「食料品の個別配達を通して見える貧困問題のいま」-「第3回大阪ホームレス会議~食のセーフティネットのいま~」1:基調講演より

2017年12月10日、梅田センタービルにて、ビッグイシュー基金と認定NPO法人フードバンク関西との共催で、『路上脱出・生活SOSガイド』の発行を記念した「第3回大阪ホームレス会議」が開かれました。


ホームレス会議は、ホームレス当事者、支援者、一般市民が立場を越えてホームレス問題について考え・議論する場として、これまでに東京(2007年)、と大阪(2008年、2009年)で開催されてきました。

今回の「第3回大阪ホームレス会議」では、「食のセーフティネットのいま」をテーマに、生活困窮世帯に食料品を個別配送する「フードバンクかわさき」代表の高橋実生さんの基調講演をもとに、炊き出しや子ども食堂の関係者、ホームレス当事者、一般市民の方、計112人が議論しました。

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今回は、当日の様子をレポートします。

<登壇者>
■基調講演「食料品の個別配達を通して見える貧困問題のいま」
―高橋実生さん(フードバンクかわさき 代表)

■パネリスト
・炊き出し、フードバンクを利用しているホームレス当事者
・浅葉めぐみさん (認定NPOフードバンク関西 理事長)
・古市邦人さん  (NPO法人炊き出し志絆会 理事)
・川辺康子さん  (にしなり☆こども食堂 代表)

(1)「ホームレス会議」とは、ホームレスの当事者が自ら発言し市民と議論や交流できる場

はじめに、開会の挨拶として、ビッグイシュー基金理事の水越洋子より今回のホームレス会議の趣旨が説明されました。
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ビッグイシュー基金理事・水越洋子

どうして「ホームレス会議」という名前がついているかと申しますと、「ホームレスの当事者が自ら発言する場をつくりたい。そこで市民のみなさまと議論や交流をする場ができたらいいな…」と考えたからです。
(大阪では)2008年に第一回、翌年に第二回が開催されました。それから8年が経ち、現在貧困問題が広がっていく中で、ホームレス状態にある人はもちろんですけども、「市民のなかで食のセーフティネットをつくっていく、考える場をつくりたい」ということで今回のテーマが「食のセーフティネットのいま」ということになりました。

(2)貧困問題の広がりを受け『路上脱出ガイド』を『路上脱出・生活SOSガイド』に改訂

2017年、ビッグイシュー基金が作成・発行してきた従来の『路上脱出ガイド』は、『路上脱出・生活SOSガイド』に改訂いたしました。この背景には、「今ホームレス状態にある人だけでなく、貧困問題が広がっていくことに対する危機感」がありました。こうした経緯について、ガイドの改訂を担当した基金スタッフの林より説明がありました。

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ビッグイシュー基金スタッフ 林直美

ビッグイシュー基金では、2009年からホームレス当事者への情報提供の手段として、路上生活をする人が今日を生き延びる、また路上を脱出するために必要な情報をコンパクトにまとめた『路上脱出ガイド』を作成・発行してきました。そのガイドは2009年1月に第一版、2012年9月に改訂第二版を発行し、夜回りや炊き出しなどでの直接配布、また公共図書館への設置を通じてこれまでに約26,800部を配布してきました。

ところが、ここ数年間で厚生労働省の発表する路上生活者が減少する一方で、生活に困窮した若者、女性、高齢者など、ホームレス状態に陥るリスクをかかえた人々が激増しています。そういった状況をうけ、ガイドの第三版の改訂作業をすすめるにあたり、これまでの「路上で使える情報」に加えて、生活困窮や社会的困難を抱える人にとっての相談先ガイドとしても使えるように、路上化の予防や生活再建の情報を充実させました。それが、こちらの『路上脱出・生活SOSガイド』になります。

(3)「食料品の個別配達を通して見える貧困問題のいま」―高橋実生(フードバンクかわさき 代表)

 続いて、基調講演として「フードバンクかわさき」代表の高橋実生さんより、活動内容や動機、活動において大切にしていることや見えてきたことが話されました。

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高橋実生さん(フードバンクかわさき代表)

