オーストラリアの若者の約半数が「自分の見た目に満足していない」という調査結果がある。ソーシャルメディアが、他者との比較や、およそ現実的でない不健康な美の追求を助長するなど、ボディ・イメージの問題を悪化させているのだ。だれでもショート動画の作成・視聴ができるTikTokのユーザー数は若者を中心に10億人を超え(2024年記事掲載時点)、摂食障害や痩せ過ぎ体型を美化する動画など有害なコンテンツも瞬時に広まる場となっている。そうしたコンテンツが若い女性のボディイメージに与える影響についての研究*1 を進めているチャールズスタート大学(オーストラリア)のレイチェル・ホッグ心理学上級講師が『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。

7〜8分の有害コンテンツ視聴で起こりうる美しさ基準の「内在化」
研究では、TikTokの女性ユーザー273人(18〜28歳)を無作為に2つのグループに分けた。過去または現在、摂食障害に陥った(ている)人は今回の研究では対象外とした。
実験群のユーザーには、拒食症擁護派や、いわゆるフィットスピレーション(食事や運動を通じてアクティブかつ健康的なライフスタイルを送れるようインスピレーションを与えることを目的とした画像や動画)のTikTok動画を7〜8分間見せた。具体的には、若い女性が食事制限をしたり、エクササイズに関する助言をしたり、減量目的のジュースクレンズ(1日3食をすべてジュースと水に置き換え、デトックスを促す健康法)の説明などダイエットのコツを解説した動画などだ。一方、対照群のユーザーには、自然、料理、動物など「中立な」TikTok動画を7〜8分間見せた。そして、アンケート調査を行い、動画を視聴する前後でボディ・イメージへの満足度、ならびに美しさの基準の受け止め方が変化するかどうかを見た。
すると、ボディ・イメージへの満足度は実験群・対照群ともに低下が見られたが、とりわけ拒食症擁護系コンテンツを視聴した者たちの低下が著しく、美しさの基準の「内在化」でも高いスコアが確認された。内在化とは、他人や社会の価値観、規範を受け入れ、自己のものとして受け入れることをいう。SNS上の有害コンテンツを見たからといって必ずしも害があるわけではなく、その内容が内在化されたときに、その人のボディ・イメージが悪化するのだ。
参加者たちには、動画を視聴する前に、TikTokの利用に関する一般的な質問と、“健康的な”食生活や摂食障害の症状に関する先入観について確認したところ、TikTok利用頻度が「非常に高い(1日3時間以上)」と「高い(1日2〜3時間)」者は、そうでないユーザーよりも摂食障害行動にあたる症状を報告した。ただし、この差異はまだ統計的に有意なものではなく、関連性が疑われるレベルであることを断っておく。
実験群の参加者に見せた動画は、プロアナ(拒食症擁護派)コミュニティ内にとどまらず、TikTok上で広く出回っているものだ。クリーン・イーティング(最低限の加工を施した食事)、デトックス、成分限定食などのトレンドは、無害に聞こえるが、摂食障害をもたらす危険性をはらんでいる。「ウェルネス」「セルフケア」といった言葉とともに、ダイエットにゲーム的要素が加わり、行き過ぎた運動や摂食障害をもたらすおそれがある。

ウェルネス系インフルエンサーたちが関連コンテンツの普及に大きな役割を果たす一方、一般ユーザーもハッシュタグ(#GymTok, #FoodTok など)で日々の食事、減量、運動ルーティンに関するコンテンツの作成・消費に加担しうる。有名人やインフルエンサーなら社会的に無責任なコンテンツをシェアすることで激しい反発を受けるおそれがあるが、一般ユーザーなら、そんな心配もなく危険なダイエット動画を拡散できてしまう。今回の研究が着目したのは、TikTok動画視聴による短期的影響のみだが、こうしたマイナスの影響が長期的にも続くのかどうかを見る研究も行う必要があるだろう。
コンテンツ検閲の難しさから子どもを守るために
TikTokユーザーは、自分がどんなコンテンツを目にするかをほとんどコントロールできていない。というのも、メインで利用するのは、アルゴリズムによって選ばれ、個々のユーザー向けに作成された「For You」ページなので、特段、摂食障害について検索したり、関連コンテンツをフォローしていなくても、そうしたコンテンツが流れてくることがあるのだ。私たちの研究では、参加者の64% が「For You」ページで摂食障害系コンテンツ(どか食い、下剤の使用、過度な運動をしている動画など)を見たことがあると回答した。ボディ・ポジティブ系のコンテンツを検索すると、摂食障害系コンテンツが流れてくるおそれがあるのは皮肉なことだ。
TikTokユーザーができることとしては、食べ物、体型、運動に関するコンテンツをフォローあるいは検索することで、“ゆがんだ理想像”をうっかり目にすることもあるとしっかり認識しておくこと。TikTokの使用時間を減らすことも一つの対策にはなるだろうが、今回の研究からは、10分未満の動画視聴でさえマイナスの影響があるといえる。
昨今、子どもを守るためのSNS規制の必要性が叫ばれているが、荒海で泳ぐためにライフジャケットを着けさせるように、有害コンテンツの回避方法についてスキルアップをはかる取り組みも必要だろう。
著者
Rachel Hogg
Senior Lecturer in Psychology, Charles Sturt University

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2024年8月7日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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