何を「普通の」体型と考えるかは身近に見える体型に影響される――これは大人だけでなく子どもにも当てはまることが、今回筆者たちが行った研究*1 から明らかとなった。英ダラム大学心理学教授リンダ・ブースロイドが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。
*1 Body size aftereffects are adult-like from 7 years onward
顔つきや体型の受け止め方は周囲からのインプットが影響する
新しいインプットが繰り返し行われることで脳が柔軟に変化する処理を「適応」といい、脳が「適応」することで物事の長期的な受け止め方が変化する。普段よく目にしている顔立ちの人を「普通」と捉えるようになるのもその一つだ。
体型の受け止め方に関する研究はこれまで、大人を対象としたものがほとんどだった。大人たちの間では、「顔つき」や「体型」で同じ影響が確認されている。太った人をたくさん目にしていると、太めの人を魅力的と感じるようになり、太め体型を「普通」と感じるようになり、肥満かそうでないかの基準もゆるくなりやすい。一方、痩せた体型の人をたくさん目にしている環境だと、それと反対のことが起きる。
子ども・大学生はより強い影響を受ける
これは子どもにも当てはまるのかどうかに着目したのが、今回筆者たちが実施した研究だ。子ども(7〜15歳)と大学生、そして大人を被験者とし、さまざまな体型の人物写真を見せて太っていると思う度合いを評価させた後、非常に痩せた体型、あるいは非常に太った体型の写真を20枚見せる。その後で再び、最初と同じ評価をさせた。

すると、すべての被験者において、太った体型の人をたくさん見た後では、太った体型の人を見ても太っているとみなしにくくなることが分かった。つまり、「普通の体型」と考える幅が広がり、すべての体型が以前より「細い」と捉えるようになったのだ。ところが、痩せた体型の写真をたくさん見た被験者たちにはこのような変化は起きず、実験の前後で評価は変わらなかった。
どんな刺激(今回なら写真)を使うかによっても違ってくるのかもしれない。他の研究室が異なる刺激を用いて大人を対象に実験したところ、両方のケースで知覚の変化が確認された。子どもと大人の被験者を比較してみたところ、7歳児と大学生でより強い影響が出ることが分かった。これらの結果からも、体型についての脳の意識は柔軟であることが分かる。
痩せ体型の人形で遊ぶことは、少女たちが望む身体知覚を変え、自分も痩せたいと思わせることは先行研究*2 で明らかにされているが、それは人形に強く憧れたり、かわいいからだけではない。視覚的にそうした身体イメージにさらされることが、体型の捉え方を変えるのだ。つまり、視覚経験を変えること、例えば少女にさまざまな体型の人形やおもちゃを与えることが、体型の捉え方の健全性を維持するうえで重要な役割を果たす。
*2 Playing with ultra-thin dolls could make girls as young as five want skinnier bodies

太っていることがネガティブなイメージと関連付けられない配慮を
これらの結果を踏まえると、視覚メディアを通して大人の身体認知に及ぼす影響に関するさまざまな研究は、7歳の子どもにも当てはまる可能性が高いといえよう。西洋諸国の子どもたちは、太っていることと「あまり可愛くない」「友人として望ましくない」という考えとを関連づけられてきたことが分かっている。大人の世界でよく目にする痩せ細った体型を理想とする感覚を身につけてほしくないのであれば、子どもが目にするメディアのあらゆる場面でどんな身体サイズが表現されているかについて考え、子どもが体型に抱く偏見を助長しないよう気をつけなければならない。
著者
Lynda Boothroyd
Professor in Psychology, Durham University

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2025年3月5日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
サムネイル:hisa nishiya/iStockphoto
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