近年、「ボディ・ポジティブ」という言葉がよく聞かれるようになった。身体の特徴を肯定的にとらえるムーブメントが起きているのだ。ただし、身体を慈しみ、尊ぶという考え方は決して西洋社会が考え出した、ここ最近のものではない。英国のアングリア・ラスキン大学社会心理学教授ヴィーレン・スワーミーが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。
最初に、心理学における言葉の意味について。ボディ・イメージとは、自分自身に対する“内側からの認識”を指し、従来の研究では否定的な側面に焦点が当てられがちだった(外見に関する不安、身体醜形障害などの病態など)が、ここ20年ほどの間に、“肯定的”なボディ・イメージ研究が加速している。「肯定的なボディ・イメージ」と一言で言ってもさまざまな形があるが、最も重要で広く研究されているのがボディ・アプリシエーションに関するものだ。ボディ・アプリシエーションとは、自分の身体の特徴に価値を見いだし、身体を大切にする姿勢で、これが高い人というのは、外見に関する窮屈な理想像に縛られず、他者からの外見に関する評価に流されにくいとされている。

国際研究から見えてきた普遍性と差異
研究者がボディ・アプリシエーションの測定に用いるのが「BASー2」という尺度で、「自分の身体を尊重している」「自分の身体に愛情を感じる」といった質問項目で測定される。筆者が関わった国際研究*1では、65カ国・40言語の参加者たちにBAS-2の調査を実施し、ボディ・アプリシエーションが、一般的な幸福感や人生の満足感と同じく、心に肯定的に作用するものとして広く認識されていることが明らかとなった。
*1 Body appreciation around the world: Measurement invariance of the Body Appreciation Scale-2 (BAS-2) across 65 nations, 40 languages, gender identities, and age
一方で、ボディ・アプリシエーションの水準には国によって大きな差があるとの結果が示された。平均スコアが高かったのはマルタ、台湾、バングラデシュ、最も低かったのがオーストラリア、インド、英国だった。この理由として、西洋的価値観から文化的距離がある社会では、人々が自分の価値を外見と切り離して捉えていることが考えられる。また、女性より男性の方が水準が高く、年齢とともに高まることを示した研究もある。男性や高齢者のほうが、外見についての理想像を押し付けられにくいからだろうか。

ボディ・アプリシエーションを育む重要性
ボディ・アプリシエーションの感覚は、人生の早い段階で芽生える場合が多い。その健全な発達には、支えてくれる友人や励まし合える恋人の存在など、自分が受け入れられている、居場所があると感じられる社会的文脈が極めて重要となる。
ボディ・アプリシエーションが高い人ほど、健康的な食生活を送る傾向があり、摂食障害を患う可能性も低い。また、2022年に発表された240本もの関連研究のレビューによると、ボディ・アプリシエーションのレベルが高い人は、自己への思いやりや人生満足度が高く、不安や抑うつの症状が少ないなど、心の健康との関連性が示された。
西洋人を対象にした研究では、ボディ・アプリシエーションが高いと、リスクの高い性行動や過度の飲酒といった健康を損なう行動が減少することが報告されている。また、よりリベラルで、セクシュアリティを肯定的にとらえる姿勢、ポジティブな性体験にもつながることが明らかになっている。
さまざまな研究に一貫しているのは、ボディ・アプリシエーションの高さが、さまざまな肯定的な行動や意識の土台になり得るという点だ。自分の身体を大切に思う人は、身体が何を必要としているのかに敏感で、自分の身体とのつながりをより強く感じやすい。その結果、心身の健康を保ちたいという意欲が高まるのだ。
子どもや若者にとってはヨガや身体を使った遊び・運動も有益だ。ボディ・アプリシエーションとはどのような感覚なのかを子どもに伝えるための絵本もある。大人にとっては、たとえばダンスや運動、人物デッサン、自然の中を歩くことなど「身体を実感する」体験が、身体とのつながりを深め、ボディ・アプリシエーションを育てる助けとなるだろう。
著者
Viren Swami
Professor of Social Psychology, Anglia Ruskin University

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2024年2月2日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
サムネイル:Flash vector/ iStockphoto
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