2025年10月、吉祥寺で、大手メディアがあまり報道しないテーマにスポットライトを当てた「UNKNOWN cinema」開催された。第1回となる今回はパレスチナのガザ地区を舞台にした4つのドキュメンタリー映画が上映され、10月11日の『ガザ・サーフ・クラブ』と『ガザ 素顔の日常』の上映の合間に、配給を手がけたユナイテッドピープル株式会社代表取締役・関根健次さんがトークゲストとしてオンライン登壇。集まった参加者は真剣に耳を傾けた。
ユナイテッドピープル株式会社
2002年創業。「人と人をつないで世界の課題解決をする」をミッションに、戦争、飢餓貧困、気候変動など世界の課題解決を目的とした事業を展開。主な事業としてドキュメンタリー映画の配給や制作、そして映画の上映会開催のためのプラットフォーム「cinemo」の運営を行っている。
「知られていないことが最大の課題」
冒頭であいさつに立ったビッグイシュー日本スタッフの佐野未来は、ビッグイシューの活動を紹介。ホームレス状態の人たちによる路上での雑誌販売を通じての自立支援を行っているが、雑誌で扱うテーマはホームレス問題だけでなく、貧困や社会的排除、差別、環境、平和、アートなど幅広い。『ビッグイシュー日本』512号に掲載した『もしも君の町がガザだったら』の著者・高橋真樹さんのインタビューに連動した今回の映画会 は、国際NGOピースボートと吉祥寺サンロード商店街にあるイベントスペース espace Á L. L.の協力を得て企画されたと話す。その上で、「ガザの悲惨な現実は“知られていない”。まず知る機会をつくることが今回の目的です」と語った。
今回の上映作品『ガザ 素顔の日常』は、制約の多いガザでの日々を生きる人々――理髪店主やカフェの店員、学生、タクシー運転手など――を捉えた2019年公開のドキュメンタリー。関根さんが代表を務めるユナイテッドピープルが配給を担った。
「制限の中でも、小さな幸せを見つけようとする人たち」
関根さんは1999年1月、大学生の頃に世界半周の旅に出かけた。その旅の途中、ガザ地区にはイスラエルとパレスチナの問題をほとんど知らないままに訪れたのだという。日本のパスポートがあれば、ビザなしでガザ地区を訪問できていた、安全な時期だ。「当時訪れたガザは平和で、人々は驚くほど温かく、街は活気にあふれていました」と振り返る。
この偶然の訪問が“平和を志す原点”となり、「どうしたら戦争を終えられるのか」、「平和をもたらすにはどうしたらいいのか」と考えるようになったのだという。
『ガザ 素顔の日常』は、ユナイテッドピープル創業20周年の節目に、起業の原点であるガザの映画を探し回り、ようやく見つけて配給にこぎつけた作品だ。

「この映画には、当時のガザとほぼ同じ雰囲気がある。豊かではなくても、制限の中で小さな幸せを見つけようとしている、ひょうきんで明るい人たち。(関根さんが訪れた当時)商店街を歩くとアジア人が珍しかったようで、道行く人のほぼ全員が声をかけてくれたんです。紛争地域とは思えない、世界のほかのまちと全く同じ日常。いや、世界中にこんなに優しくて人懐っこい人たちはいないというくらい。その変わらない日常に、数年に一度、空爆があって、家族が殺されるという現実があるんです」
「報道の数字では見えない日常を」
続いて、現在のガザの厳しい状況にも触れる。
「今、ガザの建物の約9割が破壊されてしまいました。破壊されているのは住居、商業ビル、病院、学校、水道や発電所といったありとあらゆるインフラです。生き抜くのに必要な安全な水すら手に入りません。病院にも医薬品が不足していて、この2年、病院では麻酔なしで手術が行われ、妊婦さんが麻酔なしで帝王切開されていたこともあるといいます。200万人のうち、50万人が極度の飢餓にあり、餓死者が出てきている。ある報道では、病室にいる子どもたちは食糧不足によって元気がなく、泣くことすらできない様子が報じられていました。52分に1度の割合で、子どもが殺されている――そんな底なし地獄が日常的に続いているんです」
国連は2025年9月になってやっと、ガザでジェノサイド(集団殺害)が起きていると認定する報告書を発表した。
「報道もほとんどありませんし、報道されたところで、 “何万人が亡くなった”という数字を聞いても、実感が持ちづらいと思います。だからこそ、この映画で描かれるタクシー運転手やカフェの店員、理髪店の店主、ラッパーを志す若者、大学生たちの普段の日常や、生き抜こうとする姿を通じて、ガザを身近に感じてほしいです」

二度の訪問で感じた変化
関根さんは2度、ガザを訪れている。1回目は平和な雰囲気が残る1999年。2回目は2006年11月、ガザにある子ども支援施設を視察するためだったという。
「ハマスとファタハが内部闘争をしていた時期で、安全面の問題から、日帰りしか許されませんでした。1回目にガザにある国際空港の管制塔に訪れましたが、今や跡形もありません。
トランプ大統領が強く求めたため、今は停戦となっていますが、人質が解放された後にまた再開するのではないかと心配です。
新作『手に魂を込め 歩いてみれば』へ
関根さんは12月に公開予定の新作ドキュメンタリー『手に魂を込め 歩いてみれば』も紹介。
主人公は、24歳の女性フォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナ。
「彼女とイラン出身の監督が1年間、スマートフォンで通話した記録の映画です。しかし映画が完成し、カンヌに選ばれ、その翌日にイスラエルの誘導ミサイルで狙い撃ちされ、家族とともに命を落としてしまいました。彼女が語った日常の喜びや夢を通じて、ガザを感じてほしい。映画を通して、彼女の生きた証をリレーしていきたい。ガザに生きる人々に、少しでも関心と支援が届くことを願っています」と語った。
「できることはたくさんある。あなたにできることを考えてほしい」
最後に、酷い状況が続くガザに対してできることとして、関根さんは「今、生きているガザのパレスチナ人たちに関心を寄せてください。現地で活動しているNGOに寄付をすることもできます。ピースボート、日本国際ボランティアセンター、パルシック、パレスチナ子どものキャンペーンといった団体は、スタッフが必死で支援活動をしています。 国民としてパレスチナの国家承認を日本政府に働きかけるということもできます。映画を見た後、私はなにができるのだろうということを考えていただけるとありがたいです」と締めくくった。
サムネイル&メインビジュアル画像:© Canada Productions Inc., Real Films Ltd.
- ユナイテッドピープル公式サイト:https://unitedpeople.jp
- cinemo(映画の自主上映のプラットフォーム。年間ライセンスもある:https://www.cinemo.info/
- 『ガザ 素顔の日常』公式ページ:https://unitedpeople.jp/gaza/
- 『手に魂を込め、歩いてみれば』公式ページ:https://unitedpeople.jp/put/
UNKNOWN Cinema by espace Á L. L. | Unknown Cinema
11月3日まで、「パレスチナの猫」写真展開催中!
撮影:高橋美香、安田菜津紀
企画:メディアNPO Dialogue for People
開催期間:映画祭期間中に加えて、10/24(金)-26(日)、31(金)、11/1(土)-3(月・祝)も開催します。