■活動を始めた動機は「当事者の声を広く伝え、当事者へ情報を伝えたい」

「フードバンクかわさき」は、「一般社団法人ファーストステップ」が母体です。DVや虐待などのファミリーバイオレンスの当事者の支援グループとして2002年に設立し、2013年に法人化するとともにフードバンクかわさきを始めました。活動を始めた動機としては、サバイバー(当事者)の声が全く法律や支援状況に反映されていないということと、その方が持っている情報の量により、その後の人生まで左右されてしまう。これを非常に痛感しまして、情報を広く伝えていきたいと思いました。
さらに、人が死んでしまう時っていうのは食べものがないとかお金がないってことだけじゃなくて、孤立してしまうというのがあるんじゃないかなあと思って。これをなんとかしたいと思いました。

■活動では「調理ができるか?ライフラインは止められていないか?」ということまで配慮する

活動の流れとしては、まだ食べられる食品などを寄付してもらいながら、それを渡していくときに相談ですとか、寄り添い見守り、情報の活用方法とかを含めてサポートします。
まず、行政や社会福祉協議会に相談に来られた方や、学校や民生委員さんといった地域の関係者、さらに労働相談、いのちの電話といった相談機関に繋がった方から申し込みがきます。
そこで生活状況をヒアリングして、相手に合わせて食品を持っていきます。例えば電子レンジがないお家にレンジでチンのごはんを持って行っても無駄になりますし、何日も食べてなくて立ち上がる気力もない方に野菜を送っても食べられませんから。私自身がDVで避難していたときには電気、ガス、水道のライフラインは全部とまりました。自分がそういった生活をしてきているので、どこで困るかな、というのをまず考えます。
主眼として置いているのは、困りごとを聞き取ってセーフティネットとして必要な情報を届けること、社会保障につないでいくこと、社会とのかかわりを取り戻していくということですね。

■ただ「配っておしまい」というわけではない。―フードバンクの可能性

フードバンクって無償でもらって無償でわたすという原則があるので、そもそもが赤字事業なんです。だけど、配布することで家庭の状況がよりよく分かる。行政の家庭訪問だとすぐ断られてしまいがちですが、フードバンクの食べものを持っていくので「お家に行ってもいいですか?」ということならできるわけです。直接顔をあわせて話すなかで信頼関係もできますし。

 フードバンクと聞くと、その利用者はサービスの「受け手」である、という認識が一般的かと思います。しかし、高橋さんによれば、そこには当事者が主体性を発揮する機会があるといいます。

例えば私たちの手元にカレーの甘口と辛口があったとして、お子さんがいる家庭であれば甘口をお渡しするなど、好みにあったものが届いた方がお互い嬉しいですよね。アレルギーのこととか、ご本人が「こういうものが欲しいんです」と伝えるところが主体性にも繋がる。そういった関わりのなかで、「ただ来たものをもらう」というのではなくて「自分で必要なものをオーダーして受け取る」という方が、より自主的になるのかなと思っています。

■“命のセーフティネット”としてのフードバンク

 「食のセーフティネット」というテーマでお話しくださった高橋さん。切実な現場を知る高橋さんは「フードバンクが向き合っているのは正に命に関わる課題」だといいます。

フードバンクは「食のセーフティネット」だけじゃなくて、本当に…最前線の“命のセーフティネット”だと思っています。連絡を貰った時点で「今日死のうと思ってました」っていう方に出会うことがとっても多いんですよ。「何日食べてなかったの?」って聞くと…3日くらいだったらなんとか皆さん普通に話せますけど…1週間、10日の方だと玄関を開けるのも大変なんですよね。そこまでSOSを出せずにいるんですね。

私自身も食べるものがなかった時には、親兄弟にSOSを出そうなんて思いもしませんでしたから。やっぱり人として生きていくときに大切なのは、食べものがあるってことだけじゃなくて、人としての尊厳がきちっと守られるということ。人として大切にされる、生きていていい自分だって思えることだと思います。

 かつて、食べるのに困りながらもSOSを出す難しさを経験した高橋さんは、 フードバンクの可能性について次のように語られました。

SOSを出せる一つの場所としてフードバンクを捉えています。「もったいない食べ物がたくさんあるんですけど、もらってくれないかな?」という入り口のフードバンクのほうが、よりSOSを受け付けやすい。「ちょっと私でももらえますか?」という声がかかりやすい。実際そんな感覚を得ています。

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本イベントに登壇したフードバンク関西とフードバンクかわさきを掲載。
https://www.bigissue.jp/backnumber/321/