナリオでは工事中の作業員の外部被曝が0.93 mSv /年、周辺住民の場合、0.16 mSv /年(子どもは0.21 mSv /年)、覆土がなくなった場合の周辺住民の被曝線量は0.75 mSv /年(子どもは0.97 mSv /年)と決して無視できる線量ではない。

再生利用には、記録の管理から遮へい、飛散防止措置など通常の工事では必要ない作業が必要となる。こうした費用はいったい誰が負担するのか。環境省は法に基づき東京電力が負担すると説明している。しかし2016年12月の閣議決定「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」によれば、現時点で4兆円と見積もられている除染・汚染廃棄物処理費用は国が保有する東京電力株の売却益により回収、2.2兆円と見積もられている中間貯蔵施設費用はエネルギー特別会計から交付する資金により回収となっており、実態的には東京電力の債務は免責されている。
2024年12月20日の「福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等推進会議」で、2025年の春頃までに再生利用の推進などの基本方針の取りまとめ、さらに夏頃までにロードマップの取りまとめが指示されている。低線量被曝による健康影響は確率論的なもののため、被害があっても立証は極めて困難だ。だからこそ厳しい原則が求められる。にもかかわらず、巨額の費用を費やして集めた放射性物質を、今度は国が福島復興の名の下に、税金でばらまこうとしている。(松久保 肇)
松久保 肇 (まつくぼ・はじめ)
1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。
金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など https://cnic.jp/