急な洪水、異常な熱波…社会に深刻なダメージを与え始めている気候変動、ドイツの現状と取り組み

気候変動が世界にさまざまなかたちで影響を及ぼしている。猛暑日の日数は産業革命時代より2倍以上、近年の記録的猛暑においては5倍にまで増えている。こうした状況により、市民の健康リスクが大いに高まるとともに、社会的格差の問題も浮き彫りとなっている。ドイツ・ドルトムント市のストリートペーパー『bodo』の記事を紹介する。

気候変動がドイツ社会に直接的な危機をもたらすだけでなく、その影響は世界レベルで貧困層により深刻な打撃を与え、社会的格差を拡大させている。
欧州各地の政治家たちが、危険レベルの高温になる前およびその期間中にどのような対策を講じればよいかを定めた、暑さと健康に関する行動計画の策定を進めている。長期的には、危険性のある熱波から身を守るため、冷却効果のある緑地や水辺空間を拡大するなどして「ヒートアイランド現象」を緩和していく必要がある。
ドイツの都市、とりわけボーフムやドルトムントなどルール地方の都市においても状況は同じだ。低所得層の人々は、人口が密集する地域で、エアコンもない断熱性の低い住宅に暮らしていることが多い。公共インフラに依存せざるを得ない人たちは、ヒートアイランド現象下にある都市部にとどまらざるをえない。

「ルール地域連合」が作成した2つの地図を見ると、夏の夜間の気温が、都心部と郊外地域で最大で10℃の違いがあることがわかる。熱帯夜は体力を消耗させるだけでなく、深刻な健康リスクをもたらす。こんな状況を、WHO(世界保健機関)や赤十字、気候研究所は「サイレント・キラー(静かなる殺人者)」と呼ぶ。
かつては単発的現象だった熱波も、今や2〜5年ごとの夏に発生するとの予想で、その期間は長期化するとともに、最高気温も高くなる一方だ。西ヨーロッパでは1990年代以降、酷暑に関する警報が発される日数は4.5倍となっており、熱波の関連死者数も倍増している。
ロベルト・コッホ研究所によると、気象観測史上、最も暑かった2024年、ドイツの熱波関連の死者数は約6,300人、それよりは気温が下がった2025年で約2,500人と推定されている。これは、ドイツの年間交通事故死者数とほぼ匹敵する規模だ。

「緩和」と「適応」

ドイツでは、気温上昇が緩やかなシナリオでも、2050年までに5,000億ユーロ(約89.5兆円)のコストが発生すると見られている。気候危機がもたらす甚大な社会的・経済的影響を抑止するには単純にCO2の排出量を抜本的に削減するしかない。
エネルギー、暖房、輸送の各分野におけるこれまでの取り組みは、成果が出ている分野と努力が足りていない分野がある。電力供給はすでに、その半分以上が再生可能エネルギーで賄われるようになっているが、暖房や輸送分野は大きく遅れを取っている。また、ドイツや米国で見られる「後退」(補足:2025年5月発足のドイツのメルツ政権下では前政権が進めた急進的な環境規制から「経済最優先・規制緩和」へと大きく舵を切り、強い批判と懸念を呼んでいる)は、これまでの成果を危うくしかねない状況にある。

最新の研究によって、気温上昇に関する「最悪のシナリオ」は幾分緩和された一方、2015年にパリ協定で掲げられた世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える目標は、もはや達成不可能とされている。
気温上昇による影響が広く顕在化する中、CO2の排出削減策だけでは、猛暑、干ばつ、洪水などがもたらす深刻なリスクは緩和し切れないと見込まれている。
そんな中、近年は「避けられない影響への適応」、すなわち、「レジリエンス(強靭性)の強化」「備え」「災害管理」の重要性が注目されている。ドイツの気候問題専門家会議も2022年の報告書内で「緩和」と「適応」という二本柱の戦略へのパラダイムシフトを提言している。

Patsperspective/iStockphoto

ボーフム市とドルトムント市の取り組み

「スポンジ・シティ(雨水を吸収・貯留する都市)」の概念を掲げるボーフム市は、気候変動に適応した都市開発の先駆的都市とされている。ドイツ環境支援団体(DUH)による都市の熱環境評価でも上位に入った一方、2018年以降、市内で9,500本の樹木が失われ、舗装による被覆が進行しているとも指摘された。そこで、雨水をすぐに下水道に流すのではなく、現地で貯留して地中への浸透や蒸発を促す、時間を置いてから排出するなどの対策が取られている。
ドルトムント市は動的な「熱対策計画」をいち早く策定した都市の一つで、市民への情報提供や啓発活動に加え、公共空間での暫定措置や長期的な適応策を講じることで都心部の過ごしやすさの維持を目指している。
州政府は、「夏季支援」として総額25万ユーロ(約4,500万円)を拠出し、各団体が申請可能としている。だが、日除け用品や水ボトルの提供だけでは、路上生活に伴う深刻な健康リスクには対処しきれない。何より、暑さをしのげるインフラや場所が不足しているし、日中利用できる施設の多くが規模が小さすぎたり、空調が完備されていない。
ドルトムント市が作成した「クール・プレイス(涼める場所)」の地図を見ると、公衆トイレの利用は「ナイス・トイレ(Nice Toilet)」制度の下で民間委託されていて、。掲載場所の多くがホームレスの人々の利用を想定したものになっていないことがわかる。日陰のベンチや地下構内がある駅リストも掲載されているが、ホームレス状態にある人々はそういった場所にいるだけで「無賃乗車」の疑いをかけられたりと罰則を科されやすい。

ルール地域連合が作成したドルトムント市の地図

ボーフム市は、ホームレス状態にある人々を対象とし8ページに及ぶ「熱波対策計画」を公表したが、おおむね既存のホームレス支援サービスの羅列にとどまっており、新たに追加された内容はというと、教会の開館時間の延長、公共施設の屋外への日よけ設置可能エリア、高齢者向け施設での給水サービスくらいだ。これでは命を守れない。

ルール地域連合が作成したボーフム市の地図


各自治体で気候変動への適応策の取り組みが進められているが、気候変動の影響が社会的に不公平な形で影響を及ぼしているという点までは十分な配慮が行き届いていないと言わざるを得ない。
気候危機の影響からすべての市民を守ることが重要なのはもちろんだが、その努力が実を結ぶには、脱炭素化に向けた取り組みを本気で進展させていかねばならない。

By Bastian Pütter
Translated from German via Translators Without Borders
Courtesy of bodo / INSP.ngo

サムネイル:David Calvert/iStockphoto

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